トゥルー・クライム(1999年アメリカ)

True Crime

それまで何一つ知らなかったコンビニ強盗犯の死刑執行を巡る騒動を、
偶然に取材することになった、ニューヨークから田舎町の新聞社に流されたベテラン新聞記者が
前任の他界した若き女性記者の取材記録や、自らの取材を基に死刑囚が無実であると勘が働き、
残された12時間という、極めて短い時間の間で、真実をスクープしようとする姿を描いた社会派サスペンス。

ひじょうに地味な作品であり、イーストウッド監督作としては
あまり目立たない作品ではありますが、僕はこの映画はとても良く出来ていると思う。
やはりこういう仕事ができるからこそ、イーストウッドは映画監督としての評価を確固たるものにしたのだろう。

できることなら、主人公のエベレットはイーストウッド自身が演じない方がいいのではないかと
僕は勝手に思っているのですが(笑)、それを無視すれば、まるでお手本のような映画と言ってもいい。

映画の冒頭から、どういう経緯か知らないけど、娘みたいな若い女の子をバーでクドいていて、
いきなりキスしちゃうなんて、イーストウッドらしい迫り方(笑)がいきなり炸裂しているのですが、
撮影当時、もうイーストウッドも69歳という高齢であり、確かに彼にはそれができるぐらいセクシーなんだけど、
思わず「いい加減、自分の監督作ぐらいは自重しろよ!」と言いたくなるぐらい、下心アリアリって感じで(笑)、
その後も職場の同僚の妻と浮気して、それを指摘されると逆ギレしたかのように相手を煽るわとやりたい放題。

いざ自分の浮気を妻に知らされて、家に帰っても、反省するわけではなく、
何度も積み重なった旦那の浮気に悲しみに暮れ、離婚を切り出す妻を映して、
まるでエベレットの浮気歴を武勇伝であるかのように開き直って描くのも、イーストウッドらしい亭主関白さ。

仕事のスタイルも完全に一匹狼で、どちらかと言えば、アウトローな雰囲気。
唯一、理解を示してくれる上司アランにも反抗し、全く指示を聞く気がないという、困った男だ(笑)。

オマケに頻繁に会っているとは言い難い、まだ幼い娘を久しぶりに動物園へ連れていくというのに、
仕事の電話に夢中で、挙句の果てには取材時間が迫っているからと、娘をベビーカーに乗せて、
猛スピードで園内を回っていたら、勢い余ってベビーカーをひっくり返し、娘を怪我させる始末。
こりゃエベレットの奥さんも愛想つかせて、エベレットと会う気もなくなるわけですね(苦笑)。。。

オマケには、華のニューヨークから追い出されたことからの反動なのか、
酒とタバコに溺れ、アランはじめ会社からは厳しく、禁酒・禁煙を強制されるほどの自堕落っぷり。

とまぁ・・・この映画の主人公エベレットは、
新聞記者としての腕は一流かもしれませんが、一社会人、一家庭人としては最低な男だ(笑)。
そういう最低な男を、イーストウッドが進んで演じるというわけですから、妙な下心を感じちゃうんですよね(笑)。
やっぱり、できることならこのエベレットは他の役者に演じさせて欲しかったなぁ。これだけが唯一の悔い。

アランを演じたジェームズ・ウッズは実績も十分な役者なわけですから、
個人的にはもっと出番を増やしてあげて欲しかったですね。そういう意味で、アランをイーストウッドが演じて、
エベレットをジェームズ・ウッズが演じても面白かったと思うんだよなぁ。これは是非、考え直して欲しかった。

でもまぁ・・・それでも、これが如何にもイーストウッドらしい反面教師っぷりで(笑)、
古くからの彼の映画のファンは、本作のような徹底したダメ男っぷりを観て、思わずニヤリとさせられるかも。

但し、前述したように映画の出来自体はひじょうに良いと思います。
あまり派手さはなく、ラストに驚くようなドンデン返しがあるわけではないのですが、
イーストウッドは実に建設的に一つ一つ積み上げて、エベレットが直感に忠実に行動し、
無実の罪で投獄された可能性のある死刑囚が、今にも死刑に処されようとしているという不条理を
覆すために奔走する姿に、程よい緊張感を吹き込むことに成功しており、凄く良かったと思いますね。

まぁ・・・確かに売れ線な内容の映画ではありませんから、
興行収入成績は芳しくなく、言ってしまえば、大赤字で終わってしまった映画になったのですが、
それは凄く勿体ないことで、本作は絶好調の時代となった00年代へのキッカケとなる作品だったと思いますね。
(少なくとも90年代に彼が撮った映画としては、本作はベストと言っていい出来だと思う)

ややクライマックスの展開はクサい部分もあるが、そう悪くはないと思う。
居心地の悪いクライマックスにしないあたりは、社会派映画というより人道的な映画に近いですが、
敢えてストイックに正義を追求する姿勢は、かつて彼が描いていた姿勢から一貫したものを感じますね。

僕の中での印象として、イーストウッドの監督作でここまでハードボイルドな内容というのは、
本作が初めてではなかろうかと思うのですが、彼の他の監督作よりも歪んだ部分が少なく、
どちらかと言えば硬派でソリッドな感覚がある映画になっており、初期の作品の感覚を思い起こさせますね。
そういう意味では、確かに出来自体は悪いとは思っていなかったのですが、アカデミー賞を獲った、
92年の『許されざる者』以降の彼の監督作って、どうもパンチに欠ける気がしていたのですが、
オスカー受賞後、本作で何かかつての尖った感覚を取り戻したような気がしますね。

まぁ徐々に自身の監督作品にも出演する頻度を落としていき、
08年の『グラン・トリノ』を最後に、俳優業から身を引きし、映画監督に専念することを宣言します。

まぁ今になって思えば、95年の『マディソン郡の橋』までは、
“老いなんてどこ吹くか風”みたいな役柄でしたから、本作あたりから強く老いを観客に意識させており、
これが02年の『ブラッド・ワーク』、04年の『ミリオンダラー・ベイビー』と続くわけで、
本作あたりからは、徐々に俳優業から身を引く準備をしていたとも、解釈できるかもしれませんね。

そう思ってみると、またチョット違った味わいが感じられる映画で妙味な部分がある作品だ。

(上映時間127分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 クリント・イーストウッド
製作 クリント・イーストウッド
    リチャード・D・ザナック
    リリ・フィニー・ザナック
原作 アンドリュー・クラヴァン
脚本 ラリー・グロス
    ポール・ブリックマン
    スティーブン・シフ
撮影 ジャック・N・グリーン
美術 ジャック・G・テイラーJr
編集 ジョエル・コックス
音楽 レニー・ニー・ハウス
出演 クリント・イーストウッド
    イザイア・ワシントン
    ジェームズ・ウッズ
    デニス・レアリー
    ダイアン・ベノーラ
    リサ・ゲイ・ハミルトン
    ディナ・イーストウッド
    ルーシー・リュー
    シドニー・タミーア・ポワチエ
    フランチェスカ・フィッシャー=イーストウッド