ターナー&フーチ/すてきな相棒(1989年アメリカ)

Turner & Hooch

まぁ・・・これは犬好きの人をもブーイングする、という理由が分かりますねぇ。

映画はとある田舎町で発生した殺人事件に端を発して、
被害者が飼っていた獰猛な猛犬を、捜査担当の潔癖症の刑事が仕方なく引き取るという内容で、
よくあるタイプのバディ・ムービーとして作り手は考えていたのかもしれませんが、
残念ながら実際に完成した映画は、何もかもが空回りしている内容になってしまっていますね。

こういう映画のお約束だと思うのですが、
まずは登場してくる犬フーチをどこかに可愛らしい部分があることを描くのがセオリーだと思っていたのですが、
映画に何度か登場してくるフーチが走ってくるシーンを観る限り、全く可愛らしく見えない。
むしろ観客の恐怖心を煽るような描写とも解釈でき、この発想は醜悪と言ってもいい。
申し訳ありませんが、僕には何故にこんなシーンを採用したのか、まるで理解できませんね。

オマケにヨダレをダラダラ流す描写は多用するし、
結果的には全然言うことをきかないペットとして描かれるし、いくらなんでももっと良い描き方があると思う。

いくらなんでも、ヨダレをダラダラ垂らす大型犬がいきなり目の前に飛び掛ってきて
首をカブリとくるというのは、いくら犬好きとは言え怖過ぎるだろ(笑)。
思わず「この映画の作り手はホント犬好きなのか?」と疑問に思えてくるほどだ。

監督のロジャー・スポティスウッドはユニークなキャリアを積んできている映像作家だとは思いますが、
92年の『刑事ジョー/ママにお手上げ』も同様ですが、少なくともコメディ映画の腕は無いと思います。
やはりロジャー・スポティスウッドは本業の編集者として活躍した方がいいかもしれませんね。
映画の演出をするにあたっては、あまり成功例が無いような気がしますし、突出したものを感じません。

それと併せて言えば、
主人公の刑事が劇中、出会った女性獣医と恋に落ちるのですが、
この2人が恋に落ちていくまでの過程の描き込みが浅く、その説得力があまりに弱い。

主演はまだ若い頃のトム・ハンクスで、当時はコメディ映画を主体に活動しておりましたが、
彼の芝居のおかげで映画がトントン拍子に進んでいくことが唯一の救いと言ってもよく、
作り手の甘さを彼の存在感が補って、映画を必死に救おうとしている好例と言ってもいい作品ですね。

まぁロジャー・スポティスウッドはエンターテイメント性の高い企画を手がけても同様なのですが、
予算をかけた企画であっても、全体的な描き込みが浅く、映画自体が表層的なものが多い気がします。

だから各エピソードで、何かが必ずと言っていいほど、欠けている映画なんですね。
この辺は違うディレクターが撮っていれば、映画の出来は大きく変わっていたかもしれませんね。
もう少しずつ描写が加わっていれば、本作の場合は映画の印象が違ってくるでしょう。
肝心かなめの事件の捜査のシーンにしても同様で、やはりここでも“何か”が足りないですからねぇ。
(その“何か”が一体何なのか...明確に言葉では言い表せないのだけれども・・・)

過去に犬を登場させたバディ・ムービーは何本かあったと思うのですが、
タイトルにある“相棒”として描けていないのもいただけないですね。一緒に捜査している感覚に乏しいですね。
結局、何でこんな結果になったかというと、おそらく映画のコンセプトがハッキリしていなかったのでしょうね。

80年代後半〜90年代半ばにかけては、この手の動物活躍映画が多かったですからねぇ。
82年の『48時間』から始まったバディ・ムービーのブームとの融合という趣きな作品と言えます。

それにしても、主人公ターナーの根気の良さは、僕も見習わなければなりませんね(笑)。
と言うのも、部屋の中をメチャクチャにされ、ドアなんかもブチ壊されてしまうんだけれども、
ターナーは平静を装ったかのように部屋を掃除して、決して取り乱したりしません。
これが仮に自分に起こっていたら、さすがに我慢できないかもしれませんね(苦笑)。
(まぁ・・・あんな獰猛で言うことをきかない犬を、単独で留守番させる方が悪いのかもしれないけど)

そういう意味では、フーチがどんなに悪さをしても...
思わず怒る気をなくしてしまうような、憎めないところがあったのかなぁ〜?とも考えてしまうから、不思議(笑)。

それにしても、こういう犬を見てしまうと、躾の重要性を痛感しますねぇ。
人間にしても同様なのですが(笑)、一度、悪さを許してしまうと止め処なく暴走してしまいます。
だから一旦、“自由人”みたいに育ってしまうと、後からその軌道修正するのが大変です。
ですから「最初が肝心」なのです。これは僕も、身をもって実感したキーワードであります(苦笑)。

映画のクライマックスはチョット意外な結末になります。
これはこれで予想外で、セオリーを踏まなかった作品と言えると思いますが、
しっかりとオチを付けたあたりは上手かったですね。思わず僕も終盤の展開には驚いてしまいました。

この頃のトム・ハンクスは肩の力を抜いたかのような芝居で良いですね。
本作の前年にヒット作『ビッグ』に出演していたり、出演作の多くがコメディ映画でしたね。
90年代半ばに演技派俳優へと転身した感がありますが、この手の作品への出演が減ったのが残念ですね。

おそらく映画製作にあたっては多くの苦労があったでしょうが、
本作製作にあたって一番苦労したのは、おそらくフーチに芝居させた飼い主でしょうね。

(上映時間98分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ロジャー・スポティスウッド
製作 レイモンド・ワグナー
原案 デニス・シュリアック
    マイケル・ブロジェット
    ダニエル・ペトリJr
脚本 デニス・シュリアック
    マイケル・ブロジェット
    ダニエル・ペトリJr
    ジム・キャッシュ
    ジャック・エップスJr
撮影 アダム・グリーンバーグ
音楽 チャールズ・グロス
出演 トム・ハンクス
    メア・ウィニンガム
    クレイグ・T・ネルソン
    レジナルド・ベルジョンソン
    J・C・クイン
    ジョン・マッキンタイア
    スコット・ポーリン
    クライド 草津