ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ(1997年アメリカ)

Wag The Dog

劇場公開当時、「現実ソックリ!」みたいな触れ込みで口コミで話題となっていたと記憶してますが、
アメリカ大統領選挙直前に合衆国大統領がホワイトハウス内でまさかのスキャンダルを巻き起こし、
それが新聞に漏れてしまったことから、“もみ消し屋”が裏世界で暗躍する様子を描いたコメディ映画。

監督は『レインマン』のバリー・レビンソンで、今回は大作主義的な作品ではなく、どちらかと言えば、小品だ。

何より本作は、当時からハリウッドを代表するベテラン俳優だった、
ダスティン・ホフマンとデ・ニーロが96年の『スリーパーズ』に続いて共演したことで、
しかも『スリーパーズ』以上に共演シーンが多いことで話題となりましたが、これはそこまで期待するほどではない。

確かにこれを観たら、世の中のニュース映像のほとんどが信じられなくなるぐらい、
現実感あるストーリー展開なので、マスメディアに対する風刺がとても強い映画に仕上がっているとは思う。

但し、どうしても映画の出来がそんなに良いものだとは思えない。
ラストもあまりに訴求しない弱い締めくくりに、バリー・レビンソンの悪い癖が出ていると思います。
どうせなら、もっと力強く描いて欲しかったし、映画の最後の最後まで強烈な風刺でも良かったと思うのですが、
何故か本作はラストで急激に現実に引き戻すかのように、冷徹な現実を映すわけで、これが今一つフィットしない。

せっかくの豪華キャストを実現させたにも関わらず、
さすがにこういう中途半端な出来では、あまりに勿体ない結果だと思いますけどね。
製作にデ・ニーロも加わっていますから、決して手抜きな仕事ではないだろうとは思いますが、
“もみ消し屋”の姿を敢えて、現実的に見せてしまったという選択が、僕は間違いだったと思いますね。

ハッキリ言って、この映画で描かれる出来事はあまりに非現実的です。
いくら現実世界の政治で似たような出来事があったとは言え、いくらなんでも現職の合衆国大統領が
ホワイトハウスに社会科見学で訪れたガールスカウトに性的いたずらをしたなんて事件は、
ちっとやそっとじゃもみ消すことなんかできないだろうし、歴史に残る大事件として名を残すだろう。
だったら、いっそのこと、もっとドラスティックに派手な喜劇にした方が、僕はずっと良い映画になっただろうと思う。

本作は全体的に動きが少なく、ニヤリとするにも微妙な感じかな。
ひょっとしたら、アメリカ政治に詳しい人なら、もっと楽しめるのかもしれませんけど、
もう少し動きがあって、一つぐらい派手に笑わせてくれるシーンがあった方が、良かったと思うんですよね。

まぁバリー・レビンソンはコメディ映画を専門に活動している映像作家ではありませんから、
どういう風にアプローチしたらいいのか、よく分からないのかもしれませんが、
それにしても、彼がどういう本作をどういう方向性を持って、描きたかったのか、よく分からないのが残念でした。

まぁ・・・強いて言えば、この映画はスキャンダルを起こした合衆国大統領が
一度も真正面からフィルムに映らないのですが、もみ消し屋に散々、文句を言われた挙句、
マスコミを使って世論をミスリードするために、映画プロデューサーの助言に基づいて、
台詞を言わされているというのが面白くって、ただの厄介者扱いされているというのがユニーク。

ただ、原作があるから仕方ないのでしょうが、
この映画のクライマックスで、ダスティン・ホフマン演じる敏腕映画プロデューサーが、
自分が全く評価されないことに不満を露わにして、「名声が欲しい!」と訴え始めるというのはイマイチかな。

確かに名誉欲が強い人がいるってことぐらいは分かりますが、もう少し丁寧に描いて欲しかったですね。
自分がハッキリと政治スキャンダルのもみ消し屋と付き合っているということを認識しておきながら、
最後の最後で自身の危険を顧みず名誉欲や、芸術家としての達成感を主張し始めるというのは説得力が無い。

最後のオチとしては、これでもいいのかもしれませんが、
問題はオチに至るまでの過程を大切にして欲しかったということなんですよね。
できることであれば、もう少しダスティン・ホフマン演じる映画プロデューサーが、もみ消し屋の思惑との
ギャップをどのようにして感じ取り、それが我慢できなくなっていくのか、もう少しジックリ描いて欲しかった。
少なくとも僕には、この映画の終盤の展開は凄く乱暴に感じられてしまったんですよね。
(まぁ・・・ホントは撮影だけはされていて、編集の段階で“落とされて”しまったのかもしれないけど・・・)

まぁおそらく、本作が劇場公開直後に元合衆国大統領のビル・クリントンが、
秘書だったモニカ・ルインスキーとのセンセーショナルなスキャンダルが話題になったから、
現実の報道とリンクして、映画自体が大きな話題となったのでしょうが、今はまた世界が変わりましたからねぇ。

インターネットは当時と比べても、格段に浸透したし、
マスメディアの印象操作とも解釈できるような、偏向的な報道も非難され易くなっており、
さすがに本作で描かれたように、戦争をでっち上げるなんてことは、到底、無理なことだと思う。

但し、ウィリー・ネルソンを出演させてまでも、
ダスティン・ホフマン演じる映画プロデューサーが主題歌を作らせて、世論を盛り上げようとするのですが、
この発想自体が、さながら『We Are The World』(ウィー・アー・ザ・ワールド)のようで可笑しかったですね。
それにしても、せっかく作った歌だったのに、レコーディング会場でデ・ニーロに「うるさいなぁ!」と言われるなんて、
ウィリー・ネルソンが意を決して出演した作品なだけに、あまりに可哀想な扱いの悪さだったのが印象的だ。

劇場予告編でも使われていたシーンではありますが、
「この仕事は履歴書に書いていいの?」とデ・ニーロに「それは困るな」と諭される、
駆け出しの新人女優を演じたのが、子役時代のキルスティン・ダンストなのは有名ですが、
デ・ニーロに接触するCIA捜査官を演じたのがウィリアム・H・メイシーと、脇役は地味に豪華。

ただ、もっとこういう脇役キャラクターは大切にして欲しかった。
女性側近として登場したアン・ヘッシュは悪くないけど、彼女以外はまるで面白味が無い。
こういう部分を観ると、どうも僕にはバリー・レビンソンという映像作家の腕が、信用できないのですよね。。。

(上映時間96分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 バリー・レビンソン
製作 ジェーン・ローゼンタール
    ロバート・デ・ニーロ
    バリー・レビンソン
原作 ラリー・バインハート
脚本 ビラリー・ヘンキン
    デビッド・マメット
撮影 ロバート・リチャードソン
音楽 マーク・ノップラー
出演 ダスティン・ホフマン
    ロバート・デ・ニーロ
    アン・ヘッシュ
    ウディ・ハレルソン
    デニス・レアリー
    ウィリー・ネルソン
    キルスティン・ダンスト
    ウィリアム・H・メイシー

1997年度アカデミー主演男優賞(ダスティン・ホフマン) ノミネート
1997年度アカデミー脚色賞(ビラリー・ヘンキン、デビッド・マメット) ノミネート
1998年度ベルリン国際映画祭銀熊賞 受賞