ウォール・ストリート(2010年アメリカ)
Wall Street : Money Never Sleeps
マイケル・ダグラスがオスカーを獲得した、87年の『ウォール街』の続編である金融サスペンス。
マイケル・ダグラスも再び出演してますし、『ウォール街』のオリバー・ストーンが監督を担当している。
個人的にはオリバー・ストーンがどこまで力を入れていた企画だったのかは分からなかったのですが、
まるで『ウォール街』の同窓会のようなノリの作品で、少々、『ウォール街』よりも軽いタッチの作品に映りましたね。
内容的には、まぁまぁ面白かったのですが...それでも、どこかシックリ来ない。
勿論、株式証券の取引が2010年ともなると電子化されていて、80年代のバブル経済の頃から様変わりしていて、
8口八丁手八丁の駆け引きという感じではなくなっているのですが、それにしてもガツン!とくるパンチ力がない。
オリバー・ストーンの監督作品としては、どこか物足りなさがあるというか、
いつも精力的かつ情熱的なエネルギーに満ち溢れた作品という感じではないあたりが、少々弱いなぁというのが本音。
キャスティングもまぁまぁ豪華なのですが、ゲッコーが“過去の人”のように扱われていたものの、
まるで「復活」するかのように実刑判決を受けて、長く刑務所暮らしを終えてゲッコーが出所する姿から始まる。
この出だしは悪くはなかったと思うのですが、僕の中での印象は本作はゲッコーが何かコソコソとやり過ぎに見えた。
『ウォール街』では投資家のカリスマとして、ドッシリと構えて若手証券マンを手玉にとるように暗躍していたのですが、
本作ではむしろゲッコーがチャレンジャーのように描かれていることで、カリスマがいなくなってしまったように見える。
やっぱり、『ウォール街』を観て感じたのは、言葉では表現し尽くせないゲッコーのカリスマ性で、
前作で手玉にとられ、復讐心に燃える若き証券マンのバドにしたって、ゲッコーのカリスマ性に惹かれたわけですね。
ポマードでベタベタしてそうな長めの髪の毛を、櫛でオールバックにすることで一回で髪型を決めるマイケル・ダグラス。
そんな彼の所作一つ一つを見て、バドは完全に魅せられていたはずだ。ところが、本作のマイケル・ダグラスが
カチッと髪型を決めて、「戻って来たぞ」とニヤリとするのがあまりに遅すぎて、映画の終盤になってのことでした。
対する若き証券マンで、ゲッコーの娘と恋に落ちるジェイコブを演じたシャイア・ラブーフにカリスマ性は無いし、
バドと違って、ウォール街で成り上がろうとする強い野心がある若者という感じにも見えないのが、なんともツラい。
それと、全てを失ったゲッコーが「復活」するための方法として、スイスに逃がしていて
娘の名義に移していた多額の資産を利用するというのが、映画の後半のメインテーマになっていくのですが、
これが「金を所有するのではなく、動かすことで利益を得る」という投資家としての基本スタイルであったゲッコーが
まるで詐欺師のようなやり口で、投資家として返り咲くための原資を得ようとするのが、あまりにセコくて見てられない。
家族を大切にしていたゲッコーが、あんな簡単に身内を裏切ろうとする姿も説得力がないし、
映画のラストにしても、あんなに簡単に平和に収束できるということが信じ難い。どこか支離滅裂に映ってしまう。
やっぱり、ゲッコーはあくまで投資家のカリスマとして、少額投資から蘇り、
現代の取引のノウハウを会得して、天才的な投資家として君臨するくらいの重鎮感を出して、
その中で不和を迎えてしまった親子の葛藤や、スリリングな駆け引きから引き出されるドラマを描いて欲しかった。
なんか、ゲッコーも一緒になって最初っから、罠を張り巡らせて、自分を冷遇する連中に恨みを晴らそうと奔走して、
コソコソと必死になり過ぎている“庶民感”が強く出てしまっていて、前作にあったようなカリスマ性が無くなった。
映画の序盤に、出所したゲッコーが講演するシーンがありますけど、このシーンにしても同様だ。
「オレの本を買え!」を決めゼリフにしたかったのかもしれませんが、この台詞も含めてインパクトが弱い。
やっぱり前作『ウォール街』の株主総会でマイクを奪うようにして、経営陣を攻め立てる姿のインパクトに遠く及ばない。
これは若きジェイコブも同じことが言えて、彼が師と仰ぐ存在であった経営者のルウを失ったことで
その恨みを晴らすために、敵対会社の社長であるブレトンに取り入ろうとするなど、通俗的なドラマになってしまった。
これは証券界で成り上がっていく野心であるなら、前作『ウォール街』のカラーに通じるものがあるのですがね・・・。
勿論、ジェイコブなりに成功はしたかったのでしょうが、やっぱり見れば見るほど彼の行動は恨みを晴らすことにある。
これでは正直言って、本作の場合は面白く魅力的な映画にするのは難しかっただろうと思います。
いつものオリバー・ストーンの監督作品にあるようなエネルギッシュさやハイテンションさも希薄になってしまい、
