コール(2002年アメリカ)

Trapped

突然、見知らぬ男たちの娘を誘拐され、
夫は出張先、妻は自宅で誘拐犯に脅迫され、身代金を要求される悪夢をスリリングに描いたサスペンス。

監督は『エンジェル・アイズ』のルイス・マンドーキで、
今回は余計な前置きや、余分なエピソードを一切廃したタイトなサスペンスを展開している。

が、しかし・・・僕はこの映画の演出スタイルそのものが、本質的に好きになれない。
従って、僕はこの映画をどうしても支持することができないし、楽しむことができなかったですね。
勿論、それなりに考えて構成された映画だと思うし、作り手の意図は感じられる映画です。

但し、どうしてこんな映像だけで慌しくさせたり、
特に妻カレンが最初に、ケビン・ベーコン演じる“ジョー”と名乗る男を鉢合わせしてしまうシーンなど、
過剰なまでに大袈裟な音楽を使って、映画のムードをブチ壊すのだろうか。
確かにこういった映像や効果音を使うこと自体が悪ではないのですが、もっと効果的に使って欲しい。
これではさすがに過剰に使い回された状態に等しく、映画が安っぽくなりますね。

もう一つ注文を付ければ、カメラワークも目まぐるしいし、視点の安定感も無いから、
あんまりこういう言い方はしたくないのですが...正直言って、観ていて疲れる映画になってしまっている。

01年の『エンジェル・アイズ』はここまで酷くなかったのに、
どうして本作のような映画の概観はキチッと作られているのに、中身がこうなってしまうのか理解に苦しみます。
どうやらピョートル・ソボチンスキーが他界してしまい、急遽、カメラマンが交代してしまったらしいのですが、
それだけでなく、無意味にカットを割りまくるスタイルも、あくまで個人的な嗜好ではありますが、
全く僕には賛同できるポイントが無い内容で、できることならもう一度、作り直してもらいたいぐらいだ。

それと、クライマックスの飛躍したストーリー展開は大目に見るとしても...
“5号線”の道路でのカー・クラッシュのシーンも、映画のカラーとまるで合っていない。
その前にも、夫ウィルがセスナを操縦してアクロバット飛行するあたりを観ても、
思わず「お前は007かよ!」とツッコミの一つでも入れなければ、気が済まないぐらいでした。。。

しかしながら、それでも最低の評価にはならないのは、
やっぱり当時、ハリウッドでも上り調子だったカレンを演じたシャーリーズ・セロンの存在が大きいからだ。

もう“ジョー”もカレンに会った瞬間からニヤニヤしっ放しのスケベ親父全開でしたが、
どうせ現実離れしたお話しならと、ハリウッドきっての美人女優シャーリーズ・セロンをキャスティングして、
現実離れした子持ちの母という設定を実現させたという感じで(笑)、作り手の開き直りを感じる(笑)。
彼女が主演に据えられてしまったおかげで、ウィルを演じたスチュワート・タウンゼントが霞んじまってる(笑)。
(とは言え、この2人は本作の共演が縁で恋人関係になったわけだが...)

さりとて、それぐらい主演にシャーリーズ・セロンをキャストできたのは大きかったですねぇ。

原作者がこの映画のシナリオを書いているとのことですが、
チョット気になったのは、あまりに“ジョー”らがマヌケに描かれているということ。
思わず、「この犯人グループなら、上手くいかないだろうなぁ」と思えてしまうほど、お粗末ですね。

もう少し彼らに冷酷な部分があって、計画的に動いている姿を強調して欲しかったですね。
お世辞にも計画通りに動いているとは思えず、そもそもが人質にとった娘が喘息であるという事実までもが
事前調査の内容から漏れているというお粗末ぶりとは、正直言って、失笑ものと言っていいと思う。
おそらくもっと冷酷で賢い犯人像であれば、映画の緊張感をアップさせることは容易だったでしょう。

この辺なんかはルイス・マンドーキがもっとケアすべき部分だと思うんですがねぇ。
前述した映像による、表面的な装飾に一生懸命になり過ぎて、描写が甘くなってしまった感を否めません。
それゆえ、各プロットに於いて、少しずつ緊張感が足りないんですよね。だから物足りないんです。

まぁそれでも、余計な前置きを描かなかった映画の冒頭なんかは、
いきなり本題に入る鋭さなんかは、なかなか捨て難いし、ダラダラしていないあたりは悪くない。
それだけ話しの運びはスムーズにできているという証拠であって、これは本作の良い部分だと思う。

『I am Sam/アイ・アム・サム』ほどではないにしろ、
誘拐される喘息の娘を演じた子役のダコタ・ファニングは相変わらず秀逸な芝居をしてるし、
誘拐犯の夫妻を演じたケビン・ベーコンとコートニー・ラヴも、あくまで演者という意味では悪くない。
これで彼らがもっとクレバーな誘拐犯グループとして描かれていれば、もっと良くなっただろう。

せっかく役者に恵まれた作品と言えるのに、勿体ないですよね。
落ち着いた映画の撮れるディレクターが撮っていれば、もっと映画は変わっていただろうし、
もっと緊迫感に満ち溢れた引き締まった映画になっていたであろうと思えるだけに残念ですね。

こういうのをスタイリッシュな映画と言える人なら、そこそこ楽しめるのでしょうが、
申し訳ないけど、こういう映画ばかりが持ち上げられるのは、僕は納得がいきません。
出来が最低な映画ではないけれども、もっと丁寧に映画を作って欲しいと熱望します。
特に前述したクライマックスの雑な作りに、強くそう思うのです。

それと、どうでもいい話しではありますが...
コートニー・ラヴって、貫禄充分ですね(笑)。ウィルに凄む姿は、インパクトが大きかったですね。
このままの勢いで行けば、そろそろドンデモない悪役をやってくれそうですね(笑)。

まぁ何はともあれ、まだまだ活躍して欲しいですね。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ルイス・マンドーキ
製作 ルイス・マンドーキ
    ミミ・ポーク・ギトリン
原作 グレッグ・アイルズ
脚本 グレッグ・アイルズ
撮影 フレデリック・エルムズ
    ピョートル・ソボチンスキー
編集 ジェリー・グリーンバーグ
音楽 ジョン・オットマン
出演 シャーリーズ・セロン
    スチュワート・タウンゼント
    ケビン・ベーコン
    コートニー・ラヴ
    ダコタ・ファニング
    プルイット・テイラー・ヴィンス
    スティーブ・ランキン
    コリーン・キャンプ