ウォンテッド(2008年アメリカ)

Wanted

カザフスタン出身のティムール・ベクマンベトフが描いたSFエンターテイメント。

まぁ・・・映画の出来は、半分、人気女優アンジェリーナ・ジョリーの魅力に依存した作品で
映画の出来は及第点レヴェルだとは思いますけど、どこかインパクトに欠ける作品だったという印象ですね。

激し過ぎるカット割り、VFXを駆使して構成したヴィジュアル・センスがうすさ過ぎて、
一体この映画のセールス・ポイントは何なのだろうかと疑問に思ったまま、映画が終わってしまった。
キャスティング的にも、アンジェリーナ・ジョリーと比べて、平凡なサラリーマン青年を演じた、
ジェームズ・マカヴォイの存在感が弱く、アンジェリーナ・ジョリーのインパクトに完全に負けてしまっている。
もっともっと、作り手が映画全体のバランスを考慮できていれば、映画は変わっていたと思います。

秘密組織“フラタニティ”の面々が暗躍していることに、
ジェームズ・マカヴォイ演じる平凡なサラリーマンが触発されて、自らのポテンシャルを活かし始める姿を通して、
彼の父に関する秘密に迫っていくのですが、最後の最後までどうにも映画が盛り上がらない。

さすがにトンデモない距離から、貫通力抜群の銃弾を使ったスナイパーが
“フラタニティ”としての能力を使って、強烈なカーブを描きながら銃弾を命中させるなんて、
あまりに飛躍した描写から始める、この映画のオープニングは個人的には魅力的に映ったけれども、
残念ながらこの映画は、そのオープニング以降、一向に加速しない感じで冒頭のテンションがピークで終わってしまう。

かなり賛否両論であったことと思えますし、日本では血生臭い描写が多用された影響で、
レイティングの対象となるというビハインドがありながらも、よくそこそこヒットさせたなぁと感心する。
おそらく、アンジェリーナ・ジョリーの魅力で劇場動員があった部分もあったのでしょうねぇ。

本作がヒットしたおかげで、プロダクションは続編を製作しようと考えていたようで、
続編にもアンジェリーナ・ジョリーをキャスティングしようとしていたそうなのですが、
彼女が続編の製作自体と、もし続編があっても「引き受けるとは限らない」と後ろ向きなコメントを残し、
結果としてプロダクションの説得にも難色を示し続けたようですので、彼女自身、あまり思い入れは無いようですね。

確かに彼女が演じたフォックスもあまり大事に描かれたキャラクターという感じではなく、
映画の最後が最後なだけに、ここから続編が製作されても、チョット冷めちゃう部分はあるでしょうね。

映像表現としても、これを革新的かと言われると、個人的にはそれはビミョーだなぁ。
一つ一つのシーン演出も上手くは見えないし、いちいちスローモーションで表現されるのがウザったい。
銃弾が飛ぶ描写は当時としては新しい表現ではあったけど、例えば『マトリックス』のような新しさではない。
映像表現は、どことなく他の作品の寄せ集めみたいなところがあって、この程度ならすぐ古びてしまうでしょう。

強いて言えば、銃弾が人の身体を貫通する映像表現をクローズアップして描いており、
これは他作品には無い特徴なので、確かに撃たれることを体感させる点では秀でた表現だったとは思います。

ただ、酷い出来の映画だとは思いません。それなりに、しっかりとポイントを押さえています。

嫌な上司から散々いびられて、不当なまでに叱責されるハラスメントにあい、
会社の同僚で表向きの友人に恋人を寝取られて、それでも黙認する性格だった主人公が
“フラタニティ”と接近して、いざ久しぶりに帰宅すると、恋人の不満が爆発するところで、
それまでの冴えない性格を払拭するかのように、彼女の目の前でフォックスとキスを交わすシーンは確かにクールだ。

それまでに周囲の人に甘く見られ、自分を出せないという構図が定着していたところ、
突然、“フラタニティ”の連中とつるんで歩き始めると、当然、周囲の見方は変わってくるわけで、
主人公が周囲を見返すシーンまでのステップは、なかなか上手く表現できていたと思いますね。

