追跡者(1998年アメリカ)

U.S.Marshals

93年に高く評価されたアクション映画『逃亡者』の続編的作品。

『逃亡者』でアカデミー助演男優賞を受賞したトミー・リー・ジョーンズが演じた、
ジェラード捜査官にスポットライトを当てた作品で、邦題通り、今回は“追跡者”を完全にメインになっている。

映画はジェラードのカッコ良さ、『逃亡者』で何故に彼のファンが増えたのか、
作り手もよく理解した撮り方になっていて、ジェラードのファンにはたまらない続編でしょう。
最近の言い方では続編というよりも、いわゆるスピンオフ的作品で『逃亡者』を観ていなくとも、
楽しめる内容になっているあたりにも好感が持てて、『逃亡者』からは独立した作品と言っていいでしょう。

一方で、逃げる“逃亡者”側は前作のハリソン・フォードのインパクトと比べると、
本作のウェズリー・スナイプスはそこまでのインパクトはないかもしれませんね。チョット可哀想かも。

さすがにスチュアート・ベアード、アクション映画の編集を数多く手掛けてきたせいか、
まるで畳みかけるようにテンポ良く、次から次へと緊迫感のあるアクションを連続させるのはお手の物。
映画の流れはすこぶる快調で、『逃亡者』とは視点を変えたということもあり、シリーズものの映画の難しさを
見事にクリアし、完全にジェラードを主人公に据えたアクション映画というスタイルを確立しましたね。

映画の前半から、囚人護送機の不時着事故から、“逃亡者”であるシェリダンのカヌーを使った追跡劇、
そして舞台をニューヨークの市街地に移してからの追跡劇など、見せ場は次々と連続させながらも、
一つ一つのエピソードはシンプルに追いかけっこに注力した感じで、良い意味で分かり易い映画だ。
この頃のハリウッドは幾多の平凡なアクション映画を連発していた頃で、見方を変えれば、今と比べると、
映画産業が遥かに元気だった頃という感じですが、悪い癖だった“ただただ破壊を楽しむ映画”という感じではない。

それにはやっぱり、ジェラードを演じたトミー・リー・ジョーンズの功績がデカいのでしょう。

トミー・リー・ジョーンズは日本でも某有名缶コーヒーのCMで知られるくらいなので、
日本では比較的知名度の高いベテラン俳優ですが、不遇だった若い下積み時代が長かったのが、
顔に出ている気もしますが(笑)、正直言って、そこまで器用なタイプの役者さんではないような気がします。

その不器用さゆえ、『逃亡者』では無表情にひたすらハリソン・フォード演じるキンブル医師を追っていく、
その無感情さがフィットしたように思えて、その良さは本作でもしっかりと踏襲されています。

あまり表情が多く作れるタイプの役者さんではないせいか、
本作でもその多くが無表情か、少ししかめたような笑い顔、ほとんどがその2パターンで全編通しています。
でも、こうした淡々と仕事をこなしていく、ごく稀にユーモアをぶつけてくるぐらいのバランスが丁度良いのでしょうね。
一見すると強面にも見えますが、実は優しいみたいなキャクラターにピッタリで、それが本作でもマッチしています。

本来であれば、助演という立場でロイス捜査官としてロバート・ダウニーJrが出演していますが、
映画の中では重要なキャラであることは明らかなのですが、そこまでのインパクトは残せなかったかな。
そもそも登場時点から、常に“裏”を感じさせる存在なので、アヤし過ぎる。これが残念でなりませんね。

それと、女性陣にスポットライトが当たらなかったのも、とっても残念。
シェリダンの恋人役で、フランス人女優イレーヌ・ジャコブが珍しくハリウッド映画に出演ということで、
映画の中で多国籍感を出しているのですが、それでも彼女に見せ場はほとんど与えられなかったように思います。

それと、この映画のツラいところは、もう少しスリムにして欲しかったことですね。
スチュアート・ベアードがメガホンを取っているからこそ、編集監督出身者として気を遣って欲しかったのですが、
個人的にはこの映画の内容ならば、もっと割愛してスリムにすることができただろうと思えますね。
映画のテンポ自体は、すこぶる快調なので良いのですが、それでも映画が冗長な印象は残ります。
映画の尺自体が2時間を超えてしまい、この内容ならばもっと全体にスリムにすることはできたはずだ。

これがどこか勿体ない。良く言えば、見応えがあるということなのですが、
悪く言えば内容の割りには映画が長く、飽きさせない作りではあるのですが、少しずつ無駄を感じる内容でした。

そういう意味では、トミー・リー・ジョーンズのキャラクターに助けられているし、
ジェラード捜査官を主人公に据えるというアイデア一つで、映画化できてしまうというアドバンテージが大きい。
『逃亡者』を楽しく観れた方なら、本作は楽しめるでしょうが、ジェラードのカリスマ性は前作で出し尽くしたかなぁ。

ところどころで見られるジェラードのユーモアも、どことなく空振りしている感じですが、
そこはトミー・リー・ジョーンズの引き締まった体型でスーツ姿という、立ち姿のカッコ良さでカバーしている。

そういう意味でも、全体的に『逃亡者』からのパワー・ダウンは否めませんが、
とりあえずは、悪い続編にはならずに、作り手は最低限の仕事を果たしたと言えると思います。
しかし、この最低限の仕事というのもハードルが高いもので、そう簡単にできることではない。

この映画での大きな不思議は、シェリダンが逃走の過程で、
ニューヨークへ行ってアパート借りて“拠点”を作って、監視カメラを付けたり、変装したりして、
事件の謎に独自に迫ろうとするのですが、いくら恋人マリーの手助けがあったからと言って、
あんなに用意周到にできることに対して違和感があるということと、どこからその資金が沸いてくるのか疑問に思える。

それだけでなく、手助けするマリーから見ても、シェリダンとコンタクトとれたとしても、
住んでいるわけではない土地勘のないニューヨークの市街地で、そうも簡単に動けるというのが不思議だ。

とまぁ・・・エンターテイメント性の高いアクション映画にそんな細かな部分にツッコミを入れても
仕方ない話しではあるのですが...要所となるポイントでは、もう少し説得力を持たせる描写が欲しかったかな。

結果として、本作はヒットしたとは言えない。
それは本作の全米公開期に『タイタニック』というメガヒット作の余波が、強く残っていたからだ。
本作が完成した当時は、確か第3作を作るかもという噂が流れていたはずですが、
結局、作られずじまいで終わってしまいました。それは商業的に失敗したということもあるでしょう。

少々、不遇な一面があることも否めませんが、
あらためて観ると、そこまで悪い出来ではなく、充実感のある映画ではあると思います。

(上映時間131分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 スチュワート・ベアード
製作 アーノルド・コペルソン
   アン・コペルソン
脚本 ジョン・ポーグ
撮影 アンジェイ・バートコウィアク
編集 テリー・ローリングス
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 トミー・リー・ジョーンズ
   ウェズリー・スナイプス
   ロバート・ダウニーJr
   ジョー・パントリアーノ
   イレーヌ・ジャコブ
   ダニエル・ローバック
   トム・ウッド
   ケイト・ネリガン