トゥー・ウィークス・ノーティス(2002年アメリカ)

Two Weeks Notice

サンドラ・ブロックとヒュー・グラントがコンビを組んだラブコメなんて、当時の“鉄板”ですね。

映画は正直言って、前半はイマイチだ。なし崩し的に本題に入っていくのですが、
ヒロインが利益よりも自分の信念を優先するという理想家なところがあって、抗議活動など積極的に行う感じで
広く共感を得られるようなキャラクターかと聞かれると、彼女もかなり独特なキャラなので、なんとも微妙な出だし。

しかも、都市開発に積極的な会社社長を演じたヒュー・グラントも、ハッキリ言って中身は子供なので、
まるでヒロインが子供の身の回りの世話をするかのように接するなんて、子供のまま大人になったみたい。

タイトルからして、てっきり2週間で気付くというストーリーなのかと思いきや、
ヒロインは1年近く我慢して弁護士として、デベロッパー企業で働いているという少々無理のある設定だ。
さすがにあれだけ勝ち気なヒロインなので、それだけ我慢して勤務し続けて、周囲の信頼を得ていたというのは
話しに無理があると感じた。この辺は恋愛映画としては大事な前提条件なので、もっと上手く描いて欲しかった。

キャスティングは最高なものであっただけに、特に本作の前半はとても残念な展開だなぁと思った。

とは言え、主人公カップルの恋が動き始める映画の後半は少し挽回するように面白くなる。
ヒロインが食べ過ぎて、テニスの帰りに車の中で下痢症状を催すというドタバタはどうでもいいのですが(笑)、
ヒュー・グラントとサンドラ・ブロックの掛け合いも流れに乗って来た感じで、上手い具合にラストに向かって収束する。

本作はマーク・ローレンスの監督デビュー作であり、元々はラブコメを中心とした脚本家して活躍していました。
サンドラ・ブロックも自らプロデュースに参加した作品であり、意欲的なものだったので周囲の期待も大きかっただろう。
そこでヒュー・グラントを相手役にキャストできたわけですから、個人的にはもう少し頑張って欲しいところだけど・・・。

まぁ、サンドラ・ブロックはラブコメ路線まっしぐらな時期でしたから、本作でも相変わらずの安定感。
頭は良いけど、チョットだけドジなところがあったりして、野球観戦しに行けばファウルボールを取りに行って、
身を乗り出して捕球体勢に入ったファーストの守備を邪魔してしまって、大ブーイングを受けるなんてシーンもある。
こういう姿を健気に演じることができるのはサンドラ・ブロックぐらいのようなもので、この時代のアイコンでしたね。

その野球観戦のシーンでは、ニューヨークでも実はメッツ好きという設定であって、
メッツのベンチ最前列で試合を見ていたところ、前述したような展開になって周囲からも大ブーイングを喰らう。
確かに選手の捕球体勢に入っていたところでグローブを出して、守備を邪魔すれば、今も“厳重注意”ですからね。
メジャー・リーグであれば、球場側から“出禁”になったりすることもあるくらいなので、結構な大失態ですけどね・・・。

そんな野球場でのシーンで、さり気なくメッツ時代の新庄が映っていたりするのにも要注目。
それだけでなく、この映画のスタッフがどういう人脈を持っていたのかは分かりませんが、既に実業家としてその名を
政財界に轟かせていた大富豪ドナルド・トランプが主人公にパーティーで絡むシーンで登場してきますし、
当時、売り出し中だった歌手のノラ・ジョーンズもパーティーで演奏する姿が映され、とにかくカメオ出演も豪華。

いくらハリウッド資本の映画とは言え、ここまで豪華な布陣はなかなか珍しいですね。
当時はヒュー・グラントもサンドラ・ブロックもギャランティーが安くはなかったはずなので、スゴい金をかけています。
ひょっとしたら本作の製作費の大半がキャストへの出演料に費やされたのかもしれない、というくらいスゴいです。

でも、悲しいかな...本作最大の見せ場はそういった豪華なゲスト陣だったのかもしれません。
前述したように、映画の後半からはそこそこ面白くなるけど、前半はサッパリだったし、内容も極めてオーソドックス。
ラブコメのセオリーはしっかり踏んではいるものの、もっとコメディという観点からは面白く出来たはずと思えてしまう。

それくらい、何かが物足りない。後にヒュー・グラントと何度かコンビを組んでラブコメを撮ることになる、
監督のマーク・ローレンスですが、監督デビュー作の本作時点ではまだフォーマットを完成できていないという印象だ。

まぁ、ヒロインが辞職する代わりにと、後任を募集して面接したところ応募者が大学の後輩で、
「アタシ、憧れんですぅ〜」とアピールしてくる後輩にどこか違和感がありながらも、社長がプレーボーイぶりから
その応募者を気に入って採用したもので、よりイライラがMAXになり前述したテニスでの激しいラリーの応酬になる。
この辺の流れはコメディ映画としてはベタな展開ではありますけど、まずまず面白く、その後の腹痛パニックにつながる。

