乱気流/タービュランス(1997年アメリカ)

Turbulence

クリスマス・イブの夜に凶悪犯を護送するニューヨークからロサンゼルスへと向かっていた、
ボーイング747−200の機内で、凶悪犯が暴れだしFBI捜査官を殺害して、僅かに搭乗していた
数人の乗客を実質的な人質に取ったことから、幾多の乱気流に自動操縦のまま突っ込みながらも、
一人の女性キャビン・アテンダントが必死の抵抗をして、無事、着陸させようとする姿を描いた航空サスペンス。

監督は60年代からテレビ業界でも活躍し続けていたロバート・バトラーで、
彼は76年に『メイデイ40,000フィート』というテレビ映画で、全く似たようなストーリーで映画化していました。

結論から申し上げると、映画の出来自体はそこまで良いものとは思えないが、
予想外な部分もあって、まるでB級映画のような安っぽささえ我慢できれば、そこそこ楽しめる気がします。
繰り返し描かれる5人を殺害したとされる凶悪犯と、女性キャビン・アテンダントとの攻防がスリリングで、
映画の終盤に至っては、まるで『シャイニング』のようなホラー映画と化す部分はありそうでない展開だ。

いくらなんでもオート・パイロットだけで、これだけの嵐を無事、通過できるというのも、
どこか誇張し過ぎな感はあるし、これだけの急降下と急上昇と繰り返していれば、機内での行動も制限され、
いくら常軌を逸した犯人とは言え、失神してしまう人が発生しても、なんらおかしくはない状況だ。

まぁ・・・クライマックスのロサンゼルス空港での緊迫した着陸シーンにしても、
いくら車輪だけとは言え、あれだけビルの最上階や駐車場の車に接触したり、
翼の端がビルの屋上の看板と接触しながら機首を上げようとすれば、もっと飛行には影響していたはずで、
そういった部分は良くも悪くもハリウッド映画お得意のご都合主義という感じで、これも賛否両論だろう。

しかし、個人的にはそこは許してあげて欲しい(笑)。

これが無ければ、おそらく本作は映画という娯楽に於いて、成立しえないことになってしまう。
ただ、ひたすらジャンボ機を素人が自動操縦を駆使しながら、ロサンゼルス空港の滑走路に着陸させることだけを
描いた映画にしてしまったら、序盤から作り上げてきたスリルの連続が、突如として緩んでしまうのはマイナスだ。

そこは目を瞑ったとしても、本作で一番のネックはヒロインの描き方だろう。
勿論、彼女がピンチを切り抜けるために孤軍奮闘すること自体は間違ってない。
少なくとも、これが本作のメインなわけですから、彼女が常人離れした活躍をしなければならない。

だからこそ、その説得力を出さなければならないし、
何より映画を観ていく中で、ヒロインを思わず応援したくなるようなキャラクターでなければ魅力的な映画にならない。

そういう意味で、本作は弱いですね。申し訳ないけど、ヒロインが磨かれていないように見える。
映画の終盤は機内で凶悪犯と対決しなければならず、傷だらけになりながら格闘するのですが、
一つ一つの行動に手際の良さがないせいか、思わず「こんな調子では、犯人に対抗できなさそう・・・」と
観客に悟られてしまうのですが、こんな調子では本作の場合はダメだと思うんですよね。

観ていて、「もっと早く行動して!」と思えてしまう瞬間があまりに目立つ。
これでは結果的に陰湿な凶悪犯に対抗しながら、大型ジャンボを無事、着陸させようとする姿自体が
どこかウソ臭く見えてしまい、挙句の果てには観客にストレスを感じさせる存在になって、彼女が応援されなくなる。

泣き喚きながらも、必死に操縦席へと向かう姿は確かに勇敢ですが、
本作の大前提として、ヒロインが対処しなければならない相手が、凶悪犯一人だけではなく、
大型ジャンボ機という想像を絶する存在も相手にするということなだけに、作り手はもっとよく考えるべきでしたね。

それにしても、レイ・リオッタ演じるウィーバーのサイコな存在は強烈だ。
「現実にこんな奴がハイジャック犯になってしまったら一巻の終わりだろう」と観客に思わせるだけの存在だ。

演じるレイ・リオッタも実に上手い。彼はこういう悪党を演じることもあるし、
刑事やFBI捜査官のような役を演じることもあるけど、いずれにしても悲惨な最期を迎えるという扱い(笑)。
おそらく風貌から、こういう役ばかり回ってくるのだろうけど、ネチっこい役をやらせると上手い。

しかし、この映画のよく分からないところは、ああいうサイコパスな役にするならば、
映画の序盤で彼を検挙した刑事を演じたヘクター・エリゾンドにも怪しさをもたらすような描き方をしたというのが、
ホントに賢明なアプローチだったのか、疑問ですね。ウィーバーの賢さを表現する意味で、一時的にヒロイン側に
つくかのような描き方をしたことは面白かったですが、こういう展開であるからこそ、彼を検挙した刑事の存在を
危うい描き方をするべきではなかったと思いますね。彼はもっと芯のあるキャラクターとして描いて欲しかった。

それにしても、映画に登場するボーイング747−200のカラーリングを見て気づいたのですが、
“トランス・コンチネンタル社”の機体は、JALの機体を少しだけ変えたデザインでビックリですね。
尾翼を見ると、首から上がない鶴丸マークで、どこからどう見てもJALにしか見えないというのが凄い。

ボーイング747シリーズは、日本では政府専用機で残っているぐらいで、
JALが真っ先に退役させてしまい、後を追うようにANAも全機退役となって、日本の国内線では乗れない機種に
なってしまいました。同じ大型機でも、エアバス380と比較しても燃費などの面では大きなハンデのようだ。
そういう意味では、本作で登場したJALのジャンボ機を連想させるデザインはとても懐かしい姿ですね。

そんな映画の本編とはあまり関係ないところが気になってしまいますが、
映画の中盤まではまずまずの出来栄えと言っていいと思いますが、やはりヒロインの描き方がイマイチなためか、
映画も終盤になってくると説得力が弱くなってしまい、一気にトーンダウンしてしまうのが残念でしたね。

ちなみにヒロインを演じたローレン・ホリーはこの頃、
ハリウッドでも人気急上昇中だったコメディ俳優ジム・キャリーと結婚していたことが話題だった女優さんで、
この頃はハリウッドでも仕事が増えていたように記憶していますが、どうやらジム・キャリーと離婚後、
カナダ人と結婚して、カナダへ移住してしまったようで映画女優としての仕事はセーブしているようですね。

まぁ・・・飛行機に搭乗する前には、観ない方がいいタイプの作品であることは間違いないようです(苦笑)。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ロバート・バトラー
製作 マーチン・ランソホフ
   デビッド・ヴァルデス
脚本 ジョナサン・ブレット
撮影 ロイド・エイハーン二世
音楽 シャーリー・ウォ−カー
出演 ローレン・ホリー
   レイ・リオッタ
   ヘクター・エリゾンド
   レイチェル・ティコティン
   ベン・クロス
   ブレンダン・グリーソン
   キャサリン・ヒックス
   ジェフリー・デマン

1997年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(ローレン・ホリー) ノミネート
1997年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト非人道・公共破壊貢献賞 ノミネート