トゥー・フォー・ザ・マネー(2005年アメリカ)

Two For The Money

ニューヨークのスポーツ情報屋ウォルターに雇われたブランドンが、
フットボールの試合の結果の予想屋となり、スポーツ賭博に興じる人々からリベートをもらって、
大儲けするものの、次第に歯車が狂っていく姿を描いたサスペンス・ドラマ。

監督は『テイキング・ライブス』のD・J・カルーソーで、主演はアル・パチーノ。
まぁアル・パチーノ兄貴が出ていなければ、おそらく観ることのなかった作品だろうけど、
まるで僕は期待せずに観て、結果的にやはり今一つ楽しめなかったですね。

映画の出来としては、それほど良いものとは思えないし、
日本でもヒッソリと劇場公開が終わってしまったのが、何となく分かる気がします。

この映画を観て、真っ先に思い出したのは87年の『ウォール街』だ。
ハッキリ言って、本作には『ウォール街』ほどの力強さはないし、映画の出来も良いとは言えない。
主演のアル・パチーノも『ウォール街』で金の亡者と化した投資家ゲッコーを演じたマイケル・ダグラスほどの
カリスマ性が感じられない。それゆえ、アル・パチーノ的にも今一つノリ切れない不発感があります。

まぁまるで株のブローカーの世界のように時間を切り詰めて闘う情報屋という存在も面白いけど、
本作にはスピード感が画面に根付いていません。正直、これは致命的だったと思う。

『ウォール街』にあって、本作にないものというのは、映画としての一貫性だ。
それから、こういう言い方をするのは、たいへん申し訳ないのですが、本作からは知性が感じられない。
思慮深く映画を撮っているという感じもしないし、作り手なりの哲学が映画に込められていない。
D・J・カルーソーにはまだそこまでの余裕がありませんね。ストーリーを語ることに精一杯って感じです。

ウォルターの家族や心臓疾患のことを中途半端に突っ込んでしまったためか、
ウォルターに関する描写に一貫性や徹底した骨太さが感じられません。全てにおいて、不足しているのです。
だからこそ、いくらアル・パチーノが名優とて、彼のキャラクターに強いカリスマ性が感じられないのです。
『ウォール街』のゲッコーに起きた、偶然の産物かもしれないが、映画的マジックが起きていないのです。
おそらくD・J・カルーソーも、その映画的マジックを期待していたと思うのですがねぇ。。。

スポーツ賭博って、かなり昔から存在していたんだろうと思うけど、
案外、映画の中で取り扱われてこなかったテーマですね。それは今まで、ホントに見逃されてきたのか、
それとも意図的に見逃されていたのか・・・僕にはよく分かりませんが、実に興味深いテーマです。

予想屋のブランドンは自分の予想を販売するために、
「絶対に当たる」と言わんばかりにPRしますが、基本的に彼は予言をしているわけではなく、予想なのです。
色々と科学的に分析したり、データを集め経験則から予想したりはしますが、
「勝負事(スポーツ)に絶対はない」わけで、当然、彼の予想も絶対的なものではありません。
だから、ウォルターにしてもブランドンにしてもギャンブル依存症をカモにして莫大な資金を得ていますが、
彼ら自身もまた、スポーツの結果の予想というギャンブルに興じているのと同義なわけです。

本質的には彼らも「次で取り返して、ドン底から這い上がる」と言い、
ギャンブル性の高い予想屋という業界から抜けられないわけですから、ギャンブル依存症なのです。

時にヤバい客を相手にしてしまい、命の危険をも経験しますが、
それはこの業界ならば覚悟しなければならないことだろう。いわゆる“ハイリスク/ハイリターン”の世界です。
(まぁただ・・・結果的には“ハイリスク/ノーリターン”という気もしますが...)

そう、この映画では明確に描かれなかったけれども、相手にする客を選ぶというのも重要なことだろう。
これは日本の企業活動においても同様ですが、世の中“ハイリスク/ノーリターン”な仕事はいっぱいあります。
でも時には安定した仕事を抱えるために、こういった仕事を取らなければならない決断の時もあるのです。
しかしながら、好ましくはこういった“ハイリスク/ノーリターン”な仕事はやらないのが無難な選択です。
だからこそ、ある程度の地力を付けたら、業者からお客を選ぶようになるのです。
これはあくまでリスク・アセスメントの手段の一つですからね、仕方のないことだとは思います。

ただ、映画の場合は映画の方から観客を選ぶような類いになってしまってはいけませんがね。。。

この映画を敢えてフォローするとすれば、
依存症に陥ってしまう過程と、依存症からそう簡単に抜け出せない理由をまずまず上手く描けていること。
正直、これが無ければ映画は腐っていただろうし、最後まで観客を引っ張ることができなかっただろう。

監督のD・J・カルーソーもストーリーを語ることに精一杯という感じではありますが、
前作の『テイキング・ライブス』よりはマシな仕上がりにしており、少しは評価してもいいと思う。
おそらくサスペンス映画を中心に活動していくことになると思いますが、次に期待はできるかな。

しっかし、アル・パチーノは若いなぁ。。。
心臓疾患を抱えた役柄ではあったけれども、10歳にも満たない子供がいる設定ですからね。
それが「年いってからの子供なんだろうな」とすぐに納得できるから、ある意味では驚きだ。
撮影当時、64歳ぐらいだったかとは思いますが、それだけ彼が若い証拠でしょうね。

映画の出来としては今一つですが、
目新しい分野にメスを入れた作品としては評価できるし、大袈裟に描こうとしなかった分だけ、好感が持てる。
欲を言えば、もうチョット尺が短ければ、もっと評価できたんですがねぇ〜。。。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 D・J・カルーソー
製作 ジェイ・コーエン
    ジェームズ・G・ロビンソン
脚本 ダン・ギルロイ
撮影 コンラッド・W・ホール
編集 グレン・スキャントルベリー
音楽 クリストフ・ベック
出演 アル・パチーノ
    マシュー・マコノヒー
    レネ・ルッソ
    アーマンド・アサンテ
    ジェレミー・ピヴェン
    ジェイミー・キング
    ケビン・チャップマン