U−571(2000年アメリカ)

U-571

かつてウォルフガング・ペーターゼンがハリウッドに進出するキッカケとなった、
81年の『U・ボート』という映画がありましたけど、本作は『U・ボート』と比べると、数段、落ちる出来かな。

とは言え、潜水艦内でのアクション描写という意味では、そこそこ頑張っている。
幾度となく繰り返されるサスペンス劇には緊迫感があるし、人間描写も悪くはない。

映画はドイツ軍の暗号機を強奪するため、ドイツ軍の潜水艦が活動する海域に派遣され、
潜水艦を乗っ取り、暗号機を強奪する任務に着いた数人の連合軍海兵隊の姿を描いているのですが、
如何にドイツ軍を騙そうと考えたり、如何にして魚雷1発だけでドイツ軍艇を撃退しようと考えたり、
ピンチに陥った状況下で必死に抵抗しようとする姿を、悲壮感すら漂わせながら描いています。

監督のジョナサン・モストウは97年の『ブレーキ・ダウン』で注目を浴び、
本作のような規模の大きな企画を担当できるだけの力を持ちましたが、
本作もまずまずの興行収入となり、03年には『ターミネーター3』の監督に抜擢されました。

正直言って、僕はそこまでジョナサン・モストウの手腕を高くは“買って”いないのですが、
それでも本作ではサービス精神旺盛かつ、丁寧に演出しており、まずまずの仕事っぷりだと思う。

あくまで映画の中盤までの要素にしかすぎませんが、
主人公のマシュー・マコノヒー演じる大尉が周囲から「まだ若過ぎるのでは?」と、
彼のリーダーシップを疑問視する“陰口”が横行し、やがてはあからさまに彼に反発する士官が出てくる。
そんな過程で、思うとおり出世できない現状と、周囲のそういった評判を聞くに、
自らの司令官としての適性の有無に、色々と思い悩む姿が部分的に描かれているのは興味深いですね。

あまり無理に描いて、ドラマ性を拡大させようとする必要はないと思うのですが、
映画の充実感を増すためには必要な描写だったと思いますね。
ただ、正直言って、詰めが甘い。描くなら、もっと徹底して描いて欲しかったですね。

特にクライマックスでハーベイ・カイテル演じるリーダーが、
「大尉が乗艦される艦に、もし私が必要なら...喜んで乗艦致します」と言う台詞が良いですね。
少々、ベタな台詞ではありますが、映画の前半から上手く主人公の苦悩を描きながら映画を進めた功績ですね。

しかしながら...せっかくの潜水艦映画なのに、これといったセールスポイントがないのは勿体ないなぁ。
アクション・シーンもそこそこの出来である一方、これといった決定打は無かった感じだし。
息をもつかせぬアクションの連続といった類いの映画ではないだけに、もっと工夫して撮って欲しかったですね。
例えば音響なんかで工夫して、もっと観客に“体感”させるアクションにすることは可能だったはずなのです。
(ちなみに本作の音響技術はアカデミー賞にノミネートされましたけど、僕にはそこまでの出来とは思えない)

ましてやディノ・デ・ラウレンティスのプロダクションですからね、予算はたっぷりあったはずです。

そういえば、何故か本作にジョン・ボン・ジョビが出演しておりましたが、どういう縁で出演したんだろ?
確かに彼は過去に何本か映画に出演しておりますが、正直言って、彼である必然性が疑問(笑)。
せっかく99年の『ノー・ルッキング・バック』では好演だったのに、本作は中途半端な役どころで残念。
どうせなら、潜水艦の中でミュージカル・シーンを撮るか、歌いだすとかすれば良かったのに(笑)。

主演のマシュー・マコノヒーも何だか中途半端な感じがしましたね。
正直言って、96年の『評決のとき』の彼の方がずっと良かった。本作なんかは、もっとカリスマ性を出して欲しい。
アクション映画の主人公としての強さという意味では、今一つ物足りなさを感じてしまいますね。

まぁ映画の土台は揃っているだけに、もうチョット上手くやれば良くなったと思う。
前述した観客に体感させられるぐらいのアクションが撮れれば、この映画にとっての決定打になりましたね。
やっぱり、この手の映画として、これといった決定打が無いというのは、映画として致命的なのです。
同じジョナサン・モストウの監督作として言うなら、『ブレーキ・ダウン』には徹底したスリルという、
しつこいぐらいの一貫性が映画の大きな特徴となり、また決定打でもあったわけなのですが、
残念ながら本作にはそういった決定打となるセールス・ポイントが見当たりません。

まぁ贔屓目に考えると、映画館で観たら、この映画の印象も変わっていたかもしれませんね。
映画の始まり約10分を除けば、この映画は実質的に潜水艦内の密室空間がドラマの中心である。

それに加え、勝手のよく分からないドイツ軍艦を操舵しながら敵軍のミサイルを交わして、
何とかしてドイツ軍の暗号機強奪計画を成功させようとする男たちの活躍を描いているわけで、
大迫力のスクリーンで観ていたら、ひょっとしたらもっと緊迫感が伝わってくるのかもしれません。
そういう意味では、率直に映画館で観ておけば良かった・・・と思える類いの作品なわけで、
本作のようなタイプの映画って、正に”そこ”に魅力があると思うんですよねぇ。

『ブレーキ・ダウン』を観る限り、「もっと面白くできたであろう」と思えるだけに残念な一本ですが、
同時に「映画館で観ておけば良かった・・・」と後悔させられるだけに、それだけ企画に魅力があることは事実。
そう考えると、勿体ないなぁ〜。どうせなら、もっと徹底した男たちの対立を描けば良かったのに・・・。

(上映時間116分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジョナサン・モストウ
製作 ディノ・デ・ラウレンティス
    マーサ・デ・ラウレンティス
原案 ジョナサン・モストウ
脚本 ジョナサン・モストウ
    サム・モンゴメリー
    デビッド・エアー
撮影 オリバー・ウッド
音楽 リチャード・マービン
出演 マシュー・マコノヒー
    ビル・パクストン
    バーベイ・カイテル
    ジョン・ボン・ジョビ
    デビッド・キース
    トーマス・クレッチマン
    ジェイク・ウェバー

2000年度アカデミー音響賞 ノミネート
2000年度アカデミー音響編集賞 受賞