ヴァイラス(1998年アメリカ)

Virus

これは結構なトンデモ映画ですね(笑)。

映画はロシアの宇宙船と交信して、様々な活動を行っていたロシア船籍の大型船が、
突如として宇宙船から発せられた謎の電波にやられて、漂流し続けた結果、乗組員は大量に死んでしまい、
そこへ漂流船を発見したと、喜び勇んだ数人のアメリカ船籍の船のクルーたちの攻防を描いたサスペンス映画。

映画の本編の中身、その出来からしてB級テイストがプンプン漂っているのですが、
今となっては信じられないことに、“このクラス”の映画が地方都市でも拡大公開されていましたからぇ。

タイトルから想像すると、ウイルス・パニックを描いた映画なのかと誤解を生みやすいですが、
実際にはそうではなくってウイルスを例えとして、漂流船の電気系統に寄生するかのように操って、
まるで意思があるかのように漂流船を奪おうとするアメリカ人クルーたちに襲い掛かる様子を描いているのです。
この寄生したものが生命体であるかはハッキリと描かれないのですが、宇宙からやって来たという設定だ。

アメリカ船籍のシースター号女性クルーを演じたのがジェイミー・リー・カーチスで、
そのシースター号の船長にドナルド・サザーランド、ロシアの漂流船の生き残りにジョアンア・パクラという、
とても渋くも魅力的なキャスティングを実現した作品で、こういうB級テイストがプンプンな映画とは意外な感じがする。

まぁ、『ターミネーター2』などで視覚効果を担当したジョン・ブルーノの監督デビュー作ですから、
こういう内容の映画になることは当たり前なのかもしれませんが、このキャスティングはなんとも絶妙です。

特にどこか偏屈で強硬に自分の論理で動く、ベテラン船長を演じたドナルド・サザーランドは印象的で
偏見丸出しで自分の先入観による決め付けだけで動くので、クルーたちとは微妙な距離感があって、
特にジェイミー・リー・カーチス演じる女性クルーとの衝突は決定的で、感情的になった彼女から殴られたりして、
全く頼れるキャプテンではないのですが、映画の終盤ではロボットに改造された姿を、何故か嬉々として演じている。

ドナルド・サザーランドも意外とこういうB級映画が好きで、たまにこういう映画に出演しているんですよね。

宇宙から来た謎の生命体は、実体がよく分からない存在なのですが、
殺害した人間の身体を宿主として、自分たちの意思を行動するロボットに改造するという方法で
自分たちの仲間を増やしていきますが、これは過去の映画でも使い古されたネタではあるけど、悪くないと思う。
ただ、一つ一つの見せ方が平坦で今一つ特徴がない。ロボットの描写も頭に埋め込まれた基盤を確認したりしますが、
少しだけグロテスクな描写があるものの、映画全体ではそこまでグロテスクな描写が多かったわけではありません。

まぁ、『ターミネーター』と『エイリアン』が融合したような内容の映画だと思えば間違いないのですが、
船内でパニックに陥る描写も全体的に甘く、あまり観客がハラハラ・ドキドキさせられるシーンが長続きしない。
この辺はジョン・ブルーノのアプローチは間違いではないけど、一つ一つの見せ方があんまり上手くないので、
タラレバを言っても仕方がないけど、もう少しこの手のホラー映画を撮った経験がある人が加わった方が良かったなぁ。

昔だったら、ジョン・カーペンターとかが撮っていたかもしれませんが、
もっと生命体の存在をグロテスクに描いていただろうし、もっと人間への執着をしつこく描いていたでしょう。
それに対して本作は全体にアッサリし過ぎです。もっと執拗にネチっこく描かないと、この手の映画は盛り上がらない。

映画の序盤にしても、ドナルド・サザーランド演じる船長が積み荷について執着していて、
いろいろと彼の理屈を主張するわけですが、“海の男”に徹するキャプテンではなく、金に徹するキャプテンなので
そうであるのなら、積み荷を台風に由来する高波で失ってしまうパニックも、もっとしっかり描いて欲しかったし、
クルーたちとの温度差なんかが、もっと映画の根幹を支えるものとして描かなければ、後半に生きないと思うのです。

そのせいか、全てのエピソードが唐突に感じられたり、“ブツ切り感”が妙に強く感じてしまう。
まぁ・・・本作にそんな細かいことを求めても仕方がないということなのかもしれないが、なんだか勿体なく感じてしまう。

本作が製作された頃は、徐々に懐かしの「2000年問題」がクローズアップされつつあった頃で、
“Y2K”とも呼ばれていました。当時は高校生にはなってましたけど、具体的にどんな障害が起こることが
懸念されていたのか、しっかりと理解していなかったので大した問題ではないと、根拠なく思い込んでいましたが、
社会インフラにも影響が出る可能性があったわけで、既に大部分がシステム化されていたので、今になって思えば、
これは大変な問題でしたね。まぁ・・・幸いにも、大きなトラブルや事故がなく、2000年を迎えることになりましたが・・・。

