ツイステッド(2004年アメリカ)

Twisted

サンフランシスコを舞台に、夜な夜なバーで男漁りをしていた女性刑事が
殺人課へ異動になると同時に、次々と肉体関係のあった男たちが殺害されていき、
次第に自身に対して周囲からの嫌疑が深まっていくミステリー・サスペンス。

監督は『ライトスタッフ』、『存在の耐えられない軽さ』のフィリップ・カウフマン。

とまぁ・・・チョットは期待させられる布陣で撮影されたにも関わらず、
日本ではほとんど注目されず劇場公開が終了し、あんまり良い評判を聞かない作品ですが、
確かにこれはないですわ。正直言って、フィリップ・カウフマンも落ちぶれたことを痛感した。

ビデオスルー扱いされる、他のB級サスペンス映画と何ら変わりない安っぽい作りで、
ヒロインにアシュレー・ジャッドをキャスティングしたことすら、ほぼ完全にフイにしたような出来の悪さ。

そりゃ、ドンデン返し系のサスペンス映画が好きな人はそこそこ楽しめるでしょうが、
申し訳ないけど、僕にとっては完全にNGですね。もっと堅実に描いて欲しいし、画面に緊張感も欲しい。
思わず、「オイオイ、アシュレー・ジャッド。一体、何やってんだ!」と叫びたくなってしまいます。

彼女は彼女で90年代後半に、何本かサスペンス映画のヒロインを演じて、
ヒット作を輩出してきましたから、彼女のネームバリューだけで集客できた時代があったことは確かですが、
ハッキリ言って、もうそういう時代は過ぎ去ってしまったし、何回も同じネタをリピートするような映画に
04年になっても堂々と出演してしまえるというのは、残念としか言いようがありませんね。

たいへん申し訳ない言い方ですが...
こういう作品を観てしまうと、ハリウッドのアイデアの枯渇を痛感せざるをえません。

強いて言えば、身に覚えのない嫌疑ばかりが増えていき、
次第に疑心暗鬼になって、自らの過剰なまでの攻撃本能を悟り始めるセオリーは悪くない。
アルコール依存症を発症し、酒を飲むたびに記憶を失ってしまうという設定を利用して、
映画の中盤あたりでは、上手くトリッキーな展開を操ることに成功していると言ってもいい。

だけど、本作はこれだけでしたね。
映画も終盤に差し掛かると、ドンデン返しを披露することに一生懸命になってしまい、
映画がやたらと説明的になって、さして驚きでもない真犯人の説明に明け暮れる。

まぁ多くの映画であまりに予想外の犯人像を打ち立てるあまり、
無理矢理にドンデン返しを作り、映画が音を立てて崩壊していくのを何度も観ましたが、
強いて言えば本作はそれには当たらない。それなりに伏線は描いているし、
真犯人の正体もまずまず納得できる。しかし、犯人の正体を明らかにするのを急ぎ過ぎましたね。
ミステリー映画としての情緒なんかも、あったもんじゃありません。これでは、すっかり興を削がれますね。

まぁ上映時間がタイトな映画ですから、
半ば無理矢理に引き締まった映画になったから良いけど、それでも何処となくダラダラした空気があるから、
おそらくこれ以上、上映時間が長かったらキツい内容でしょうね。これは賢明な判断だったと思います。

どうでもいい話しではありますが...
ヒロインは自身の生い立ちにコンプレックスがあり、自らも刑事として昇進したにも関わらず、
自分の中に潜んでいるかもしれない、邪悪な側面が出てくることを恐れていますが、
これは意外にも宗教的なテーマにも近接する面白い発想だったかもしれませんね。

宗教的なテーマはさておき、僕はこの精神的な混沌とした状態をもっと強調して欲しかったですね。
確かにヒロインが困惑していく姿を描いてはいますが、もう少し掘り下げて欲しかったところです。

まぁヒロインのジェシカにはそんな悩みがあったからこそ、
彼女はアルコール依存症という病理を抱えてしまうわけなのですが、
ひょっとしたら、アシュレー・ジャッドとしては汚れ役へ挑戦したという位置づけなんですかねぇ。
でも、個人的には彼女の魅力がほとんど活かされていないので、あまり良い印象はないんですけどね。。。

彼女を取り巻く共演者として、ミルズ本部長を演じたサミュエル・L・ジャクソンは教科書的で無難。
ヒロインとコンビを組むデルマルコを演じたアンディ・ガルシアは、故意に不可解に作り込み過ぎて、
かえって映画の終盤では、悪い意味で厄介なキャラクターになってしまった印象がありますね。

かなり厳しい言い方にはなってしまいますが...
ハリウッドもサスペンス映画の水準として、この手のレヴェルから脱しないと進歩がないですね。
映画というメディアだからこそ達成することができることという観点に立ち返って欲しいですね。
この手の映画を観ていて、僕は「これってシナリオを読んだ方が面白そう」とよく思うのですが、
さすがにこれでは映画化する意義が薄れてしまうと思うんですよね。

フィリップ・カウフマンの実績から言えば、
こういったジレンマを打破することは、そう難しいことではないはずなのですよね。
だからこそ本作の出来というのは、残念としか言いようがありません。

ちなみにタイトルには「泥酔」って意味もあるんですって。
とんだ“トリビア”ですが(笑)、不覚にも私、この映画と出会って初めて知りました。

(上映時間97分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

日本公開時[PG−12]

監督 フィリップ・カウフマン
製作 バリー・ベーレズ
    アン・コペルソン
    アーノルド・コペルソン
    リン・ラドミン
脚本 サラ・ソープ
撮影 ピーター・デミング
編集 ピーター・ボイル
音楽 マーク・アイシャム
出演 アシュレー・ジャッド
    サミュエル・L・ジャクソン
    アンディ・ガルシア
    デビッド・ストラザーン
    ラッセル・ウォン
    カムリン・マンハイム