バニシング・ポイント(1971年アメリカ)

Vanishing Point

ニューヨーク出身のリチャード・C・サラフィアンが主に砂漠地帯をメインに激しいカー・チェイスを撮った、
アメリカン・ニューシネマ期特有の作品だ。ある意味で本作はカルト映画なのかもしれません。

正直言って、映画の出来はあまり良くない。
しかし、僕の中ではこの映画は何度観ても強烈なインパクトがある。
それはこの映画が全く理路整然としておらず、全くもって不可解な内容であることだ。

この映画で描かれるコワルスキーという元警官、元レーサーという肩書きを持つカルトヒーローは
麻薬常習者であり、何を考えているのか、正直言ってよく分からない男だ。

往々にしてアメリカン・ニューシネマ期の映画ってのは、衝撃性を持った作品が多く、
革新的な名作が数多く生まれているのですが、この映画は全くもって別次元の作品であるかのようだ。
いや、勿論、アメリカン・ニューシネマを語る上では外せない作品なんですよ。
ただこの映画は他のニューシネマたちとは、また別枠で語られるべき作品だと思うのです。

この映画の何がどう凄いかと言うと、それは2つあると思う。
1つは、この映画で語られるストーリーに何一つ理由がない点だ。
それはまず、主人公のコワルスキーの行動に顕著に表れている。

そもそもこのコワルスキーという男は、特に目的意識もなくサンフランシスコへ急いで車を陸送しようとするし、
特に大きな意味もなく車を飛ばし、アクセルから足を離そうとしません。
そして追ってくる警官隊を交わそうと、市街地であろうが郊外であろうが構わず、車をブッ飛ばします。

これは映画の最初から最後まで、コワルスキーの意図は明らかにされません。
もっとも、彼の行動の意図・理由など、この映画にとってはどうでもいいことなのです。
映画の一つのアクセントとして盲目のラジオDJの“スーパー・ソウル”という黒人男性がラジオを通じて、
コワルスキーの無謀な暴走行為を応援しますが、彼が何故、コワルスキーを応援するのかも、
観客には何一つ明らかにされません。やはりそれも同様に、この映画にとってどうでもいいことなのです。

2つ目に凄いのはこの映画の衝動性だ。
ハッキリ言って、かつて何本か衝動的な勢いだけで撮られた映画を観たことがありますが、
それでもこの映画の衝動性は半端じゃありません。ある意味では怖いぐらいの衝動性です。

何とも言えない“見えざる力”が登場人物たちを動かしているかのようで、
特に伏線や前触れが無いにも関わらず、全てが必然的な行為であるかのように描かれています。

やはり語り継がれるべきは、この映画の衝撃的なクライマックスだろう。
何故にコワルスキーはそういった行動に出る必要があったのか、何故にそういった選択肢をとったのか。
これらの理由も観客には何一つ明らかにされません。何故なら、描く必要がないからです。
訳の分からないドラマは一切なく、巧妙なプロットなど何一つ組まれておりません。

まぁ映画としてはリチャード・C・サラフィアンがあまり積極的に演出していないせいか、
やたらとクっサい回想シーンが映画の流れを邪魔するし、場違いなぐらいにBGMをガンガン流しまくるし、
(いくら必要ないとは言え...)コワルスキーを取り巻く周辺の人々の描写は粗雑そのものだし、
アメリカン・ニューシネマ期の他作品と比べると、どうしても見劣りするというのが本音だ。

極端に言ってしまえば、この映画には答えは存在しませんが、
何故にコワルスキーがバニシング・ポイント[=消失点]へ向かってアクセルを踏みのか、
あまりに不可解な彼の行動を考える意味では、ひじょうに興味深い奇妙な作品だ。

間違いなく断言できます。後にも先にも、こんな映画は作られていません。
確かにカー・チェイスを主題として映画ってのは、数多くありますが、決して競争することが目的ではなく、
この映画の場合は何一つ目的意識のない男を描いているにしかすぎないのです。

中には主人公コワルスキーを反体制、あるいは反社会の象徴として語ろうとする人がいますが、
僕は決してこのコワルスキーという男が社会学的にそこまで重要なニュアンスを秘めた男だとは思わない。

強いて言えば、彼は未来に生きることを拒み、過去に生きようとしてしまい、
現在を意識下に置けずに、半ば放心状態で生きていると思うのです。
決して社会に何かをアピールしようとか、警察に反抗しようとか、何かを倒そうとか、
そういう目的意識はないと思うのです。むしろ何一つ考えられず、場当たり的かつ刹那的に生きようとします。

まぁ高くは評価できませんが、たまにはこういう映画があっていいと思う。
理路整然とした映画が好みの方にはウケないかと思われますが、さすがにここまで衝動的な内容には、
21世紀に生きる人々にも何かを感じさせるだけのインパクトを持っていると思う。

主演のバリー・ニューマンも上手くアウトロー的なヒーロー像を構築していると思いますが、
何より本作での彼は異様にカッコ良く見えるという、カリスマ性がありますね。
ひょっとしたら映画史に残る、カッコいいヒーローの一人と言っても過言ではないかもしれません。

ハッキリ言って、ただのオッサンなのに・・・(笑)。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 リチャード・C・サラフィアン
製作 ノーマン・スペンサー
原案 マルコム・ハート
脚本 ギレルモ・ケイン
撮影 ジョン・A・アロンゾ
音楽 ジミー・ボーウェン
出演 バリー・ニューマン
    クリーヴォン・リトル
    ディーン・ジャガー
    ポール・コスロ
    ボブ・ドナー