トロイ(2004年アメリカ)

Troy

ホメロス原作の古代ギリシアのトロイア戦争を題材にした歴史大作。

監督はドイツ出身で、00年代に入ってからは大作志向の映画を撮るようになったウォルフガング・ペーターゼンで、
00年の『パーフェクト・ストーム』はあまり感心しない出来だっただけに、本作は挽回として期待していたのですが、
まぁ・・・見どころが無いわけではないにしろ、全体としてはそこまで見応えがあって良い映画という印象ではなかった。

本作はあまりに有名な原作をモデルにしたフィクションという形であったことから、
劇場公開当時、かなりの批判を浴びたようですが、正直言って、僕はそれはそこまで気にしていない。

ただ、ただでさえ2時間30分以上ある上映時間なのに、それ以上に長く感じられた。
特にこの映画は前半が良くない。本題に入るまでが長いわけではないのに、どうにも展開が遅い。
部分、部分では良いシーンがあるのだけれども、どうにも映画の流れが悪く、必要以上に展開が遅く感じられる。
この辺はウォルフガング・ペーターゼンくらい経験値のあるディレクターであれば、もっと上手くやって欲しかったなぁ。

筋肉隆々のブラッド・ピットも良いけど、クライマックスの“アキレス腱”の語源と言われる、
アキレスの弱点である、かかとに矢を放つシーンも本来であればハイライトであるべきはずなのに、
なんだか盛り上がらずに唐突に訪れて、アッサリと終わってしまう。力の入れどころを間違えたようなチグハグさ。

難攻不落のトロイが陥落するという大きな出来事であるはずなのに、
その壮絶な闘いよりも、僕はむしろ映画の中盤にあったような、オーランド・ブルーム演じるパリスが、
奪い去った王妃のヘレンの夫に決闘を申し込んで、対決するシーンの方が迫真の臨場感があったと思う。
それから、アキレスとパリスの兄ヘクトルの対決シーンにしても悪くない。これらがクライマックスより良いというのは・・・。

余談ですが、この物語の後日談も気になるところ。
パリスがあんな調子で、多くの戦士を従えることができたのかと、個人的には心配でなりません(笑)。
(時代性もあるけど、あそこまで情けない姿を見せてしまっては、全く士気が上がらずに統治できなさそう・・・)

ヘクトルから見れば、そりゃ実の弟ですから愛する兄弟でしょうが、
パリスが実際問題としてヘクトルの後継としてなり得る存在として考えていたのか、彼の本音もよく分からない。

個人的には映画の最後には、パリスがもっと屈強なリーダーとして成長する姿を見せて欲しかったなぁ。
映画の冒頭から威勢は良かったが、人間性も含めてパリスが魅力的なキャラクターには見えなかっただけに。
この辺は脚本の問題もあるとは言え、ウォルフガング・ペーターゼンが映画全体のバランスを見て欲しかったなぁ。
まぁ、オーランド・ブルームのルックスからして、あまり屈強なキャラクターというのも合わないけどね・・・。

この映画はマンツーマンの対決シーンの撮り方が良い。とても臨場感があり、迫力がある。
編集や録音など、なかなか良い仕事をしている。それとは対照的に、何度かある合戦のシーンは今一つ。
大々的にCGを使っているせいもあるけど、マンツーマンの対決シーンの迫力と比べると、圧倒的に見劣りする。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか・・・と、これは僕には致命的な難点になったと思えてなりません。

おそらくスペクタクル感を演出したくて、何度も合戦のシーンを描いたのでしょうけどね、
空から落ちてくる矢の数々にしても、やはりCG感の強い映像では臨場感が今一つ。ここはもっと工夫して欲しかった。

女優陣としては、ヘレンを演じたダイアン・クルーガーの扱いが大きいですけど、
ヘクトルの妻を演じたサフロン・バロウズも印象的で、個人的にはもっと観たいなぁと思わせる女優さん。
ただ最も強いインパクトを残したのは、パリスの従姉妹のブリセイスを演じたローズ・バーンでしょう。
スパルタに捕らえられて奴隷のように扱われるところをアキレスに救われて、アキレスと恋仲になるという、
フォーカスされる役柄だったということもありますが、彼女はブラッド・ピットに負けない存在感だったと思います。

ただ、この2人も何故にそう簡単に恋に落ちてしまったのかが、あんまり説得力が無い。
恋なんてそんなものと言ってしまえばそれまでだが、なんだか唐突に恋仲になるようで少々違和感がある。

