それでも恋するバルセロナ(2008年スペイン・アメリカ合作)

Vicky Cristina Barcelona

まぁウディ・アレンの映画という意味では、ごくごく標準的な出来だと思う。

と言うのも、劇場公開時の評判がなかなか良かったので、
個人的には結構、期待が大きかった作品だったことは否定できないのですが...
それを考慮すると、あくまで僕の中ではやや期待を膨らませ過ぎたかと反省する結果となりました(苦笑)。

映画は、色恋もののように感じられますが、これは観光映画。
ハッキリ言って、恋愛に関する描写よりも、スペインの抜群なロケーションばかりが光ります。

確かにレベッカ・ホール演じるヴィッキーが婚約者がありながらも、
スペインのセクシーな画家ファン・アントニオを忘れられなくなり、恋してしまうエピソードは魅力がある。
婚約者が怒ることは気づきながらも、2人っきりで食事してしまうなんてシーンも上手く撮れている。
それらが別にドロドロしたドラマとして展開するわけではなく、ウディ・アレン流に上手く料理されている。

が、それ以上のものはこの映画には無かったかな。もう少し、やってくれてると期待はしていたのだけれども。。。

あくまでウディ・アレンをアベレージの高い映像作家であると前提すると、
本作は標準的な出来だとは思うのですが、これがまた、一つ上手くアクセントが付いている。
それは主に映画の後半で登場してくる、ファン・アントニオの元妻マリアを演じたペネロペ・クルスの力演だ。

さすがは色々な映画賞で賞賛されただけあって、今回は随分と気合が入っていて、良いですね。

一方、映画の作りを考えると、あくまでウディ・アレンの映画という意味では不満が残るところはあるなぁ。
厳しい言い方だけど、これならば最近では『メリンダとメリンダ』の方がずっと面白かった。
キャスティングには明らかに恵まれてるし、事実、出演者たちのパフォーマンスは最高に良かった。
ところが映画の出来がイマイチに感じられるのは、やはり作り方に問題があったからではないでしょうか。

本作を観ていて、一つ気になって仕方がなかったのは...
映画の冒頭から最後までしつこく流れるナレーションがあまりにクド過ぎることですね。
これは劇場公開時から指摘されていた点ではありますが、僕もやり過ぎな感があることは否めなかった。

これまでウディ・アレンの映画は、ナレーションを多用してきたことは周知の事実ですが、
本作では観ていても十分に感じ取れるような部分も、おせっかい半分で解説するもんだから、
映画が全体的にクドくなってしまい、映画の味わいが半減しているようなイメージがありますね。
(まぁ・・・僕は映画は少しクドいぐらいが丁度良いとは思うんだけど、その“少し”の加減が難しい・・・)

が、それでもさすがはウディ・アレン。最後まで飽きない映画にはなっている。

何と言っても、スペインの開放的な雰囲気を丸出しにしたようなファン・アントニオのキャラクターが面白い。
おそらく実際にスペインに行ったら、ああいう男がいるんだろうが(笑)、常に眠たそうな目をしながらも、
オシャレなレストランで野生的に食事をし、男性的なフェロモンを漂わせながら、積極的に女性をベッドに誘う。
日本でこれやったら犯罪的だけど(笑)、何故か知らないけど、スペインだから許されると言わんばかり(笑)。

そんなファン・アントニオがマリアと再び別離し、次の依存対象を探すためにと、
結婚したヴィッキーを誘惑するなんて、往生際の悪さと、たくましいほどの性欲の強さがある意味で凄い(笑)。
またヴィッキーもまんざらじゃないような隙を見せてしまうなんて、まるでスペインの空気がそうさせるかのよう。

恋のマジックなんて言っちゃうと、少しキレイ過ぎるような気もするけど、
ウディ・アレンが本作を通して描きたかったのは、艶笑喜劇であることは明白であり、
どんな性格の女性をも開放的なマインドに変えてしまう、スペインのマジックをベースにしていると思いますね。
倫理的には破綻した部分があるんだけど、そんなことを覆すぐらいの説得力はあると思いますね。

パトリシア・クラークソン演じるジュディの存在意義が映画の終盤まで不透明だったのですが、
映画の終盤、思わぬ形で彼女の存在意義が明らかになって、映画はよりかく乱されます。
この辺もウディ・アレンならではの“出し惜しみ”というか、タイミングが実に彼らしい。

ウディ・アレンは本作でもスカーレット・ヨハンソンを起用しましたが、
今回の役柄は危険な恋愛に魅力を感じ、胃潰瘍を持病として持っている女性というのも面白い。

とまぁ・・・実に彩り豊かな映画であり、ウディ・アレンなりのユーモアも感じられる作品ではありますが、
あくまでウディ・アレン監督作というブランドとして考えるなら、これは標準的な出来だと思います。
スペインに行ったことがないけれども、なんだか行った気にさせられるというのは、それだけロケーションの良さも
映画に良い影響を与えている証拠であり、ウディ・アレンは心外かもしれないけど、観光映画としても良い出来。

劇場公開時、日本では規模は小さいとは言え、そこそこヒットして好評だったはずですが、
昔ながらのウディ・アレンのファンにはおそらく物足りない内容でしょうね。

相変わらず思うのですが、この映画の食事しているシーンが印象的だ。
何度かレストランやテラスでの食事のシーンが出てくるのですが、実に美味しい食卓として描かれる。

イタリアはじめ、ヨーロッパではスローフードという考え方が定着しており、
これは日本流に言うと「地産地消」という食文化の考え方になり、地元の食材を地元で消費しようというもの。
食糧自給率の観点から推奨されてきていますが、これは豊かな大地の恵みがあってこそなんですね。

もう一つ言えば、僕がデンマークに滞在した時の記憶で、
欧州の人たちって、体格が良くて、食べてるものが違う(高カロリー食)だから当たり前なんだけど、
それだけでなく食べる量が半端じゃないわけですね。でも、食事に対する考え方が違うせいか、
もう一つ日本と大きな差があって、欧州の人たちって食事にもの凄い時間をかけます。
半端ない量を、日本人の2〜3倍も時間をかけて食べますから、やっぱり文化の違いって大きいですねぇ。

ウディ・アレンもこの文化の違いを、フィルムに収めようという意図はあったのかもしれません。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ウディ・アレン
製作 レッティ・アロンソン
    スティーブン・テネンバウム
    ギャレス・ワイリー
脚本 ウディ・アレン
撮影 ハビエル・アギーレサロベ
出演 ハビエル・バルデム
    スカーレット・ヨハンソン
    レベッカ・ホール
    ペネロペ・クルス
    パトリシア・クラークソン
    ケビン・ダン
    クリス・メッシーナ
    フリオ・ペリリャン

2008年度アカデミー助演女優賞(ペネロペ・クルス) 受賞
2008年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞助演女優賞(ペネロペ・クルス) 受賞
2008年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(ペネロペ・クルス) 受賞
2008年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演女優賞(ペネロペ・クルス) 受賞
2008年度ボストン映画批評家協会賞助演女優賞(ペネロペ・クルス) 受賞
2008年度サウス・イースタン映画批評家協会賞助演女優賞(ペネロペ・クルス) 受賞
2008年度カンザス・シティ映画批評家協会賞助演女優賞(ペネロペ・クルス) 受賞
2008年度アイオワ映画批評家協会賞助演女優賞(ペネロペ・クルス) 受賞
2008年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(ペネロペ・クルス) 受賞
2008年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
2008年度インディペンデント・スピリット賞助演女優賞(ペネロペ・クルス) 受賞
2008年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(ウディ・アレン) 受賞