ウォーク・ザ・ライン/君につづく道(2005年アメリカ)

Walk The Line

伝説のカントリー・シンガー、ジョニー・キャッシュと彼が40回も結婚を申し込みながらも、
断り続けたジューン・カーターの恋愛を、深刻なドラッグ中毒との闘いと並行して描いた伝記ドラマ。

確かにこの映画、2時間を越えるヴォリューム感のある内容ではあるのですが、
実に堅実にアッサリと観れてしまいます。安定感ある映画であり、映画の出来自体も良いです。
監督は『17歳のカルテ』のジェームズ・マンゴールドですが、本作はかなり頑張りましたね。
僕は『17歳のカルテ』も悪くはないとは思いましたが、出演陣に助けられている部分が大きく、
単純に映画の出来が優れていたとまでは言えず、微妙な印象があっただけに今回は満足ですね。

まぁ多少は映画用に脚色した部分はあるとは思いますが、
歌手ジョニー・キャッシュの波乱万丈のツアー生活を知るには、起伏に富んだ充実した内容だと思います。

酒に溺れ、粗暴な振る舞いを繰り返し、ジョニーの幼少期に強く影響を与えた父親がインパクト絶大で、
僕は映画を観ながら、「この憎たらしいオヤヂ、誰かに似てんだよなぁ〜」なんて思っていたら、
彼は『ターミネーター2』で“T−1000”を演じていたロバート・パトリックでしたか。

まさかこんな演技派な感じで再会するとは思ってもいなかったことですが(笑)、
成功したジョニーの家を訪ねて、食事中にジョニーと口論になるシーンは抜群の視線だし、
映画のラストシーンで孫娘にせがまれて糸電話で話しをしてやろうとするシーンも傑出している。

過去に実在の歌手の半生を映像化した映画というのは数多くありましたが、
ある程度の重みを活かしながら、それでいて重苦しさのないドラマに仕立てられたのは本作だけだろう。
例えばジェリー・リー・ルイスを主人公にした89年の『グレート・ボールズ・オブ・ファイヤー』では軽過ぎるし、
チャーリー・パーカーを主人公にした88年の『バード』や04年の『Ray/レイ』では重過ぎるのです。
(勘違いしないで欲しい、これらの作品は決して出来の悪い映画ということではない)

要するに比較的観易い映画として、本作は実に優れた内容であるということなのです。

実在のジョニー・キャッシュはかなり破天荒な生活を50年代後半から送っていました。
最初の妻ヴィヴィをメンフィスに残してセールスの仕事を捨て歌手になったジョニーですが、
次から次へとやってくるツアー生活の日々の中で、ドラッグに手を染めるようになります。

65年、彼はアンフェタミンを所持していたことにより検挙され、
その後も薬物の使用は続いてたそうで、数々のトラブルを起こし、ヴィヴィとの結婚生活は破綻します。

しかし、長年、恋愛感情を抱き続けたジューンと再びツアーを共にするようになり、
より深刻化したジョニーの薬物中毒を救うべく、ジューンは家族と共にジョニーの離脱に協力します。
やがて2人は結婚し、ジョニーは歌手としてではなく芸能人として大成功を収めるようになります。

残念ながら映画はジョニーがジューンと結ばれるところで終わってしまうのですが、
薬物離脱治療中に彼は自分が刑務所に収監されている囚人たちに人気があることに気づいて、
68年1月、フォルサム刑務所でバンドを率いてライヴを敢行。その模様を録音し、実況盤とすることを提案します。
当初、レコード会社はこのジョニーの提案に難色を示しましたが、録音を聴いて発売を決断します。

そうして発表された『At Folsom Prison』(アット・フォルサム・プリズン)は大ヒットとなり、
彼はトップシーンに見事、カムバックしてきます。そして活躍の舞台はテレビ界にも及び、
69年、『ジョニー・キャッシュ・ショー』なる彼の看板番組が放送され、多くのミュージシャンをゲストに迎えました。

以降、彼は音楽界の重鎮、そしてある種のエンターティナーとして成功を収め、
03年5月のジューン・カーターの死まで、終生変わらぬパートナーとして彼女の側に寄り添い続け、
彼女の死の4ヵ月後に、まるで後を追うようにしてジョニーもまた他界するという運命を辿ります。

この映画、特筆したいのは音が凄く良いこと。
あまり大爆音で観ると近所迷惑だからできないんだけど(笑)、この録音には正直、感動した。
何度か登場してくるジョニーのライヴ・シーンでの生音と錯覚させられる音の良さには驚かされますね。
この音の良さには、作り手たちの並々ならぬこだわりの強さを実感しますね。これは実に良い仕事です。
そういう意味で音響環境の良い場所で鑑賞できる人には、そこそこオススメできる映画ですね。

音楽をメインにした映画でこういうこだわりがあるというのは、凄く嬉しいですね。

本作は現時点でジェームズ・マンゴールドのベストということは間違いないと思います。
映画のバランスという点で優れているし、それから派生してトータル感にも優れている。

ただ一つ勿体ないのは、ジョニーの最初の妻ヴィヴィの描き方かな。
確かにジョニー自身、凄く申し訳ないことをしたという想いはあるのだろうが、
やや中立的な視点から描き切れていないせいか、嫉妬深く理解ない女性として描かれ過ぎた傾向はある。
詳細は僕には分からないけど、ここまでジョニーの仕事や性格に理解がないというのは、
さすがに中立的な目線で彼女を観れなくなってしまうという点へと、誘導している気がします。

ヴィヴィをあくまで理想の女性として描きながらも、
それでもジョニーはジューンに運命を感じ、ジューンにアプローチを続けるという流れの方が、
よりジョニーとジューンの運命を強さをアピールすることができたと思うんですよね。
その方がジョニーとジューンのロマンスそのものを、もっと強く描けたはずなのです。

この辺を実現できれば、僕は映画がより説得力を持ち、更に訴求した映画にできたと思います。

(上映時間135分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

日本公開時[PG−12]

監督 ジェームズ・マンゴールド
製作 ジェームズ・キーチ
    キャシー・コンラッド
原作 ジョニー・キャッシュ
脚本 ギル・デニス
    ジェームズ・マンゴールド
撮影 フェドン・パパマイケル
美術 デビッド・J・ボンバ
衣装 アリアンヌ・フィリップス
編集 マイケル・マカスカー
音楽 T=ボーン・バーネット
出演 ホアキン・フェニックス
    リース・ウィザースプーン
    ジニファー・グッドウィン
    ロバート・パトリック
    ダラス・ロバーツ
    シェルビー・リン
    ダン・ジョン・ミラー
    ラリー・バグビー

2005年度アカデミー主演男優賞(ホアキン・フェニックス) ノミネート
2005年度アカデミー主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度アカデミー衣裳デザイン賞(アリアンヌ・フィリップス) ノミネート
2005年度アカデミー音響賞 ノミネート
2005年度アカデミー編集賞(マイケル・マカスカー) ノミネート
2005年度全米俳優組合賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度全米映画批評家協会賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度ボストン映画批評家協会賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度ラスベガス映画批評家協会賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度ワシントンD.C.映画批評家協会賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度サンフランシスコ映画批評家協会賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度ユタ映画批評家協会賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度フロリダ映画批評家協会賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度カンザスシティ映画批評家協会賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>作品賞 受賞
2005年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>主演男優賞(ホフキン・フェニックス) 受賞
2005年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
2005年度イギリス・アカデミー音響賞 受賞