結果的にアキレスの従兄弟をヘクトルが殺してしまったがために、アキレスの怒りをかってしまい、
アキレスとヘクトルは対決することになってしまうわけで、この対決はどのような結果でもブリセイスにとっては悲劇だ。
本作はこういう、不条理なシチュエーションへ持って行くことは上手く出来ているので、惜しいところではある。
お膳立てが出来ていても、実際の映像表現として噛み合わなければ、映画は上手くいかないという典型例のようだ。

ブラッド・ピットが本作の出来に不満を漏らしたとか、そんなゴシップも流れたようですが、
僕はそう言いたくなる気持ちも分からなくはない。ブラッド・ピット自身も、もっと見応えのある映画にしたかったのだろう。
(どうやら、ブラッド・ピットはストーリーそのものに納得していなかったが、契約の関係で降板できなかったようだ)

キャスティングはスゴい豪華で、当時の若手俳優から中堅、ベテラン俳優まで出演している。
チョイ役ではありますが、ジュリー・クリスティも出演していたりして、映画ファンの心くすぐるキャスティングだ。
その中でも、ヘクトルらの父でトロイの統治者を演じたピーター・オトゥールは晩年のベストワークかと思う。
特に目の前で愛する息子を殺され、それでも尚、その相手に懇願しに行く姿にこの上ない哀しみを感じた。

スパルタの統治者を演じたブライアン・コックスにしても、その弟のブレンダン・グリーソンにしても、
脇役陣も実にしっかりとしていて、キャスティング面では充実したとても良い映画の“土台”を作り上げている。
これはプロダクションとしてもよく頑張ったと思えるだけに、やはりこの出来はとても残念で、なんだか勿体ない。

しばらくの間、古代ローマ史などを描いた歴史大作系の映画は少なくなっていましたが、
2000年の『グラディエーター』が高く評価され、世界的にも大ヒットを記録したことによって、一気に増えました。
本作もその系譜であり、同時期に『アレキサンダー』や『キングダム・オブ・ヘブン』といった作品が次々と作られました。
こういった一連の流れから言っても、本作の出来はかなり物足りないものであることは否めず、世評も低かったです。

きっと、作り手によってはもっと見応えのある映画に仕上げることができた素材だっただけに、
もっと企画の段階から練って、できることであればCGは最小限にして生々しい迫力にこだわって欲しかった。

ウォルフガング・ペーターゼンは残念ながら他界されてしまいましたが、
僕はウォルフガング・ペーターゼンの手腕は他の作品で十分に証明されていると思うし、悪く言いたくはない。
ただ、本作を観て率直に感じたのは、彼のスタイルは歴史劇にはあまり合わないのではないかということ。
どこかドキュメントするような感覚で撮っているように感じるので、どちらかと言えば、現代劇向きの映像作家と思う。

CGも全否定はしないけど、マンツーマンの対決シーンと比べて見劣りするCGならば、
ハッキリ言って使わない方がいい。本作は正に、そのような結果となってしまっており、僕はどこかノリ切れなかった。
そのせいで、映画のエンジンがかからないような感覚になってしまって、上映時間を必要以上に長く感じたのだろう。

まるで彫刻のようなブラッド・ピットの筋肉は眩しいし、彼のファンなら観た方がいい作品だ。
それから、あまりブレイクはしなかったがヘクトルを演じたエリック・バナも良い。男が見ても、カッコ良いと思える男だ。
オーランド・ブルームは情けない役柄だが、逆の言い方をすると、これはこれで売り出し中の時によく演じたと思う。

そんな彼が巻き起こした横恋慕が原因で、スパルタとトロイが戦争になったなんて、
あまりにチープなフィクションという感じもしますが、往々にして歴史はそんなことから作り替えられるのかもしれない。

(上映時間162分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ウォルフガング・ペーターゼン
製作 ゲイル・ガッツ
   ウォルフガング・ペーターゼン
   ダイアナ・ラスバン
   コリン・ウィルソン
原作 ホメロス
脚本 デビッド・ベニオフ
撮影 ロジャー・プラット
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 ブラッド・ピット
   エリック・バナ
   オーランド・ブルーム
   ダイアン・クルーガー
   ショーン・ビーン
   ブライアン・コックス
   ピーター・オトゥール
   ブレンダン・グリーソン
   サフロン・バロウズ
   ローズ・バーン
   ジュリー・クリスティ

2004年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート