パニック・イン・スタジアム(1976年アメリカ)

Two - Minutes Warning

70年代のパニック映画を象徴する作品ですね。

この映画の大きな特徴は、9万1000人もの観衆が集まったロサンゼルスの
巨大スタジアムでアメフトの試合を観戦する人々を人質にとった狙撃犯を、細かく描かずに、
どんな組織に雇われていて、誰を狙っていて、具体的な目的が何なのかに一切触れないところだ。

つまり、狙撃犯がホテルからスタジアムへ向かうところを淡々と描き、
スタジアムで静かに準備を進めていく姿を簡単に描くだけで、映画の途中からは警察や報道陣、
そして映画の終盤のパニックでメインとなって描かれる観衆の一部を、中心に描く映画に変わっていく。

正直、映画はそこまでの迫力のアクション・シーンがあるわけでも、
息をもつかせない緊張感溢れるシーンが連続するというわけでもないのですが、
それでも映画のクライマックスにある約15分に及ぶパニック・シーンは、見応え十分の演出で本作のハイライトだ。

ひょっとしたら、この企画はTV映画向けだったのかな?と思わせるほど、
派手な演出を一切排した感じなのですが、どうやらディレクターズ・カット版のような
編集でカットされたシーンを復元した3時間のヴァージョンがあるらしいのですが、この調子で3時間はキツい・・・。
いや、たぶん犯人の描写を増やしたり、もっと映画の印象を変える部分が多いのだろうとは思えるんですよね。

これで犯人の狙いがクリアになった描き方になってしまうと、
当時の他のパニック映画とは大きな差別化を図れなくなり、本作の特徴が失われてしまいますね。

まるで本作の作り手は、どんな狙いがあるのかが分からない正体不明な犯人が及ぼす脅威の方が
遥かに怖いということを暗に象徴しているようなアプローチをしていて、これが本作最大の功績ですからね。
ハッキリ言って、この得体の知れない恐怖が及ぼす、警察の捜査の難しさと、映画のクライマックスにある、
9万1000人の大観衆が大パニックに陥る様子を、真正面からドキュメントするクライマックスだけなんですよ(笑)。

主演のチャールトン・ヘストンは70年代のパニック映画ブームで
数多くの映画に出演していた名優ですけど、本作では自分で動くというよりも、
どちらかと言えば、コントロール・タワー的存在になっていて、年老いたのかアクティヴさはもう無い。

似た時期に大観衆を対象にしたテロを描いた、『ブラック・サンデー』が話題となりましたが、
本作と『ブラック・サンデー』の大きな違いは、やはり犯人をどれだけ描いたかという点でしょうね。
事件を克明に描くために、犯人グループのテロに至るまでの背景を丁寧に描くことで、
テロ事件の輪郭をデフォルメしていった『ブラック・サンデー』とは、作り手のスタンスが大きく異なります。

ただ、本作は映画全体として少し淡々とし過ぎたというか、
映画全体の緊張感に希薄で、もっと手に汗握る攻防が欲しかったのは事実で、そこが物足りない。

映画は複数の観客グループを描いており、いわゆる群像劇のようなスタイルですが、
作り手はそこに時間を費やしてしまい、犯人と警察の攻防をもっと緊迫した形で描いて欲しかったですね。

スポットライトを当てる登場人物も少し多くし過ぎた感じで、なんだか散漫になってしまった。
映画の中では犯人と警察の直接的な接点が、やはり映画のクライマックスだけのように描かれるのですが、
もっと早い段階から、犯人が警察や警備の目を盗んで準備を進める緊張感を描いて欲しかったですね。

映画の序盤に描かれる、ランニング途中の夫婦の夫がホテルの窓から、
ライフルで銃撃されるショッキングなオープニング・シーンにしても、結局、映画の本編にあまり影響しない。
この時代ならでは演出でB級映画っぽい、実に良い雰囲気で映画がスタートするのですが、なんだか不完全燃焼。

