ウォール街(1987年アメリカ)

Wall Street

これは確かに何度観ても面白い映画ですね。
社会派監督オリバー・ストーンが描く、世界経済を代表するニューヨークの中心街ウォール街。

ニューヨークの中堅証券会社で勤務するバドを中心にして、
成果が上がらない中で、偶然父の勤めるブルースター航空の収益に関わる情報を得て、
しつこく電話をかけ続けた、投資家のカリスマ的存在であるゴードン・ゲッコーに接近することができ、
インサイダー情報を流したことでゲッコーの仲間入りを果たし、上流階級の生活を知る姿を描きます。

成功者の哲学というのは、いつの世でも需要があるものですが、
ゲッコーのような金を右から左へ動かし一時的に所有することで儲けを得るという投資家のスタイル自体、
常に賛否はあると思うのですが、しかし、ゲッコーは一流大学の出ではなく、誰に帝王学を学んだわけではない。
ある種の学歴コンプレックスがあるのかもしれないが、「ハーバード出身は使えない」と豪語し、裕福な生活を謳歌する。

アメリカ経済が行き詰まりつつあった80年代半ば、日本との貿易摩擦などが社会問題化し、
アメリカという世界を代表する大国がNo.1ではなくなったと囁かれていた時代に、ゲッコーのような
“一人勝ち”に近いような富を築いた投資家がいたことも事実で、10年くらい前に自分の足で情報を得て、
中古アパートを投資目的で購入し売却して利益を得たことから、それを原資にして投資家として飛躍しました。

これはゲッコー自身が成功した原動力となったことは間違いなく、
彼の中に投資家としてのモラルがあれば、真のカリスマとして支持されたのでしょうけどね。

ゲッコーを演じたマイケル・ダグラスはアカデミー主演男優賞を獲得するわけですが、
それも納得の熱演で、映画の後半にあるテルダー製紙の株主総会で現行の経営陣を批判する演説は
間違いなく本作ハイライトであり、常にエナジーみなぎる立ち振る舞いなど、彼が作り上げたゲッコー像は実に印象的だ。

投資銀行の経営者であるゲッコーからすると常套手段なのかもしれませんが、
利益を上げるためには仲間を裏切ることも躊躇せず、「これは金になる」と目を付けた株式を買い付けるためには、
手段を選ばない非道、かつ非情さだ。だから彼は言う、「愛などは存在しない」と。別に彼の人生や生活を考えると、
もう無理をして大金を得続ける必要はないわけで、悠々自適に困らない程度に会社経営する選択肢もあった。

しかし、それでも手段を選ばず日銭を稼ぐことを止められないというのは、
彼は会社経営を通して、何かをやり遂げたいとか、そういったことはなく、あるのは勝ち負けだけということ。
言わば、ゲッコーにとってはマネーゲームにしかすぎず、彼はとにかくゲームに勝ちたいだけということなのだろう。

これは投資家が関われば、必ず企業買収につきまとう問題なわけですが、
経営再建に投資家が絡んでくるということは、当然、企業買収すれば投資家にとってベネフィットがあるからで、
そのベネフィットは金銭としての利益であることが往々として多い。経営が傾いた企業を買収するということは、
本作の中でも描かれている通り、当然のように人員整理と企業規模の縮小を行って、利益をとれる部分を残し、
収益性を高めて、その利益を得る。そういったベネフィットがない限り、投資家が企業を救うということは考えにくい。

でも、経営状態が悪くなって傾いた会社を存続させるためには、
こういった救いの手があるのであれば、それに頼らざるをえないというのは、僕は仕方がないことだと思います。

ゲッコーの姿、主張を見ていて、欧米型企業の論理を垣間見た気がします。
チームで動く部分はあるのですが、ゲッコーなりに「情報の取り方、稼ぎ方を教えてやったのに、裏切りやがって!」と
激怒しますが、よくよく映画を観ると、ゲッコーはバドに対して事細かく何かを教えたということは無い。
勿論、大局的な見地から俯瞰して、ああしろこうしろと指示を出しますが、とどのつまりは自分で考えてやれということ。

よく外資系企業に行くと、自分で切り開いてやった上での成果主義であって、
懇切丁寧に教育があるわけではなく、手取り足取り丁寧になんか教えてくれないよという話しを聞きます。

シビアに成果を評価するのだろうし、バドはゲッコーに「後悔させません、一生懸命やります!」と言いますが、
それに対してゲッコーは「そうじゃない。オレを驚かせろ」と返答します。これは並みの成果では仲間にできず、
標準を遥かに上回る成果をあげてこそ、ゲッコーは認めるという論理で成果を上げれば手段は問わないというわけ。

日本人はPDCAサイクルとかが好きなので、プロセス管理とか目標管理とか、
欧米企業のような成果主義とは対極にあるマネジメントを採用している。それはそれで良さがあるので、
別に日本企業の考え方を否定はしませんが、確かに日本企業のような考え方ではゲッコーの哲学は馴染まないだろう。

でも、この80年代半ばに日本企業が世界経済で席巻するほど
勢いがあるバブル経済を迎える原動力の一つとして、日本型の品質管理手法というのはあったと思うのですよね。
(まぁ・・・その反動は極めて大きく、バブル崩壊の余波を未だに日本経済は抱えていますがねぇ...)

一つだけ気になるのは、ゲッコーは大胆な投資行動をとり、違法行為にも手を染めるという
アウトローではあるものの、彼の主義主張や方法論を聞いていると、凄く警戒心の強い人間であったはずだ。

実際に劇中、ゲッコーはバドに対して、「SEC(証券取引委員会)に注意しろよ」と警告していて、
ゲッコーが経営する投資銀行の情報入手力からすると、証券取引委員会の動きには注意していたことでしょう。
結果として、映画の終盤にバドは証券取引委員会に目をつけられてしまい、大きな代償を払うハメになるのですが、
そんなバドのこともゲッコーぐらいになれば把握していたはずで、それでもバドを呼びつけて接触するなんて、
そんな警戒心の強い大物投資家がすることとは思えない。この映画の中で、ここは気になってしまいましたね。

往々にして、オリバー・ストーンの監督作品って説教臭い内容になることが多いのですが、
本作はそこまで説教臭くなることなく、相応にエンターテイメント性を持って映画が成立しています。
内容もそこまでヘヴィなものでもないので観易いですし、金融業界の内幕を描いた作品としては優秀な出来です。

もう一つあるのは、ゲッコーとライバル関係にあるイギリス人投資家のワイルドマンの存在で
この役にテレンス・スタンプをキャスティングするという豪華さなのですが、彼ももっとしっかり描いて欲しかった。
と言うのも、僕にはこの映画を観ただけでは、ワイルドマンも信用できる投資家であるのかが判断つかなかった。

ブルースター航空をゲッコーから守るためにと、このワイルドマンの存在が重要になってくるのですが、
ワイルドマンを頼るにしても、あの時点でいきなり彼に頼りっきりになるというのが、今一つピンと来なかった。

この辺をしっかり描いてさえいれば、この映画は傑作と言ってもいいレヴェルだったと思う。
マイケル・ダグラスは評価されたけれども、映画自体が映画賞レースではほぼ無視されたのは分かる気がします。
金融業界に興味がある人にとっては楽しめるのだけれども、映画としての醍醐味を問われると微妙なところ。

元々は3時間近い大作になるところだったのを、編集でカットしまくって2時間ほどに収めたとのこと。
さすがに金融業界に興味のない人にとって、この調子で3時間近い映画になるのは、ほぼ苦行でしょうね。。。

インサイダー取引については、最近でこそ事件化しますが、これは80年代は事件化が稀だったそうだ。
確かに親戚やら友人やら、情報源となりうる接点は数多くあり、現実にはインサイダー情報を得て、
株式取引を有利に進めることは、立件されていない“裏の”事例は多くあるような気がします。
そういう意味では、本作はインサイダー取引についてクローズアップした貴重なキッカケだったのかもしれません。

本作の教訓は、いろんな意味でアクションを自分で起こした者が勝利するということなのでしょう。

(上映時間125分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 オリバー・ストーン
製作 エドワード・R・プレスマン
脚本 スタンリー・ワイザー
   オリバー・ストーン
撮影 ロバート・リチャードソン
美術 ジョン・ジェイ・ムーア
   ヒルダ・スターク
編集 クレア・シンプソン
音楽 スチュワート・コープランド
出演 マイケル・ダグラス
   チャーリー・シーン
   ダリル・ハンナ
   マーチン・シーン
   テレンス・スタンプ
   ショーン・ヤング
   ハル・ホルブルック
   シルヴィア・マイルズ
   ジェームズ・スペイダー
   ジョン・C・マッギンレー
   ミリー・パーキンス

1987年度アカデミー主演男優賞(マイケル・ダグラス) 受賞
1987年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(マイケル・ダグラス) 受賞
1987年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演女優賞(ダリル・ハンナ) 受賞