勇気ある追跡(1969年アメリカ)

True Grit

後に原題の『トゥルー・グリット』としてリメークされましたけど、
西部劇スター俳優ジョン・ウェインとしての集大成とも言うべき名画となった、ドラマチックな西部劇。

ジョン・ウェインが念願のアカデミー主演男優賞を獲得することになり、彼の代表作の一つと言っていいだろう。

監督はジョン・ウェインとも西部劇映画を撮ってきた実績あるヘンリー・ハサウェイで、
本作は老境を迎えた保安官が、父を殺された若い娘に依頼されて逃走犯を追う姿をドキュメントしていきます。
言っても、この映画の主人公コグバーンは模範的な人間ではなく、飲んだくれの荒っぽい年寄りです。
しかし、そこを依頼人の若い娘を演じたキム・ダービーが、どこか中性的な雰囲気で見事な助演で貢献している。
ハッキリ言って、この映画ではジョン・ウェインがキム・ダービーに支えられているように見えましたね。

キム・ダービーは撮影当時、まだ20代前半という若さでしたが、どことなく気になる存在感がありました。
本作の後にも70年のアメリカン・ニューシネマの代表作『いちご白書』に出演し、高く評価されましたが、
残念ながらその後は大成するに至りませんでした。細々とですが、長く女優活動は続けているようですが・・・。

この女の子も、いくら父親を殺されたからとは言え、一人で弁護士を懐柔して見ず知らずの
酔いどれの保安官を雇って、危険極まりない殺人犯の追跡に同行するなんて、凄まじい勇気のある行動だと思う。

ジョン・ウェインもさすがに老体に鞭打っている感が色濃く出始めていた時期なので、
あまり激しいガン・アクションがあるというわけではないし、映画の終盤にある悪役を演じるロバート・デュバルとの
対決シーンにしても、どこか無理矢理な印象も拭えないのですが、その分だけキム・ダービーが補っているのだろう。

そう、この映画、若き日のロバート・デュバルが先住民族の生活圏に逃げ込んだ、
逃走犯を演じていて、ジョン・ウェイン演じる保安官と因縁のある対決となるのですが、まだまだ重厚感が無いですね。
それは仕方ないにしろ、もっと冷酷非情なキャラクターでも良かったと思う。意外に人情ある感じで、手ぬるい。
それはキム・ダービー演じる女の子が水を汲みに行くと水源に行こうとして、足を滑らせて斜面を落ちてしまって、
逃走犯たちに見つかって捕まってしまうというシーンがあるのですが、この一連のシーンがどう見ても甘い対応をする。

保安官が長く追い続けた逃走犯であり、色々な犯罪を重ねてきたようなニュアンスで語られていますが、
この映画で描かれるロバート・デュバルはどこか人情味があって、女の子に厳しく接さないのが不思議でならない。
ましてや、西部時代の物語なわけですからね。まぁ、見つかればすぐに殺害されていても、全く不思議ではない状況だ。

映画の都合もあるので、そこまでは描けないだろうけど、この映画には良くも悪くも甘さがある。

良い面で言えば、やはり老境に差し掛かったジョン・ウェインの懐の深さを示す意味での甘さ。
いや、これは彼らなりの優しさなのかもしれない。まるでキム・ダービー演じる女の子の成長を見守っているようだ。
そういう意味で本作は実に高い包容力のある映画だと言ってもいいのかも。これこそジョン・ウェインの懐の深さだ。

それは、ジョン・ウェインにとっての復讐劇というわけではなくって、少女の復讐をアシストするという
新たなスタイルで西部劇を構成したあたりにも、ジョン・ウェインが新たなステージに入ることの宣言ともとれる。

70年代に入ってからのジョン・ウェインの出演作品って、ほとんどこんな感じの映画だったのですが、
おそらく俳優人生の集大成という想いが、本作あたりが強かったのではないかと勝手に邪推してしまいます。
本作の一歩引いたようなところから、若い世代が行動する姿をアシストするかような立ち位置が、なんとも印象的だ。
(とは言え、本作はあくまで主演であり、アカデミー主演男優賞を受賞することになるのですがね・・・)

そんなジョン・ウェインの姿をカメラに収めるというわけですから、ヘンリー・ハサウェイの演出にも甘さが出る。
これはある程度は仕方ないのかもしれませんが、この映画の場合はもっと悪役を磨けば、更に良くなったはずだ。
正直言って、ジョン・ウェインのかなりパーソナルな想いを映画化させたという感じですから、賛否は分かれるだろう。

そう思って観ると、どことなくこの保安官の悪党の追い詰め方も手ぬるい感じで、厳しさが希薄ではある。
オマケに保安官に同行するレンジャー隊の男もユルくて、ヒリヒリするような復讐劇を求める人には物足りないだろう。