本作で描かれたことも、言わばコンピューター・ウイルスを生命体にモジったような感覚だと思いますし、
宇宙開発含めて、あらゆることがシステム化され、それがウイルス感染してしまったら大変なことになってしまい、
正しく「2000年問題」のように社会全体に及ぶ問題に発展することを、パニック映画に置き換えたということなのだろう。

それは良いんだけど、それならば尚更のこと、もっと恐怖心を煽るような内容であって欲しかったなぁ。
主演にかつて『ザ・フォッグ』などホラー映画で活躍して、『ブルー・スチール』などのアクション映画にも出演していた、
ジェイミー・リー・カーチスが主演なので、もっと彼女に襲い掛かる恐怖というのを積極的に描いても良かったなぁ。

正直言って、B級映画としても中途半端なんですよね〜(苦笑)。
だから余計にタチが悪い(笑)。まぁ、前述したロボットなんかはチープで見方によっては面白いのだけど、
その割りには、人間たちがロケット・ランチャーを打ち込んだり、チープさとは対極するような反撃を繰り返している。
オマケにこのロボット、どこをやられると致命傷になるのかが、映画の最後の最後まで明らかにされない。

これって、僕はハッキリとさせて欲しいところなんですよね。だって、恐怖に駆られながらも反撃するわけですよね。
その反撃がどうすれば成功なのかが、不明瞭なのはフェアに映らない。これが不死身だというなら、理解しますが・・・。

まぁ、映画のヴォリューム感としては丁度良いところだし、思い切ってB級テイスト満開なら、
本作はきっとカルト・フィルムとして称えられていたと思う。その“土台”となる要素はしっかりと揃っている作品だ。
そこを中途半端に一級品に見せようとする、作り手の邪推がかなり入り込んでしまっているように僕には観えた。
ただ、それが本作に限っては邪魔なんですね。もっとB級映画らしく、チープな魅力を追求すればいいのです。

だから思うのです。ドナルド・サザーランドもロボットの特殊メイクまでして頑張ったけど、
チョットこれは彼のハッスルを無駄にしてしまったなぁ...と。なかなか、ここまで付き合ってくれることは無いですよ。
逆にここまでのことをドナルド・サザーランドに演じさせたってのは、それはそれで本作のスゴさかもしれませんが・・・。

少しだけ面白かったのは、漂流船の中でのミニマムな闘いなのかと思いきや、
この生命体が電磁波であらゆる媒体とコネクトできることから、海底ケーブルなどにアクセスできると
その有線を使って世界に広がって、地球滅亡の危機に陥る可能性があるから、クルーたちが闘っているということだ。
つまり、狭い世界の物語なのかと思いきや、実は地球滅亡の危機を救うという実に大きな命題があるということです。

全くそんなスケール感の映画に観えないところが、また賛否分かれるところだとは思いますが、
この辺はB級映画にありがちなところですから、やっぱり本作は金をかけたB級映画ということなのでしょうね。
あまり期待を大きくかけられるとキツいですが、そういうB級SF映画として観るなら、僕は“有り”だとは思っています。

ただ、クドいようですが、その路線も中途半端ですけどね・・・。
映画の序盤でロシア船内で、生命体から謎の電磁波攻撃を受けるシーンがありますけど、
このシーンが現実にはありえないほど、謎に不自然な火花をあげまくるという演出でスゴいチープ感丸出し(笑)。
僕は最後まで、この路線で押し切れば良かったのに・・・と思っていて、秘密基地が襲われてる感がスゴい好き。

結局、意思を持って人間を「異物」として排除しようと攻撃してくる生命体なわけですから、
生命体側から見れば、人間がウイルスなのかもしれませんね。こういう言い方をすると、人間社会への警鐘という、
この手の映画にありがちな問題提起を言う人もいますが、本作からはそんな哲学的なメッセージは一切感じません。

個人的にはリドリー・スコットがこういう映画を撮ったら、どんな出来映えになるかが興味あるのですがね・・・。

(上映時間99分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ジョン・ブルーノ
製作 ゲイル・アン・ハード
原案 チャック・ファーラー
脚本 チャック・ファーラー
   デニス・フェルドマン
撮影 デビッド・エグビー
編集 M・スコット・スミス
音楽 ジョエル・マクニーリイ
出演 ジェイミー・リー・カーチス
   ウィリアム・ボールドウィン
   ドナルド・サザーランド
   ジョアンナ・パクラ
   マーシャ・ベル