言わば、“マクガフィン”のような道具が連発する校正になっていて、
作り手もあれやこれやと工夫して撮ったように見えますが、これに警察の目を盗むということがあれば、
もっとエキサイティングにいったはずで、ラストの凶行の無念さが余計に煽られたクライマックスになったと思います。

そう、この映画は登場人物が誰も手抜きせずに、自分ができることをやっておきながらも、
犯人が試合終了2分前の凶行に向かって行くという姿を描いているだけに、後追いで捜査することの
無力さを描いているという感じで、仮に試合を中止にしても、帰宅する観衆に乱射していたかもしれない。
そう考えると、やはり「最初が肝心だ」ということで、起きたことに対する対処が如何に難しいかを象徴している。

おりしも、チャールトン・ヘストンは生前、全米ライフル協会の会長を務めていて、
断固してライフルの販売禁止に反対していたヘストンですから、やっぱりこういう事態には民衆に武器がないと・・・
というイデオロギーのようなものがあって、本作への出演を受けたのではないかとも思えなくはないですね。

そう思って観ると、クライマックスの電光掲示板のある塔に自ら侵入して、
自らの手でケリをつけにいこうとする姿勢が、なんか全米ライフル協会のスタンスという気もします(笑)。

SWATの隊長を演じたのが、既に監督して成功を収めていたジョン・カサベテスで、
デビッド・ジャンセンとの不倫の恋に身を投じていた女性を演じたのがジーナ・ローランズで、
地味に夫婦共演を果たした作品になったのですが、何故だか同一シーンでの共演シーンは皆無だ。

パニック映画としてのダイナミズムや、映画全編にわたる緊張感のようなものを
この映画に期待すると、大きく肩透かしを喰らうと思いますが、及第点レヴェルは越えた出来だとは思います。

ただ、個人的には少しチープ過ぎる仕上がりなのではないかと思えて、
もう少し一級品のサスペンス映画に出来たのに、敢えてそうはしなかったと思えます。
監督のラリー・ピアースがやはりTV映画を数多く手掛けていたディレクターなだけに、経験の問題はあったと思う。
アプローチとしては間違いではないけれども、なんだか勿体ない選択をしてしまったようで、個人的には残念ですね。

愛すべき作品であるとは思いますが、いわゆる“埋もれてしまった”映画であるかのような扱いになったのが残念。

ところで、やはり全米ではアメリカン・フットボールの人気はスゴいようです。
僕も高校のときの担任の先生がやっていたということは覚えているのですが、日本はそこまでの熱狂ではありません。
そもそも日本では、10万人近い観客を集めることができるコンテンツ自体、ほとんどありませんからねぇ。。。

日本で言うと、日本シリーズ≠フ感覚に近いんですかね。でも、それ以上の国民的イベントという感じです。
まぁ・・・映画の本編では、ほとんどアメフトの試合シーンは出てこないので、アメフト好きにも物足りないでしょうが。

エンターテイメントとしても中途半端な部分は多く、自信を持ってオススメというほどの
傑作ではありませんが、個人的には70年代のパニック映画ブームの中心的存在であり、
この時代の映画を語る上では外せない作品だと思います。この頃から徐々にテレビ中継など、
ハイテク機器を使った内容が増えてきたようで、本作では複数台、中継で使っていたカメラが役立つシーンがある。

徐々にデジタルな時代に変わりつつあった、時代の変遷を感じさせる一幕だ。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ラリー・ピアース
製作 エドワード・S・フェルドマン
原作 ジョージ・ラ・フォンテイン
脚本 エドワード・ヒューム
撮影 ジェラルド・ハーシュフェルド
編集 ウォルター・ハンネマン
   イヴ・ニューマン
音楽 チャールズ・フォックス
出演 チャールトン・ヘストン
   ジョン・カサベテス
   マーチン・バルサム
   ボー・ブリッジス
   デビッド・ジャンセン
   ジーナ・ローランズ
   ウォルター・ピジョン
   ジャック・クラグマン
   ジョー・カップ
   マリリン・ハセット
   ミッチェル・ライアン

1976年度アカデミー編集賞(ウォルター・ハンネマン、イヴ・ニューマン) ノミネート