この腹痛パニックだって、コメディ映画から笑いに替えてますけど、現実には笑えないですよね。
あんなに高速道路の上で動きまくってたら、さすがに我慢できずに“事故”を起こしちゃうでしょう。一生のトラウマ(笑)。
自分も外出中に突然の腹痛に見舞われて、なんとかしのいだことがありますけど、あれは相当にキツいことですからね。

さすがに人気女優だったサンドラ・ブロックにそんな“事故”を演じさせるわけにはいかないですしね(笑)。

まぁ、それを茶化しまくっているうちにヒロインと恋に落ちる、軽い実業家みたいなキャラクターは
本作あたりからヒュー・グラントの定番になった印象がありますけど、ハリウッドに渡っても相変わらずな調子で良い。
やっぱりヒュー・グラントに寡黙なキャラクターは似合わないだろうし、これくらい“ギリギリ”なくらいが丁度良い(笑)。

甘いマスクだけど、少々、性格的に難がある感じですけど、そのギャップが絶妙なくらいにハマる。
ただ、それでも本作のキャラクターは派手に笑わせてくれるわけでもないし、もっと“攻めた”キャラでも良かったなぁ。
それくらいキワどい奴が何かをキッカケにして、真反対のポリシーを持つヒロインと恋に落ちるというところが良いのに。
残念ながら本作はそこまで利用できている感じではないし、最後もやや力技で映画をまとめたような印象を持ちます。

たぶん、このヒロインも世話焼きなのだろう。そうでなきゃ、思想的に真反対の社長の会社で働きませんよ。
しかも、最初の頃にいくらで辞めるタイミングがあったにも関わらず、自ら辞めるわけでもなく続けていたのですから。
しかも、昼夜問わずに社長に随分と献身的に働いていたわけですから、身の回りの世話をする姿を見ていると、
彼女なりの母性本能があって献身的になっていたのだろうと思うのです。しかも、彼女なりに誇りを持っているし。

それを象徴しているのは、2人がランチしていてサラダを食べるシーンが、まるで小さい子どもと母親(笑)。
子どもが自分でできないものだから、食べられないものを取ったり、手取り足取りやっている感じが完全にギャグ。
普通に考えれば...ああいう世話焼きが好きじゃなければ、やってられないですよね。いく社長とは言えね・・・。

まぁ、ハリウッド製のロマンチック・コメディにはありがちな内容の映画ではあるので、
正直言って、映画に新鮮味は無いのだけれども、それでも最低限の役割はしっかりと果たした作品だと思います。
ヒュー・グラントとサンドラ・ブロックの2人で映画を支えただけに、それなりに楽しませてくれる作品にはなっています。

しかし、一方ではそれ以上の魅力は無かった。あくまで想像していた通りの内容というのが物足りない。
この辺はサンドラ・ブロックのコメディエンヌとしての魅力にもなってくるけど、ヒュー・グラントのキャラだけではキツい。
これがしっかりとヒロインに焦点を当てて描いた、『ブリジット・ジョーンズの日記』との大きな差だったかもしれない。

この映画の救いは、全体のテンポが良かったことですね。これでテンポが悪かったら、もっと印象悪かったと思います。
前述したように特に前半が今一つなので、これでテンポが悪ければ、上映時間が必要以上に長く感じたでしょう。

今思えば、01年の『デンジャラス・ビューティー』と本作はサンドラ・ブロックがハリウッドのトップ女優として、
光り輝いていた時期にあったことの象徴だったと思います。一番、よく仕事していた時期は『スピード』でブレイクした、
90年代半ばから後半にかけてだったと思いますが、09年の『しあわせの隠れ場所』でついにオスカー女優になります。
言わば、こうして数多くのラブコメに出演してトップ女優になるのも、彼女のステップアップの過程だったのかもしれない。

チョット前向きに捉え過ぎかもしれませんが、やっぱりこういう映画こそがハリウッドの強さだなぁと実感します。
まぁ、欲を言えば、せっかくのキャスティングだったので、もう少し映画としては頑張って欲しかったのですがねぇ。

何気に映画の後半にある、主人公カップルが乗るヘリコプターから映るニューヨークのビル街の映像が美しい。
CGかもしれませんが、映画にとっては良い“隠し味”になっている。街がこういう描かれ方をしているのは嬉しい。
それまでは騒がしかったのが、あのヘリコプターのシーンでチョットした静寂に包まれ、なんとも良い空気になります。

それにしても...紆余曲折を経ても、最後は「ダメ男だけど、許して」と言えちゃうヒュー・グラントは役得だな(笑)。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 マーク・ローレンス
製作 サンドラ・ブロック
脚本 マーク・ローレンス
撮影 ラズロ・コヴァックス
編集 スーザン・E・モース
音楽 ジョン・パウエル
出演 サンドラ・ブロック
   ヒュー・グラント
   デビッド・ヘイグ
   アリシア・ウィット
   ダナ・アイヴィ
   ロバート・クライン
   ヘザー・バーンズ