海猫(2004年日本)

函館市内の金融機関に勤務し、南茅部でコンブ漁を営む漁師と結婚した女性が、
あまりに過酷な漁師生活に馴染めず、義弟との三角関係に陥ってしまう悲劇的なラブ・ストーリー。

最初に結論を言えば、僕はこの映画、大っ嫌いです。。。
あんまりこういう感情的なことを言うべきではなく、好き嫌いだけで映画を断罪するのは好きじゃないんだけど、
でも包み隠さず本音を言うと、この映画のスタンス・描写・カメラ・編集・ストーリー、その全てに賛同できない。

まず、冒頭のヒロインの娘が婚約相手に激怒されるシーンからして、閉口させられた。
映画における緊張感というものを、いきなり暴力的に表現することによって生み出されると、
作り手は勘違いしているのではないだろうか。僕はケーキに顔を突っ込みかけるミムラを観て、
「この映画はなんか間違った方向へ行くのではないだろうか?」と心配させられましたね。

これ以降は、全くダメ。あとは伊東 美咲の濡れ場だけじゃん。
それも中途半端な描写ばかりで、おそらく事務所のNGがあるせいでこうなったのでしょうが、
こんな中途半端な性描写しか実現できないのであれば、いっそ描かない方がずっとスマートでしたね。

あと、事実なのかもしれないが、
いくら80年代半ばの漁村とは言え、こんな昔気質な描き方にも閉口させられましたね。
これは実際に南茅部で漁師を営んでいる方々が観たら、どう思うのだろうか?

もう映画の序盤から、ヒロインが着物を着て化粧したままバスに乗せられていたり、
まるで高度経済成長期のような和室での披露宴、そして夜中の港での隣町の漁師とのケンカなど、
とにかく時代錯誤としか思えない描写が堂々と出てきて、かなりのギャップを感じてしまう。
申し訳ないけど、これをよく映画会社が許したなぁと、変に感心してしまうぐらいでしたね。

函館市街から峠を一つ隔てて漁村になるという位置関係だから、
余計に南茅部の町が閉塞的で、まるで監獄のように描かれるんですよね。
どうしてこんな類型的で古臭い生活描写にしたのだろうか。僕には全く理解できませんね。
(ちなみに今は南茅部町、市町村合併の対象になって行政区分上、函館市になりました)

映画も特に後半が間延びしたようにダラダラと羅列するためか、全体的に冗長な傾向。

それから小島 聖演じる看護婦の扱いも中途半端で何だか勿体ないですね。
メイン・ストーリーにもっと絡ませてあげれば、もっともっと盛り上がったと思えるだけに残念ですね。
どうせドロドロした内容の映画なんですから、もっとドロドロさせれば良かったのに・・・(笑)。

ただ...強いて言えば、出演者たちは頑張っていますね。
何だか性描写に中途半端さがあるとは言え、ヒロインを演じた伊東 美咲はよくこの役にチャレンジしましたね。
CMやドラマでガンガン、メディアに露出していた頃なだけに、後から考えたら凄いチャレンジですね。
(その割りに、あんまりこの映画は話題にならなかったけど。。。)

それと、ヒロインの母親の存在感が弱いのも残念。
次男に手を焼いている様子というのは分かりますが、もっと前面に出した方が良かったですね。

映画も中盤に差し掛かって、病気で衰弱したヒロインが足を縛られて軟禁状態になった以降は、
ほぼ映画が暴走したと言ってもいいぐらいだ。もうこうなってしまうと、僕はついて行けない。
確かに原作に忠実に映画化したのかもしれないけど、もっとベターな表現があったと思えて仕方がありません。

ダメを押すように、ヒロインが雨の中の山道で衝動的にとった行動を映したシーンにも失望した。
ストップモーションの映像を重ねるようにクロスオーヴァーさせるのですが、これがまるで的外れ。
申し訳ないけど、こういったシーンを観ると、思わず作り手の良識を疑いたくなってしまいますね。

まぁ何もかもがステレオタイプな映画であることは否定できず、
この辺は全てが森田 芳光の意図した構成になっているのかは、正直言って、僕にはよく分からない。
しかしながら前述した通り、この内容を観る限りでは、作り手のビジョンに全く賛同できない。
せっかく函館のような魅力的な都市が舞台の映画が実現したというのに、勿体ないとしか僕には思えない。

あと、ヒロインがロシア人男性と日本人女性とのハーフという設定も活きていないのも気になるかな。

勿論、ハーフであるというだけで差別的な待遇を受ける対象になってしまうという展開はありますが、
もうチョット、ヒロインの運命を左右するような強い影響力を描いても良かったと思いますねぇ。
ハーフであるという設定は、少し雑に扱われてしまったかのようで何だか残念でしたね。

そもそもが企画の段階から、もうチョット練って欲しかったですね。
伊東 美咲のセミヌードばかりが話題として先行してしまったようで、何とも皮肉な結果と言えます。
これで映画の出来が良くって、もっと訴求する悲恋物語であれば映画自体が評価されたでしょうし、
伊東 美咲のキャリアにも大きな糧(かて)となったことは、間違いないと思いますけどね。
そういった展開にならなかったというのは、やっぱり作り手に大きな責任があると思います。

あともう一点。ヒロインの弟の恋愛が、完全に映画の途中で忘れられたかのように
触れられなくなるんだけれども、これって一体、どうなっちゃったんだろうか?

(上映時間129分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

日本公開時[R−15]

監督 森田 芳光
製作 野村 敏哉
    小島 吉弘
    三沢 和子
原作 谷村 志穂
脚本 筒井 ともみ
撮影 石川 稔
美術 山崎 秀満
編集 田中 愼二
音楽 大島 ミチル
出演 伊東 美咲
    仲村 トオル
    佐藤 浩市
    ミムラ
    小島 聖
    三田 佳子
    速水 元基
    角田 ともみ
    蒼井 優
    鳥羽 潤