トレーニング・デイ(2001年アメリカ)

Training Day

確かに面白いとは思うけど・・・
まぁ前半が全ての映画かな。クライマックスに近づくにつれて、映画の特徴づけが意味を成さなくなってしまう。

つまり映画の後半がイマイチなおかげで、前半で構築した映画的特徴が失せてしまったということ。

これ、僕は映画のテーマやタイトルに反することを言いますけど、
無理して一日の出来事として紹介する必要って、何処にも無かったと思うんですよね。
エピソードの連続性や目まぐるしく関連性のあるエピソードが展開していって、
思わず観客までもが「あぁ〜っ、長〜い一日だった」って、映画を観て実感できるんならいいけど、
残念ながら本作を観て、そこまでの感覚は抱けない。数日に及ぶストーリーと解釈されても、違和感がない。

だから、僕は無理して一日のエピソードとして紹介しないで、
数日間に及ぶ刑事志願の新人ジェイクの研修期間として捉えた方が、面白くなったと思う。
そうすることによって、ジェイクが見習いに就く悪徳警官アロンゾとの密着度が増します。
それで何が生まれるのかというと、ジェイクのアロンゾに対する信頼と疑惑の深さですね。

こういう映画って、如何に登場人物の心の揺れ動きを効率的に表現できるかが勝負になるから、
ジェイクのアロンゾに対する想いを、もっと複雑化させるべきだったと思いますね。

そういう意味では、映画の前半は良いペースでした。
少なくとも作り手たちの「これは従来の映画の感覚とは違うぞ」と観客を威嚇する気概は伝わるし、
映画的特徴として、アロンゾという謎の警官にカリスマ性を持たせることに成功している。
そしてそのアロンゾが映画を引っ張るわけです。ここまではまずまずのペース。

けど、映画の後半は完全にただの凡庸なサスペンス・アクション。
ジェイクに振りかかる危機を順番に描きましたって感じで、よくあるタイプの描かれ方をしてしまっている。

監督は『リプレイスメント・キラー』のアントワン・フークワ。
僕はこの人、本作の前半を観る限り、そこそこ力があるディレクターだと思う。
まだまだ伸びる余地がある映像作家だとは思うが、今後の活躍に期待したいディレクターの一人だ。
まぁ逆に言えば、映画の後半がイマイチで本作が本格的なタフな映画に仕上がらなかったのも、
彼の経験が決定的に不足していたからという見方も、僕はあながち間違いではないと思う。
冷静に考えれば、この題材ならばアクションで表現するよりサスペンスで押し切った方が、
映画は面白くなるという結果が望めることは、経験さえあれば、一考として入ってきていただろう。

この映画の全てが凝縮されていると言っても過言ではないのは、
映画の冒頭、ジェイクがアロンゾにカフェへ呼ばれたシーンで、アロンゾから尋問を受けるシーンだ。
このシーンで彼らが作り出す独特な空気が、この映画の全てを象徴している。

少なくとも、このシーンだけで映画の中で描かれる研修というものが、穏やかなものではないことが示される。
僕はこのシーンを作り出せたことに、大きな収穫を感じますね。映画のインパクトも大きくなりますしね。

まぁアロンゾが何か裏でコソコソやっていて、
少なくとも模範的な警官ではないことと、ジェイクに秘密を抱えていることは明白なのですが、
それでもジェイクを信じ込まそうとするアロンゾの姿に強いカリスマ性を感じさせるあたりは流石。

僕は正直言って、01年のオスカー・ノミネーションの中では、
『ビューティフル・マインド』のラッセル・クロウの芝居がイチオシだったけど、
確かに本作のデンゼル・ワシントンも素晴らしいですね。他の追従を許さぬ強さがあります。
それは固定化されたイメージからの脱却も意識していたであろう、デンゼル自身の気概もあります。

確か本作は01年9月に発生した世界同時多発テロ事件の影響を受けて、
『コラテラル・ダメージ』が上映延期の措置をとっていた影響で、当初は日本劇場公開が正月だったのに、
急遽、繰り上げて秋頃に劇場公開される対象になった作品だったはずと記憶しております。

まぁ残念ながら本作はそういったスクランブル上映だったせいか、商業的成功を収められませんでしたが、
その内容自体もチョット、売れ線の内容の映画とは言えませんので、どの道、ヒットはしなかったでしょう。

それと、主演のデンゼル・ワシントンだけでなく、
刑事志望のジェイクを演じたイーサン・ホークの熱演にも注目したいですね。
あまり大きな話題とはなりませんでしたが、本作での彼の存在感は特筆に値します。
少なくともアロンゾというキャラクターが生み出すオーラには、押し負けしていませんね。
僕は本作で初めて、彼のこういう姿を見たものですから、思わず感心しましたけどね〜。

なかなか興味深い内容で、映画の前半はかなり頑張った作品だと思います。
ただ、もう一歩ですね。映画の最後まで、サスペンス調で堂々と押すことができていれば、
映画は大きく変わっていたでしょう。この辺はアントワン・フークワの成熟にも期待したいところですね。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 アントワン・フークワ
製作 ロバート・F・ニューマイヤー
    ジェフリー・シルバー
脚本 デビッド・エアー
撮影 マウロ・フィオーレ
編集 コンラッド・バフ
音楽 マーク・マンシーナ
出演 デンゼル・ワシントン
    イーサン・ホーク
    スコット・グレン
    エヴァ・メンデス
    シャーロット・アヤナ
    トム・ベレンジャー
    スヌープ・ドッグ
    ハリス・ユーリン
    レイモンド・J・バリー
    クリフ・カーティス

2001年度アカデミー主演男優賞(デンゼル・ワシントン) 受賞
2001年度アカデミー助演男優賞(イーサン・ホーク) ノミネート
2001年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演男優賞(デンゼル・ワシントン) 受賞