Uターン(1997年アメリカ)
U Turn
ギャングから借金をして返済のために指を2本取られた流れ者の男が、
借金の返済のためにラスベガスへ車を走らせる途中、エンジンのトラブルで“スーペリアー”という
田舎町に立ち寄るものの、そこに暮らす奇怪な住人たちとの騒動に巻き込まれる姿を描いた不条理サスペンス。
監督は“ベトナム戦争三部作”で知られるオリバー・ストーンですが、本作はベトナム戦争とは関係がない内容。
結果として、オリバー・ストーンの狙いは外れたのかもしれないけど、僕はなかなか惜しい作品だと思いました。
泥沼にハマり込んで抜け出せない情けない主人公のショーン・ペンは素晴らしいし、そんな主人公を肉感的な肢体、
そしてフェロモンをプンプン漂わせるセクシーな人妻を演じたジェニファー・ロペスはベスト・キャストだっただろう。
脇役キャラクターもクセ者ばかりを集めて、なんとも絶妙なアンサンブルを見せていると言っても過言ではない。
ただ、僕が感じたのは...オリバー・ストーンもワザとそう描いていたと思うのですが、
映画は終始、ブラック・ユーモアを交えてヘンテコな演出を施していて、それが僕の中では妙味にはならず、
最初っから最後まで、本作の醍醐味を邪魔しているような気がして、もっとサスペンスに徹して描いて欲しかった。
イメージするなら、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のような欲望と愛情の狭間で揺れ動くような、
衝動的で打算的な、何か実体のないものに表立った理由もなく突き動かされる人間描写に徹して欲しかった。
その方が、この映画はきっと映えたのではないかと思う。決して、ユーモラスなのが悪いわけではないのですが、
正直言って、この映画には合っていなかったというのが僕の本音でして、なんだか勿体ないことをしたなぁという印象。
前述したように、この映画のジェニファー・ロペス演じる人妻グレースを目の前にしたら、
世の中の男たちのほとんどが心を動くのではないかと思えるほど、もの凄い情欲感の強さを感じさせるシルエットだ。
まぁ、そんな彼女が主人公との最初の出会いから、ヤケに思わせぶりな態度をとって、
簡単にどこか胡散クサい主人公を自宅に連れ込んで、やれカーテンをかけるだの、ベットに座って占うだの、
あまりにイージー過ぎる誘惑的な態度をとるので、大半の人が「これは裏に何かがあるな」と疑うわけですが(笑)、
それでも映画が進むにつれて、グレースの周辺環境に関する異常性が明らかになっていく過程が、心を惑わせる。
このストーリー展開、描き方、さすがはオリバー・ストーンだなぁと感心させられる上手さなのですが、
それに横槍を入れるようにギャグのようなエピソードが刺さり込むのが、どうしても僕の中では足を引っ張る感じだ。
ただ、ビリー・ボブ・ソーントン演じる車修理屋のダレルが、ことごとく主人公の行く手を阻むように、
車の修理を故意に遅延させるように、好き勝手やって主人公をイライラさせるというのは、面白い存在だと思った。
まぁ、要するにダレルがいればそれで十分だったわけで、TNTを自称するホアキン・フェニックス演じる若者と
クレア・デーンズ演じる女の子のカップルとの絡みは、しつこいくらい続いて映画の流れを阻害している気がした。
まぁ・・・このカップルの存在こそが、「なんだこの町は。訳分かんねぇー」という想いを強くさせるので、
オリバー・ストーンが意図的に、田舎町の知性とは程遠い若者をステレオタイプに描いたのでしょうけどね。
ただただ、チョットしつこくし過ぎた気がするのです。いざ、主人公から反撃されたら態度が豹変するのは笑えますが。
映画の路線としては、同じオリバー・ストーンの監督作品として見れば、
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』に通じる狂いっぷりではある。ただ、本作はキレまくる人間というわけではなく、
映画の冒頭から、どこか屈折したものがあって、微妙に何かが狂っているのです。そんな主人公の数奇な運命を
象徴するかのように、オープニング・クレジットの中で疾走する主人公の車が、猫を轢いてしまうシーンから始まる。
猫好きな方はショッキングな演出なので、目を背けたくなるようなシーンではありますが、
自分の想いのままに行動して、こういったことに全く気に掛けずに走り去ってしまう主人公の自分勝手さ、
そして、まるで大きく未来が変わってしまったかのように、“スーペリアー”の町に入らざるをえなくなる姿を描きます。
ここからは、まるで迷路に迷い込んだように出口を見つけられず、出口っぽいものを見つけても、
すぐに誰かの邪魔が入るという構図で、主人公の状況は進めば進むほど好転しません。そこに、主人公にとっての
“ファム・ファタール”(運命の女)とでも言うべき、人妻グレースとの運命が交差することで泥沼から脱げ出せなくなる。
この構図は実に見事なジレンマを感じさせるのですが、この主人公と同じ状況に置かれたら、
誰だって上手く抜け出せないでしょうね。主人公にとっては不条理なこと以外の何物でもないわけですが、
また、そんな状況であっても金や欲望に負けてしまうという、煩悩を捨てきれない主人公がなんとも人間臭い(笑)。
そうして、危険な道に引き込まれる主人公は、更に状況が悪化していき、破滅的なクライマックスへ突き進みます。
