殺したいほど愛されて(1984年アメリカ)

Unfaithfully Yours

娘ほど年の違う美人と結婚した中年指揮者が、
羨ましい生活とは正反対に、美しい妻が浮気していないか気が気でならないあまり、
勝手に嫉妬心を燃やして、暴走した挙句、復讐を果たそうと殺人を企てる姿を描いたブラック・コメディ。

48年の『殺人幻想曲』のリメークで、この頃までは俳優としての活躍も目覚ましく、
持ち前のスラップスティックなコメディ演技という得意技を駆使した、彼に相応しい一作だ。

監督は80年に『プライベート・ベンジャミン』で評価されたハワード・ジーフで、
しばらくの間、日本では視聴が困難な一本ではありましたが、最近、ようやっとDVD化されました。

個人的には結構、楽しかったのですが、
やはりいくら美し過ぎる妻ゆえの嫉妬心とは言え、かなりの暴走行為であるがゆえ、
少しばかりブラック過ぎる内容に、嫌悪感を抱く人もいるだろう。故に、声を大にして称えづらい映画ではある。
加えて言うなら、主演のダドリー・ムーアも個性的な俳優であり、万人ウケするキャラかと言われると微妙(笑)。

映画の途中で、主人公の嫉妬心が暴走しまくって、
トンデモない展開になるのですが、このシーンで主人公が被るマスクが怖くって、
あれで人に襲いかかるものだから、コメディ映画というより、すっかりシリアルキラーの物語に。
ああいうピエロのようなマスクを被って人を襲うという発想そのものがサイコで、映画のブラックさを象徴しています。

その美し過ぎる妻ダニエラを演じたナスターシャ・キンスキーは、
さすがにハリウッドに渡ってきて人気が定着した頃の出演作なだけあって、とっても良いですね。
こういう映画のヒロインとしても、十分に魅力的であり、不必要なほどのサービス・ショットもあります。

個人的な話しではありますが...
先日、クリストファー・クロスのコンサートを観に行きましたが、当然のように彼の世界的な大ヒット曲である、
Arthur's Theme(Best That You Can Do)(ニューヨーク・シティ・セレナーデ)を披露したのですが、
その際に背後のスクリーンに若き日のクリストファー・クロスと在りし日のダドリー・ムーアのツーショットが
映ったりして、なんだか妙に切ない気分にさせられちゃいましたね。おそらくクリストファー・クロスにとっても、
ダドリー・ムーアとの交流は忘れられない出来事だったのでしょう。だからこそ、取り上げたんだと思いますね。

Arthur's Theme(Best That You Can Do)(ニューヨーク・シティ・セレナーデ)は、
ダドリー・ムーアの代表作である、81年の『ミスター・アーサー』で主題歌として使われていて、
それがクリストファー・クロス最大のヒット曲となっていて、今尚、色褪せない名曲と言えます。

しかし、ダドリー・ムーアは60年代から脚本家として活躍しながらも、
持ち前の音楽的才能を活かして、ピアニスト、そして指揮者としても活躍していました。

95年に他界したピーター・クックとの名コンビはイギリスで人気を博すのですが、
そのコンビを解消し、70年代に入って、ハリウッドに活動の場を移したダドリー・ムーアは
映画俳優としての道を歩み始めます。そんな頃の出演作が本作というわけなのですが、
この頃から徐々に台詞を覚えられないなど、日常生活にも支障をきたすことがあったらしいです。

おりしも、名コンビだったピーター・クックがアルコール依存症だったこともあり、
一見すると普通ではないダドリー・ムーアの行動が、アルコールによる影響だと誤解され続け、
95年にピーター・クックが亡くなった際にも、取り乱したダドリー・ムーアだったのですが、
どうやら、それもアルコール依存症によるものだと周囲は完全に誤解していたらしいです。

しかし、不幸なことにダドリー・ムーアが罹患していたのは、
痴呆症の一種である、PSP(進行性核上性麻痺)という病いであったらしく、公の場に姿を現す際も
無表情で車椅子に乗せられた姿となり、02年に残念ながら肺炎を起こして、67歳で他界しました。

何が言いたいかって、僕はダドリー・ムーアはとても不運な人だったと思うということ。

彼の実質的デビューにあたる、78年の『ファール・プレイ』にしても、
本作にしても、とても高いテンションで頑張るのですが、彼が頑張れば頑張るほど、
映画を観ているのが、とってもツラいですね。彼の後の人生が、後の人生なだけに。

映画はそんな彼の高いテンションのおかげで、より暴走していくし、
コミカルさを活かして、ブラック・ユーモアを武器に面白くなっていきます。
ベタベタな展開ではありますが、やはり何度観ても、計画を実行に移すシークエンスは面白いですね。

そして極めつけは、ラストシーンですね。
小柄なダドリー・ムーアだからこそ、ああいったシーンで笑いがとれるのでしょうが、
モデル体型のナスターシャ・キンスキーに抱きかかえられて、運ばれるというのも、何とも皮肉で面白い。
結局、思い通りにならないということを、端的に表現した、実に気の利いたラストシーンだったと思いますね。

前述したように、賛否が分かれるタイプの映画だとは思うけれども、
映画の出来としては十分に及第点を超えたと言っていい。80年代はこういう映画がホントに多かったですね。

70年代のようなニューシネマ・ムーブメントは起きませんでしたが、
80年代って、何よりバブル経済のような発想があったせいか、どことなくリッチな空気を持つ、
比較的、軽い気分で観れるコメディ映画や、青春映画のクオリティが凄く高かったように思いますね。

ハワード・ジーフも決して、監督作品が多かったディレクターではありませんが、
本作にしても実に手堅い演出ができる人で、もっと積極的に映画を撮って欲しかったですね。
(残念ながらハワード・ジーフは09年に他界されています・・・)

但し、私立探偵の描き方が今一つかな。
個人的にはもっと積極的にメイン・ストーリーに絡んで、主人公や観客にとって、
ストレスとなるような存在として描いて欲しかった。これでは、別にいなくとも大差ない描き方だ。
地味にこの私立探偵の存在が、実はとても大きな物語なはずですから、もう少し活かして欲しかったですね。

ちなみに映画の原題と同じタイトルの主題歌を担当したのは、スティーブ・ビショップ。
彼もまた、80年代半ばでトップ・シーンからいなくなってしまいましたね・・・。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ハワード・ジーフ
製作 マーヴィン・ワース
    ジョー・ワイザン
原案 プレストン・スタージェス
脚本 ヴァレリー・カーティン
    バリー・レビンソン
    ロバート・クレイン
撮影 デビッド・M・ウォルシュ
音楽 ビル・コンティ
出演 ダドリー・ムーア
    ナスターシャ・キンスキー
    アーマンド・アサンテ
    アルバート・ブルックス
    キャシー・イエーツ
    リチャード・リバティーニ