地獄の7人(1983年アメリカ)

Uncommon Valor

かつて朝鮮戦争に出征し、自分の息子がベトナム戦争に於いてラオスで捕虜となり、
長年、身柄を拘束され監禁されている可能性を疑い、時間ばかりかかって何も解決できない政府に業を煮やし、
個人の力で資金集めと、部隊を編成することで、非公式にタイからラオスに入り捕虜奪還を試みるアクション映画。

監督は78年の『料理長殿、ご用心』で注目され、82年の『ランボー』でサバイバルなアクション映画で、
定評を得たテッド・コッチェフで、アプローチは違うけど『ランボー』の番外編のような映画となっている。

まぁ、テッド・コッチェフはそんなに器用なディレクターではないので、
あまり工夫のある映画ではないし、ほぼほぼ製作で参加したジョン・ミリアスのタカ派なスタンスが
映画の内容にかなりモノ言うような内容になっているので、ジョン・ミリアスの監督作品と言われても不思議ではない。

いくら愛する息子が戦争で闘って捕虜になったとは言え、
自分でスポンサーを探して、金を出して下調べをして、息子の行方を知っている帰還兵を探し当てて、
彼らを救援部隊としてスカウトして、捕虜収容所とほぼ同じ構造の訓練施設を作って、自分で部隊を訓練して、
自分もチームに加わって、全く政府をアテにせずに無断でラオスに乗り込んで、作戦を遂行するという発想がスゴい。

さすがはジョン・ミリアス、常人と考え出すことと違いますね(笑)。
これだけの行動力を表現することが凄いと思うのですが、その世界観に見事にジーン・ハックマンも染まっている。

普通に考えて、いくら戦地での経験があってブランクを埋めるべく実地訓練に近いことをやるとしても、
捕虜がいるかもしれないという情報だけで、軍部の力を借りずに民間人の力のみで捕虜奪還を試みるなんて、
無謀以外の何物でもない作戦に思えますよ。それでもドッシリ構えるジーン・ハックマンは、見事なハマリ役だと思う。
いつもなら血圧が高そうな気性の荒さを表現したりするジーン・ハックマンも、本作では静かな芝居に徹している。

現実のベトナム戦争でも、アメリカは実質的な負け戦となり73年に終戦協定を結ぶことになりますが、
当時は600人もの捕虜がベトナムから解放されたとは言え、実は他にも捕虜が東南アジア各国で監禁されていると、
当時のアメリカでは報道されていたようで、本作はそんな疑惑に端を発したストーリーを映画化したものです。

ベトナム戦争終結から約10年経っても尚、こういう映画が製作されていたというのは、
如何にアメリカにとってベトナム戦争の長期化というのが、大きな爪痕をのこしたかが分かります。
現に80年代後半にも、幾つかベトナム戦争を題材にした映画が発表されており、ひょっとしたらアメリカにとっては
第二次世界大戦に匹敵するか、それ以上の強いインパクトをもっているアメリカ近代史の1ページなのかもしれません。

確かに、もし政府同士の協定で終戦となったとは言え、その他にも隠れた捕虜がいて、
祖国から見捨てられ、先行きの見えない捕虜生活を強いられている兵士がいるとすれば、それはかなりの悲劇だ。
そうなると、選べる手段としては本作の主人公のローズのように、自分で行動するしか選択肢がないのかもしれない。

主演のジーン・ハックマンも、そんな愛する息子を何とか救い出したいと行動する姿が感動的だが、
やたらと感情的になる芝居というわけでもなく、静かに冷静に救出作戦を遂行していく姿が“本物”っぽい。
主人公のローズと同様に、息子がラオスの戦地で行方不明になり、大企業の経営者としてローズに資金提供を
名乗り出て、政府機関関係者からの脅しにも屈しないマクレガーを演じたロバート・スタックは役得な感じだが良い。

ロバート・スタックと言えば、TVシリーズの『アンタッチャブル』で主人公エリオット・ネスを演じましたが、
本作の頃は既にベテラン俳優であり、さすがに一緒になってコマンドー・アクションに興じるのは難しかったようだ。

とは言え、個人で非公式に遠く離れた国で、捕虜奪還を試みる作戦に資金提供をするなんて、
よっぽどのことがない限り、あり得ないことだと思うのですが、現地入りした兵士たちに「お小遣いだ」と
一人一人にお金を渡すなんて、このマクレガーという男も人間味がある。普通はあんなシーン、描かないでしょう(笑)。

しかし、マクレガーの渡したお小遣いが映画のキー・ポイントとなります。
現地でローズらの武力行使を止めようとCIAが彼らの武器を没収すると彼らに残されたのは、このお小遣いだけになる。
そうなると、兵士たちも作戦に賭けるものがあったのか、お小遣いをそれぞれが持ち寄って結集するという好漢ぶり。

