トロピック・サンダー/史上最低の作戦(2008年アメリカ)

Tropic Thunder

ベン・スティラーが多額の予算をかけて製作した、おバ●を頑として通したコメディ映画。

まぁこれだけふざけ通した映画というのも、筋金入りのスピリットですが、
本音を言えば、映画の冒頭の偽予告編3連発が一番面白くって、以降は息切れって印象かな。
ハリウッドを象徴する、アメリカの代表的なスタジオが数社、ロゴを“貸し出して”いて、
「よくもまぁ・・・これだけの協力を得ることができたなぁ〜」と思わず、感心してしまうぐらいだ。

そのせいか、劇場公開されていた頃は、色々と話題になっていたこともあり期待していたのですが、
その期待には応えてくれなかった作品という感じで、残念ながら映画で繰り出されるギャグにテンポが無い。

確かにベン・スティラーは楽しそうに映画を撮っているし、
恵まれた豪華なキャスティングを駆使して、満足のいく撮影だったことでしょうが、
これはハリウッドの内輪で楽しむタイプの映画って感じで、あまり僕は入り込めなかった部分はあるかなぁ。

臓器流出で遊んだり、生首で遊んだりと、
結構、映像的にグロいシーンがあるので驚かされたり、過去の映画のイメージを借用して、
パロディ的に楽しんだりと、たぶんそれぞれに賛否が激しく分かれるであろうギャグが満載です。

日本で劇場公開されたときにレイティングの対象になってしまったのは、
おそらくこのためだと思いますが、審査でレイティングの対象になってしまったのは、仕方ないかなぁとは思います。

公開当時、大きく話題となった特殊メイクを駆使して出演した、
敏腕映画プロデューサーに扮したトム・クルーズは、これまでのイメージを覆す怪演ですが、
彼だけではなく、演技派の色合いが強過ぎて、黒人のキャラクターを演じ切るためにと、
実際に皮膚を黒くするなど、やり過ぎな役作りに傾倒するオーストラリア出身の俳優カークを演じた、
ロバート・ダウニーJrも十分過ぎるほどの熱演を見せていますので、若干、パンチに欠けたかなぁ。

このトム・クルーズの怪演を引き立たせたいのであれば、これは失敗だったかも。
個人的にはロバート・ダウニーJrの方が、映画の“美味しい部分”を全て持っていったという印象が強いですね。

ロバート・ダウニーJr演じるカークは常にアカデミー賞を意識したことを言っていますが、
実際に彼は本作で熱演したおかげで、実際にオスカーにノミネートされるという快挙を成し遂げています(笑)。

まぁ・・・ただ、こういう出演者のファンだったら観ても楽しめるとは思うのですが、
単純に「お●カ映画」という観点から考えると、どうもツボのよく分からない作品になっているんですよね。
『地獄の黙示録』に始まり『プラトーン』、『プライベート・ライアン』を想起させるシーンがあるのですが、
パロディの域を結局出なかったせいか、妙にそれぞれのギャグが中途半端に映りましたね。
これが始めっから、例えば『ホット・ショット』のようにパロディだけで出来た作品だというのなら納得しますが、
本作は決してそうではないせいか、もっと映画俳優たちが戦地に送られたという設定で笑わせて欲しい。

とは言え、これは随分と金のかかった企画であって、
結果的に面白かったか否かはとりあえず置いておいて(←いいのかよ、それで)、
今のハリウッドでもここまで金をかけて、壮大なギャグ映画を作ろうと発想するディレクターって、
おそらくベン・スティラーぐらいでしょうね。そういう意味で、そのスピリットは尊重したいですね。

だからこそ、ハリウッドでも賛同者が多くって、
トム・クルーズもプライドをかなぐり捨てて、こういう役柄を引き受けたのでしょうね。

しかし、この映画が残した大きな課題は、この豪華なキャスティングをフルに活かし切れなかったことですね。
敏腕映画プロデューサーを演じたトム・クルーズにしても、容姿はインパクトがありましたが、
映画の中で強烈なインパクトを残したバイプレイヤーかと問われると、そこまででも無い気がする。
ジャック・ブラック演じるドラッグ・ジャンキーの役者にしても、なんだか中途半端な形だし、
結局、前述したロバート・ダウニーJrの熱演しか、引き出せなかったように思います。

それで結果的にベン・スティラー自身が演じる主人公のキャラに依存してしまっているのですよね。

劇中映画でも、400万ドルをかけたと紹介されていましたが、
つまらぬ凡ミスからフィルムが回っていなかったという爆破シーンの迫力は凄まじく、
「おバ●映画」という枠組みにて、9000万ドルもの予算を費やしたというのだから、驚きですね。

そしてベン・スティラーも“撃たれる美学”をよく理解してますね〜(笑)。
銃撃シーンがある映画というのは常にそうなのですが、“撃つ美学”よりも“撃たれる美学”を
表現しなければならないと僕は思っているのですが、スローモーションを駆使して、
往年のサム・ペキンパーばりに“撃たれる美学”をクドいぐらい強調しており、これはインパクトが強いです。

ただ、紙一重なんですが、ベン・スティラーのギャグっていつもそうなのですが...
チョット全体的にやり過ぎな傾向があって、さすがにここまでやってしまうと冷めた目で観てる人もいるかも。
この線引きは確かに難しいのですが、お国柄の違いもあってか、本作は若干、狙い過ぎな面もあるかも。

そういう意味では、彼のギャグが空振りしている感覚をクッションしてくれる、
キャラクターを脇役でいいから登場させる必要があったように思うのですが、
やはりロバート・ダウニーJr演じるカーク以外のキャラクターがイマイチ、パンチに欠けたのが残念で、
その分だけベン・スティラーが演じる主人公に対する目線が、よりシビアになってしまった気がしますね。

いろんな映画の要素を織り交ぜた内容になっておりますので、
パロディの要素が強い映画が好きな人なら、そこそこ楽しめる映画ではないでしょうか。

但し、前述した通り、色々とグロテスクな描写があったり、
これを不謹慎な笑いだと感じる人がいるかもしれませんので、映画から観客を選ぶタイプの作品ではあります。
事前にベン・スティラーの笑いのツボを他作品で理解してからじゃないと、キビしいかもしれません。。。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[PG−12]

監督 ベン・スティラー
製作 ベン・スティラー
    スチュアート・コーンフェルド
    エリック・マクレオド
原案 ベン・スティラー
    ジャスティン・セロー
脚本 ベン・スティラー
    ジャスティン・セロー
    イータン・コーエン
撮影 ジョン・トール
編集 グレッグ・ヘイデン
音楽 セオドア・シャピロ
出演 ベン・スティラー
    ロバート・ダウニーJr
    ジャック・ブラック
    ブランドン・T・ジャクソン
    ジェイ・バルシェル
    ダニー・マクブライト
    ニック・ノルティ
    スティーブ・クーガン
    トム・クルーズ
    マシュー・マコノヒー
    ビル・ヘイダー
    ブランドン・スー・フー

2008年度アカデミー助演男優賞(ロバート・ダウニーJr) ノミネート