ちなみに本作は75年にジョン・ウェイン主演で『オレゴン魂』という作品が製作されましたが、
ストーリー的に本作の二番煎じであったことと、キャサリン・ヘップバーンという名女優をキャスティングしながらも
あまり評価されることなく終わってしまいました。そういう意味では、キム・ダービーの存在感は大きかったのかも。
(映画ファンの中には『オレゴン魂』の方が面白かった、という人も少なくはないようですが・・・)

映画の出来としては、僕の中では大傑作というほどではないし、ジョン・ウェインに対する功労の意味合いが強い。
とは言え、ジョン・ウェインのために用意した土台とも言うべき、この映画を仕上げたヘンリー・ハサウェイの
想いが強く込められている作品として感銘を受けるし、ルシアン・バラードの美しいカメラが際立っているのも良い。
ロケーション抜群のコロラドの山々を、実に美しい色合い、採光の塩梅など他作品を凌ぐカメラと言っていいですね。

残念ながら、当時はあまり評価されなかったようですが、本作のルシアン・バラードの仕事ぶりは見事と思います。

ルシアン・バラードは1930年代から撮影監督して映画界で活躍していたベテランでしたけど、
特に屋外での撮影が素晴らしかった印象で、カラー・フィルムになってから本領を発揮したという印象ですね。
本作の頃はサム・ペキンパーらとの仕事が有名でして、西部劇を中心に撮影して他の追従を許さない存在でした。
ルシアン・バラードって一度もアカデミー賞を獲得できなかったのですが、もっと評価されても良かったと思うんですよね。

映画のクライマックスで女の子が洞窟みたくなっている穴に転落してしまって、
父を殺した男に追いつめられるという絶体絶命のピンチがあります。ここも緊張感が希薄なのが勿体ないですが、
腕を怪我してしまった影響で身体の自由が利かず、近くには大型のヘビがいるという尋常ではない状況だ。

悪党がウダウダやっているのが玉に瑕(きず)ですが、助けが来たと言っても、
近くにいるヘビが彼女の手に噛みつくなんてシーンがあって、ビックリしてしまった。毒ヘビという設定らしく、
現実にあんなことがあったら、命の危険があると思うのですが、迅速な処置をするジョン・ウェインが頼もしい。

まぁ、本作が製作された1969年という時代は完全にアメリカン・ニューシネマ期に入っており、
往年の西部劇スターの大御所であったジョン・ウェインも「古臭い」とか「過去の映画スター」扱いされていたようだ。

ハリウッドでも映画の潮流があるので仕方ない部分もあるとは思うのですが、
前述したように本作はそんな斜陽な存在になりつつあったジョン・ウェインを危惧し、彼のために用意した企画でしょう。
それがルシアン・バラードの美しいカメラ、キム・ダービーという新たなヒロイン像を確立して、再評価されることになった。
運に恵まれた点もあったとは思うのですが、これはジョン・ウェインの人徳で成り立った映画と言ってもいいでしょう。

本作でキム・ダービーが演じた女の子は、復讐心にかられて主人公の保安官に依頼したのですが、
彼女は愛する父を殺された義憤があるにしては、随分と映画の全編で天真爛漫な感じで悲壮感は感じられない。
これ事態も賛否が分かれそうですが、こういう明るいキャラクターで自分の目標を達しようとする姿は新しかったはず。

ある意味で、70年代の女性像を反映するようなキャラクターと言ってもよく、
正直言って、キム・ダービー自身もセクシーさや可憐さを持ち味としているわけでないのですが、
この前向きな姿勢で立ち向かうキャラクターとして、さり気なく新しい風を作り手は吹き込もうとしたのかもしれない。

ですから、邦題になっている“勇気ある追跡”って、誰の勇気なのかと言うと彼女なのかもしれませんね。
危険な地区に逃げ込んだ犯人を追っていくということですが、当時は女性が追うというのは、あり得なかったことだろう。

後々、『クイック&デッド』のような女性ガンマンを登場させた西部劇も製作されましたが、
少なくとも60年代以前の西部劇にはほとんど見られなかったような設定であり、当時は珍しかったでしょう。
本作のヒロインはガンマンというわけではありませんが、女性を主人公格に据えた西部劇としてはパイオニアでしょう。

しかし、それでいながらニューシネマ・ムーブメントに乗っからずに、
衝撃的なラストに傾倒せずに西部劇の王道のセオリーを踏襲して映画が終わるあたりに、彼らのプライドがあるのかも。

(上映時間129分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ヘンリー・ハサウェイ
製作 ハル・B・ウォリス
原作 チャールズ・ポーティス
脚本 マーガレット・ロバーツ
撮影 ルシアン・バラード
音楽 エルマー・バーンスタイン
出演 ジョン・ウェイン
   キム・ダービー
   グレン・キャンベル
   ロバート・デュバル
   デニス・ホッパー
   ジェレミー・スレート
   アルフレッド・ライダー
   ストローザー・マーチン

1969年度アカデミー主演男優賞(ジョン・ウェイン) 受賞
1969年度アカデミー歌曲賞 ノミネート
1969年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(ジョン・ウェイン) 受賞