トレマーズ(1989年アメリカ)

Tremors

ネバダ州の人口が数えられるほどしかいない砂漠地帯のド真ん中の小さな集落で、
突如として謎の地中生物が片っ端から人間を襲い、食べてしまう恐怖から一致団結して、
逃げながら、この怪獣を撃退しようと悪戦苦闘する姿を描いた、掘り出し物のパニック映画。

コメディ映画を中心に活動するロン・アンダーウッドの監督作品なので、
本作もどこかお気楽なコメディ・テイストと、ノンビリとしたユル〜い空気感と、作り手の遊び心が溢れた映画で、
劇場公開当時、好評だったにも関わらず、残念ながら風化しつつある映画ではありますが、
製作から30年近く経った今になって観ても、十分に楽しめるエキサイティングさを保っている。

これはホントに面白かった!
観る前に勝手に予想していた映画よりも、遥かに面白くって、なんだか得した気分になる(笑)。

作り手も半ば確信犯的に、カルト映画ばりにB級テイスト満載な
ゴッタ煮映画としての人気を得ようとする意図が見え見えなんだけれども、全てが真剣に描かれていて、
作り手なりの遊び心を感じさせるシーン演出にしても、それでも常に真剣勝負しようとしているのは伝わってくる。

コメディは真面目にふざけるからこそ笑えるのであって、
「やるぞ! やるぞ!」と笑わせようとしても、ちっとも面白くないというのがセオリーなのですが、
本作の作り手はそこを逆手にとったかのように、時に「やるぞ! やるぞ!」と意気込みながら、
ベタに楽しませようとするのですが、時に真面目にパニックを描いて、ふざけるので、なんだかつかみどころがない。

でも、そこが本作の魅力であり、武器なのだろうと思うのですよね。
よくぞ、これだけ上映時間が短いにも関わらず、ここまで濃い内容をコンパクトにまとめたもんだと感心させられます。

本作品、実は劇場公開にかからない、いわゆる“ビデオスルー”であったり、
テレビシリーズに落とし込まれたりして、細々とシリーズ化されており、日本でもカルトな人気があるのですが、
これだけの根強い人気を誇るのは、やはり映画自体が持つ、どこかユル〜い空気感のおかげだろう。
そして、肝心かなめの人々を襲う地中生物の正体がハッキリと明かされないところも、一つのポイント。
これらの条件が上手い具合にマッチして、映画は未だに根強い人気を誇っています。

確かに人気俳優であったケビン・ベーコンの人気作の一つにはなりましたが、
その他にはフレッド・ウォードとか、知名度という意味では微妙な役者をキャスティングしていて、
ハッキリ言って映画がヒットする要素に乏しかったのですが、日本の場合は幸運なことに(?)、
当時、大人気シリーズであった『バック・トゥ・ザ・フューチャーPARTV』と同時上映作品として公開されたために、
人気シリーズの最終章とは好対照に、どこかノー天気な調子でながらもスリリングというのがウケる人にはウケて、
「なんだ、こっちのが面白いじゃん」という感想を持った人も、配給会社の予想以上にいたのかもしれませんね。

上映時間はタイトにまとまっており、観客に一息つかせる暇なくスリルを描けたのも上手かったですね。
ロン・アンダーウッドも本作が監督デビュー作だったのですが、そうとは思えぬぐらい手際の良い仕事ですね。
僕は本作に良い意味でハリウッドの力を感じます。こういう映画を簡単に発表できてしまうあたりが、凄みですね。

特に自宅の地下室に武器保管庫を設けている夫婦の扱いが、予想外で面白い。
地中生物が暴れ回っている中、この2人だけがまるで世紀末のような雰囲気で闘っているし、
それでもライフルを乱射した結果、地中生物の襲撃から逃げきれてしまうあたりが、セオリーから外れた面白さ。
彼らがどこかコメディ・リリーフのような扱いですが、次から次へと襲われていく人々の描き方がどこか変わっている。
おそらく、これらは作り手も確信犯であって、本作の原作の面白さをよく反芻できた結果だと言えるでしょうね。

思わず、「今、そんなことをやってる場合かよ!」とツッコミの一つでも入れたくなるシーンばかり。
それでも、ノンビリした空気感が本作の大きな特長であり、幾多のパニック映画と差別化を図れた所以だろう。

イージーにロマンスを描こうとしないあたりも、この時代の映画としては珍しく、
あくまで映画のラストで少しだけロマンスを匂わせて終わるという感じなのですが、これはこれで良い。
どこか時代遅れなくらい、ツンデレな雰囲気すら感じさせるのですが(笑)、どこか初々しさすら感じさせます。
(とは言え、さり気なく女子学生がピンチのときに、ズボンを脱がせるなんて、ドキドキさせるシーンもあるのですが・・・)

しかし、未だにテレビなどで本作がシリーズ化されていて、
第1作と同じように、得体の知れない地中生物が暴れて人々がパニックになる様子を描くという、
性懲りもなく手を替え品を替え、次から次へと同じような作品を作り続けるというのも、またスゴい話しだ。
ナンダカンダ言って、この手の映画はやっぱり“定番”なのでしょうね。常にある一定層が求めているのでしょう。
日本などでは、すっかりビデオ・リリースのみですが、それでも「好きな人は好き」なのでしょうねぇ。

まぁ・・・良くも悪くも、期待を裏切ることがないお約束の内容ということもあるのでしょう。

映画の視点としては、スピルバーグの『JAWS/ジョーズ』をほぼ踏襲しています。
この辺りはロン・アンダーウッドもほど良く参考にしている感じで、嫌味にならない程度のパクり具合が良い(笑)。
それも、やはり演出の基本ができているからこそ、映画そのものが好感の持てるものに仕上がっていると言える。

個人的には某映画会社が経営しているテーマパークとかでも、
モデルになってもいいくらい、魅力のある映画だと思うのですが、まだ知る人ぞ知るカルト映画に近い部類だ。
そんな位置づけが勿体ないくらいなのですが、前述した通り、作り手も確信犯的なポジションにも思えるから、
結果としてこれはこれで作り手の狙い通りなのかもしれません。だからこそ、根強い人気を得られたのかも。

本作を観ていると、チョットした発想や視点の転換の大切さをあらためて認識させられます。
別にたいした差異ではないのですが、チョットした違いが映画をこれまでとは全く違うものに仕上げます。
それを見事に実践したのが本作という見方ができるでしょう。だからこそ、異彩を放つ存在になれるのです。

しかし、敢えて言うと、個人的にはもっと人間たちを“追い込んで”も良かったと思いますね。
と言うのも、謎の地中生物の襲撃を回避するためと、建物の屋根に逃げるのですが、
これで済むというのが少し考えどころ。それでも執拗に襲撃されるぐらいのスリルがあっても良いかなぁ。

その方がコメディ的ニュアンスと、スリリングさの両立がより明確に図れて
映画にもっと大きな強弱、メリハリがつけられて映画にとってプラスに機能したような気がします。

(上映時間94分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロン・アンダーウッド
製作 ブレント・マドック
   S・S・ウィルソン
原作 S・S・ウィルソン
   ブレント・マドック
   ロン・アンダーウッド
脚本 S・S・ウィルソン
   ブレント・マドック
撮影 アレクサンダー・グラジンスキー
編集 O・ニコラス・ブラウン
音楽 アーネスト・トルースト
出演 ケビン・ベーコン
   フレッド・ウォード
   フィン・カーター
   マイケル・グロス
   リーバ・マッキンタイア
   ボビー・ジャコビー
   ビクター・ウォン