前作にはあった、もっと人間の本質とも言える、底知れぬ欲望との闘いに肉薄する映画にして欲しかったですね。
本作が日本で劇場公開されるとき、丁度、東日本大震災の真っ只中だった記憶があって、
当初は日本でも扱いが大きかったのですが、震災の衝撃の大きさのあまり、いつの間にか劇場公開が終わっていて、
あまり大きな話題とならなかったのですが、それは映画の出来自体が話題性ほどではなかったからかもしれません。
それだけ、『ウォール街』の続編ともなれば本作に対する期待はとても大きかったと思われます。
チャーリー・シーンまでチョイ役で出演させたのですから、オリバー・ストーンも期待に応えたかったところだろう。
ところで、劇中、ジェイコブが所属していた証券会社が経営破綻するキッカケとなったものが、
いわゆる“風説の流布”というやつでして、株価を意図的に操作するために故意に虚偽の噂を流すということで
これは法律で禁止されていることだ。“風説の流布”による株価の変動はとても大きなものになることが多く、
これによって受ける被害は、巨額投資を行う大口投資家であればあるほど、大きな被害になりますからね。
ただ、本作の舞台となるのは2008年という時代で、既にインターネット社会だったので
この“風説の流布”の影響は大きい反面、大手の証券会社を経営破綻に追い込むほどの情報操作は容易じゃない。
ただ、この“風説の流布”というのは自社株や保有株の株価を釣り上げるのを目的に、何度も繰り返されています。
本作は08年に実際に起きた、リーマン・ショックやサブプライムローン問題をモデルにしていたと思う。
特にリーマン・ショックは、ローン商品であったサブプライムローンが供給過剰になって不良債権と化してしまい、
軒並み金融市場で平均価格が下落して、投資銀行の名門であったリーマン・ブラザーズが経営破綻したことで
連鎖的に世界中のマーケットで株価が大幅に下落し、世界的な金融危機が起こったことを意味しています。
日本でも、派遣切りなどといった言葉が生み出される社会現象を巻き起こし、年末の「派遣村」などが開かれました。
今となっては懐かしい出来事でしたけど、90年代後半から00年代前半にかけて続いた、
「就職氷河期」に就職期を迎えて、00年代前半から急速に進んだ人材派遣業に登録して働く世代が
思いっ切りリーマン・ショックの影響を受けたので、この影響は強く、15年以上経った今でも引きずっている人がいます。
長く続いた金融危機でしたが、結局は合衆国政府も大幅に市場介入し、時間をかけて難局を乗り切りました。
このリーマン・ショックは1929年の世界恐慌以来の大不況だったとも評され、今思えばスゴい出来事だったのですね。
正直、当時はまだ僕は自社株すら保有していなかったので、あまり実感も無かったのですが、歴史に残る出来事です。
少々、のん気なことを言ってしまいますが・・・
思わず当時、先見の明があれば...この株価下落のときに買っておけば良かった・・・と思えてなりません(苦笑)。
やっぱり株って、「安い時に買って、高い時に売る」というのが基本だと思うのでね。
たぶん、バブル期のゲッコーが成り上がったのは、この基本を忠実に行うために情報戦を制したのだろうし、
何より“売ること”ができたから、巨額の富を築けたのだろう。そう、僕はあらためて実感しますが、株は売るものです。
長く所有することも有りと言えば有りですが、やっぱり株は動かさないと利益を生まないということがポイントです。
ゲッコーのような成功者は、リターンが期待できる投資しかしないし、
投資をすると決断したときから、どのタイミングで売るのかを決めているのだろう。それくらい“売り時”が難しい。
まぁ、その“売り時”を見極めるために情報をゲットし、時にインサイダー取引になるようなことを行って、
結果的に収監された過去を持つゲッコーですが、前作『ウォール街』ではその情報をバドに求めていました。
しかし、本作では誰も信用していないということもありますが、自分でインターネットを通じて情報をゲットしていきます。
そんなゲッコーの変化が興味深いと言えば興味深いのですが、もうここまでいくと“ラスボス感”は無いですね(笑)。
別にゲッコーを悪の存在として描かなければならないという意味ではありませんが、
彼のようなカリスマ投資家ともてはやされた人物が、小市民と同じようなレヴェルで動くのが、どこか涙ぐましい(笑)。
(上映時間133分)
私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点
監督 オリバー・ストーン
製作 エドワード・R・プレスマン
エリック・コペロフ
脚本 アラン・ローブ
撮影 ロドリゴ・プリエト
編集 ジュリー・モンロー
デビッド・ブレナー
音楽 クレイグ・アームストロング
出演 マイケル・ダグラス
シャイア・ラブーフ
ジョシュ・ブローリン
キャリー・マリガン
スーザン・サランドン
イーライ・ウォラック
フランク・ランジェラ
オースティン・ペンドルトン
シルビア・マイルズ
オリバー・ストーン
チャーリー・シーン