これで彼らがプロの傭兵で、ローズに雇われた立場であれば、もっとドライであったでしょう。
ローズに報酬を積むように要求したか、武器提供がないのであれば仕事は降りて帰国すると主張したでしょう。
この辺が男たちのプライドを主題にした映画ということで、ムサいほどの男のプライドが画面いっぱいに充満する。

どうでもいい話しではありますが、ローズがスカウトしたフレッド・ウォード演じるウィルクスが
ベトナム戦争での激闘と、その際の母子とのエピソードがトラウマとなり、閉所恐怖症になったという設定で
長い時間をかけてベトナム戦争のことを忘れたということですが、彼を口説き落とすのが速過ぎるように感じました。
彼の精神状態からすると、ローズの部隊に参加することは容易なことではなく、余計に心を閉ざしてしまうでしょう。
個人的にはウィルクスは本作のキー・マンでしょうから、彼を口説き落とすのに苦労する姿を描いた方が良かったなぁ。

そして映画の終盤にもラオスに乗り込んで作戦を遂行するシーンで、
ウィルクスは水路となるトンネルに潜り込んで行くシーンがありますが、これは閉所恐怖症の人には無理でしょう。
こういう荒唐無稽な演出が横行している映画ではあるのですが、それでも力技で乗り切ってしまいます。
こういうところを見ると、テッド・コッチェフはそんなに器用なディレクターじゃないなぁと思っちゃうんだよなぁ。

前述したように、タカ派なジョン・ミリアスの色が強いとは思いますし、
政治的なニュアンスを含んだストーリーなのですが、よくよく観ると終盤にはベトナム戦争というキーワードが
ほとんど関係ない展開になってしまうあたりが、なんだか笑えてくる。まぁ、ジョン・ミリアスも大雑把なところあるしなぁ。

おそらくジョン・ミリアスはベトナム戦争がもたらした社会的な混乱をポリティカルに扱いたかったのだろう。
結局、70年代後半の外交に消極的な政権が続いた合衆国政府を、風刺する意図もあったと思うんですよね。

とは言え、僕は映画の出来自体はそこまで良いという印象はないかな。
どうせならジョン・ミリアスが自分で映画を撮ってしまった方が良かったのではないかと思います。
本作なんかは題材的にジョン・ミリアスに合ってますよね。その方がもっと骨太な映画に仕上がったと思います。
本作はどこか悪い意味で軽い部分があって、クライマックスの家族の再会シーンもあまり盛り上がらなかったなぁ。
(まるでテレビドラマのようなエンド・クレジットのキャスト紹介も、なんか悪い意味で軽い・・・)

本格的なコマンドー・アクションを観たいなら、本作と似たようなストーリーなので、
85年の『ランボー/怒りの脱出』の方がアクション映画ファンの期待には応えられるかもしれません。
そりゃ・・・主演がスタローンなのと、ジーン・ハックマンではまるで違った映画になって当然ではありますが、
捕虜たちが凄惨な生活環境に晒されて、苦しい日々を送っている描写なども『ランボー/怒りの脱出』の方が良い。

僕は本作、もう少しラオスで捕虜となっている兵士たちのことをクローズアップしても良かったと思うんですよね。
少々、“救う”というキーワードに固執し過ぎたというか、映画に広がりを持たせられず窮屈なものにしてしまったと思う。

それはそうと、今は亡きパトリック・スウェイジが気付けば部隊に加わっている若者スコットとして出演していて、
まだまだ若々しくて元気いっぱいで妙に懐かしい感覚を持て観ていました。内に秘めたる情熱を感じさせます。
ジーン・ハックマン演じる主人公から、「仲間たちを新兵扱いするな」とたしなめられる姿が印象的だ。
本作でのパトリック・スウェイジは、脇役としても一際目立つ存在ほど、彼にとっては良い役だったのだと思います。

ちなみにパトリック・スウェイジは84年にジョン・ミリアスが監督した『若き勇者たち』で、主演に抜擢されました。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 テッド・コッチェフ
製作 ジョン・ミリアス
   バズ・フェイトシャンズ
脚本 ジョー・ゲイトン
撮影 スティーブン・H・ブラム
編集 マーク・メルニック
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 ジーン・ハックマン
   ロバート・スタック
   フレッド・ウォード
   レブ・ブラウン
   ランドール・“テックス”・コッブ
   パトリック・スウェイジ
   ハロルド・シルベスター
   ティム・トマーソン
   ジェーン・カツマレク
   ゲイル・ストリックランド