ここで繰り広げられる男女の往生際の悪さは、オリバー・ストーンが描く実に壮大なギャグとしか言いようがない。
このラストにしても、僕はサスペンス映画として見るならば、もっとヒリヒリするような緊張感が欲しかったけど、
おそらくオリバー・ストーンが表現したかったことは全く違うことだったのでしょうから、あくまで“スーペリアー”から
脱出したい主人公とグレースの往生際の悪い駆け引きだったというわけですね。しかし、これを見る限りでは
崖から落ちそうなところを助けるのか、むしろ突き落とすのか、という差が皮肉なポイントになっているようですね。
これも含めて、オリバー・ストーンなりに男の悲しい性(さが)を描きたかったということだったのかもしれません。
まぁ、原作もあることですので、あまり大胆な脚色もできなかったのでしょう。
そもそもが原作者であるジョン・リドリーが本作の脚本を書いてますので、原作の解釈そのまま映画化したのでしょう。
そういう意味では、この内容こそがオリバー・ストーンのビジョンなのでしょうけど、やっぱり決定打が打てなかった。
それは、映画のラストにある種の切なさやヘヴィでショッキングな落とし穴を描くなどして、
もっと映画にダメ押しのインパクトがあれば、もっと多くの支持を得られた作品だったのではないかと思っています。
これはこれで魅力的だったけど、やっぱりジェニファー・ロペスのセクシーさだけでは、映画に限界があります。
いつものオリバー・ストーンの監督作品のようなハイテンションさは、本作には感じられません。
べつに冗長な映画というわけではないのですが、全体的なスピード感は希薄でノンビリした雰囲気なので、
アッという間に過ぎてしまう2時間というわけではありません。これも悪い意味でのしつこさにつながっているのかも。
まぁ、映画はしつこいくらいが丁度良いとは個人的に思ってるんだけど(笑)、本作はそれが良い方向に機能してない。
脇役キャラクターで言えば、ジョン・ボイトと前述したビリー・ボブ・ソーントンがどこか奇怪な風貌ですが、
ジョン・ボイト演じる盲目のベトナム帰還兵はホントに異様な雰囲気を出している。コーラ飲んだときも、糸引いてるし。
でも、ここはビリー・ボブ・ソーントンが演じたダレルに軍配かな。ジョン・ボイトは少々、狙い過ぎな感じがしました。
まぁ、この不条理サスペンスは如何に人間が罪深い生き物であるかを描いているようなものだと思う。
こんな不運なことが続き、たまたま立ち寄った田舎町の見ず知らずの住人たちから、散々嫌がらせのように
行く手を阻むことをされれば、誰だってイライラさせられるだろうし、次第に常軌を逸した判断をするのかもしれない。
そんな人間の心理の危うさをテーマに、その契機となるのが“金とオンナ”というのが、またオリバー・ストーンらしい。
しかし、それで垣間見る人々の業の深さ、ドロドロした人間関係がまた、なんともおぞましく、グロテスクに映るものだ。
だからこそ、グレースのような存在をなんとかして、この環境から救い出したいと思っちゃうのだろうなぁ(笑)。
この映画で描かれる“スーペリアー”という町は、よそ者が足を踏み入れてはいけない町でした。
タイトルになっているUターンは不可能だと思った方がいい。いざ、足を踏み入れるとまるで蟻地獄のように渦巻く。
そんな過程を巧みに描けている部分はあるにはあるので、ブラック・ユーモアに理解ある人なら観ても損はありません。
映画としては、もっと盛り上げることが出来たと思うのですが、どこか尻すぼみな感じで終わったのが勿体ない。
当時のジェニファー・ロペスにこれだけ大胆な演技を要求したこと自体、スゴいことだと感じたのですが、
それを見事に演じ切ったことで、映画の大きな“武器”にはなっている。そうなだけに、このヘンテコ具合が残念。
前述したように、僕はせっかくの土台が揃った作品だったのだから、もっとサスペンスに徹して欲しかった。
当時のオリバー・ストーンなら、もっとスゴい映画に仕上げることが出来たはずなのに・・・と思える勿体なさがある。
ドロドロとした人間関係が暴走すると、凄まじいエネルギーを持って狂ったベクトルへ傾くという典型みたいな物語。
しかし、この情けない主人公もこれだけ命の危険に晒されても、実に生命力があるというか、しぶとい男ですね。
演じるショーン・ペンも別にマッチョで屈強な腕っぷしとは見えず、気の小さな男なのですが、妙にしぶとい(笑)。
本作のラストにしても、普通あそこまで頑張れないですよね・・・。そのアンバランスさが、魅力の一つなのかもしれない。
(上映時間124分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 オリバー・ストーン
製作 ダン・ハルステッド
クレイトン・タウンゼント
原作 ジョン・リドリー
脚本 ジョン・リドリー
撮影 ロバート・リチャードソン
音楽 エンニオ・モリコーネ
出演 ショーン・ペン
ジェニファー・ロペス
パワーズ・ブース
ニック・ノルティ
ビリー・ボブ・ソーントン
ジョン・ボイト
ホアキン・フェニックス
クレア・デーンズ
リブ・タイラー
ボー・ホプキンス
1997年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(オリバー・ストーン) ノミネート
1997年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(ジョン・ボイト) ノミネート