ただねぇ・・・ここでもフォックスとのキスシーンも、やっぱりスローモーションにしちゃうわけですね。
ティムール・ベクマンベトフ自身がどう考えていたのかサッパリよく分かりませんけど、
さすがにここまでスローモーションに頼ってはいけませんね。ここまでいくと、あざとさばかりが残ってしまいます。

どうでもいい話しになりますけど、遠く離れたビルの屋上から寸分の狂いなく、
ライフルで撃たれるなんて、現実にあったら...それそれは恐ろしい話しですね(笑)。
高層ビルのオフィスであっても、外から狙撃される可能性があるという、部屋の窓際に行きたくなくなります。
映画の冒頭から、そんなエピソードが描かれていますが、さすがにビルの奥のエレベーターまで戻って、
まるで「よーい、ドン!」と助走をつけて走り出すのは笑ってしまいますけど、この冒頭はインパクト絶大。

個人的には、この冒頭は悪くなかっただけに、ここから一気に映画を“走らせて”欲しかったですね。
どうにも盛り上がらないまま終わってしまうのは、映画のエンジンをかけるタイミングを逸したからだと思う。
ハッキリ言って、“フラタニティ”の過酷な訓練シーンを見せられても盛り上がらないわけで、
この映画の場合は、映画の冒頭からテンション高く、一気にスピード感満点に見せないと、映画は盛り上がらない。

「つかみが肝心」とはよく言ったもので、この映画ももっとオープニングのテンションで
映画を押し進めるべきだったのではないかと思います。主人公の自己紹介で、一気にトーンダウンしたのが勿体ない。

キャスティング的には、アンジェリーナ・ジョリーは言うまでもないけど、
珍しいキャラクターで登場するモーガン・フリーマンはなんだか微妙な感じ。もっと彼はしっかり描いて欲しい。
この映画で良かったのは、チョイ役で出演したペクワースキー役を演じたテレンス・スタンプでしょう。

ややクセのある役でしたが、ストーリー上は重要なポイントに登場してきて、なんだか嬉しかったですね。

一時期かなりキツく批判されていた“破壊を楽しむハリウッド”を象徴するような
内容の映画ですので、本作に対してもかなり批判的な意見が出たのは仕方ないことだと思いますけど、
僕はそういう観点ではなく、単純に映画を構成する上での戦略ミスというか、編集の粗さが良くなかったと思います。

この映画、もっと上手い編集ができていれば、完成形の見栄えは変わっていた可能性があります。

余談ですが...傷を癒すための回復風呂という発想は面白かったですね。
ああいう発想は、アメリカには無い発想なのではないかと思えて、どこかヨーロッパ、若しくは日本的に感じます。
この回復風呂があるからこそ、主人公は訓練で何度も痛めつけられるし、しかも繰り返し痛めつけられる。
僕なら、こんなことが現実に起きて、何度も痛めつけられるならば...むしろ、回復風呂に入りたくない(笑)。
(監督がカザフスタンという寒い地域の出身だからというのも、あるのかな?)

この回復風呂で、アンジェリーナ・ジョリーの謎のサービス・ショットとしか思えない、
背中のショットがありますが、さすがにスタイル良いですねぇ。ただ、これは明らかにいらないシーンでしたが・・・。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[R−15]

監督 ティムール・ベクマンベトフ
製作 マーク・プラット
   ジム・レムリー
   ジェイソン・ネッター
原作 マーク・ミラー
   J・G・ジョーンズ
脚本 マイケル・ブラント
   デレク・ハース
   クリス・モーガン
撮影 ミッチェル・アムンドセン
編集 デビッド・ブレナー
音楽 ダニー・エルフマン
出演 アンジェリーナ・ジョリー
   ジェームズ・マカヴォイ
   モーガン・フリーマン
   テレンス・スタンプ
   トーマス・クレッチマン
   コモン
   クリステン・ヘイガー
   マーク・ウォーレン

2008年度アカデミー音響編集賞 ノミネート
2008年度アカデミー音響調整賞 ノミネート