大逆転(1983年アメリカ)

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TVシリーズ『サタデー・ナイト・ライヴ』で人気沸騰し、
82年の『48時間』から本格的に映画俳優としてデビューしたエディ・マーフィと、
同じく『サタデー・ナイト・ライヴ』でレギュラーをはって、ジョン・ベルーシとの名コンビで知られた、
ダン・エイクロイドが初めてタッグを組んだ、金持ちの勝手な楽しみから、翻弄される2人の男を描いたコメディ映画。

結論から言いますと、ひじょうに単純な映画ではありますが、
とても堅実に作られた映画なだけあってか、安心して楽しめる手堅い映画となっていますね。

監督のジョン・ランディスも当時は、何本もコメディ映画のヒット作を発表していただけに、
シナリオも良く書けているし、キチッと描きたい事象を整理して描かれており、出来はとても良いですね。
そして何より主人公2人は勿論のこと、脇役に至るまでキャスティングがとても良い。これはホントに感心する。

ジョン・ランディスは同年に製作中だった『トワイライト・ゾーン/超次元の体験』の撮影中に、
出演者であった俳優ヴィック・モローと子役2人がヘリコプターの墜落事故で事故死させてしまっており、
撮影現場の安全監督責任の罪に問われましたが、プロダクションは既に撮影が決定していたこともあり、
本作の撮影を敢行しており、確かに本作からはその影響を感じさせないコミカルさではあるのですが、
当たり前ではありますが...当のジョン・ランディスは精神的にそうとう落ち込んでしまったらしく、
本作以降の監督作品では、どこか暗い影を残すようになってしまい、創作ペースも落ちてしまいます。

映画の舞台は冬のフィラデルフィア。
先物取引を取り扱う会社の実質的経営権を握っているウィンソープは若くして成功し、
都心部の豪邸では執事コールマンを雇って、贅沢三昧の毎日で積極的なガールフレンドとの結婚も間近。

そこで絡んでくるのが、フィラデルフィアの都心部で物乞いを繰り返しながら
貧しい暮らしをなんとか凌いできた黒人ビリーで、ウィンソープを見守りながらも彼が管理する
先物取引会社の名義上のオーナーである、デューク兄弟が自分たちの興味本位から1ドルの賭けをし、
貧しいビリーでも素晴らしい環境をすればウィンソープのようになり、能力があるウィンソープも
劣悪な環境に置かれれば、一気に転落し、犯罪を起こすまでに至るか?という実験をします。

映画はその賭けの顛末を描いているのですが、
まぁデューク兄弟のラルフ・ベラミー演じる兄貴の目論見は僕は決して間違ってはいないと思いますね。

心理学的にも、人間の成長に於いて、環境要因はとても影響力が強いことは証明されており、
先天的なもの以上に重要視されていますし、結果は見えていたと言えば、それまでなんですけどね。

まぁそれを考えれば、映画のストーリー展開には納得性はあるし、
そこから生まれるウィンソープとビリーの“大逆転”が、上手くコミカルに描けていて痛快な作品だ。
徹底して“落とされてしまう”ウィンソープを演じたダン・エイクロイドがなかなか上手くって、
彼もまた、盟友ジョン・ベルーシを失った直後だったのですが、よく頑張っていますね。

この映画を観ていて、不思議に思ったことって、先物取引の品目がどこまで細分化されているのか?ということ。

映画の序盤では、豚肉など食品の所用品目を扱っているように描かれているのですが、
映画の終盤で冷凍オレンジジュースなんて、随分と限定された品目に注目しているんですね。
これ、チョット面白いのは、如何にアメリカの食卓にオレンジジュースがでるかということなんですね。

まぁ・・・食品に関して、品質本位になってきたのは、ホントに最近の話しですから、
当時のアメリカであれば、多少、難のある食品でも市場に受け入れられたのかもしれませんね。

往々にして冷凍食品の品質は、対象食品の特性と凍結機の能力に依存しますから、
当時の凍結機の能力に関する知見はありませんので、当時の冷凍オレンジジュースがどれぐらいの
品質であったかまでは分かりませんが、おそらく日本の食卓では受け入れられなかったでしょうね。
最近でこそ、日本の加工食品も冷凍食品の比率が高くなってきましたが、これは冷凍食品の技術力が
高くなったことにあると思うんですよね。何より大きいのは、日本の場合は物流技術の発達ですね。
サンマの刺身を水揚げ地でしか食べられなかったのが、最近はどこでも食べられるようになったことが、その証拠。

最近は業務用で冷凍ジュースは流通していますし、
冷凍ケーキなんかも業務用の主流になりつつありますから、更にそのウェイトは高くなっていくでしょうね。
しかし、本来は冷凍食品って食品の保存性を伸ばすために開発された技術だったはずなのですが、
最近は「在庫は持たない」という考え方が各企業で浸透しているせいか、特に1年以上の賞味期限がつく食品が、
賞味期限ギリギリまで消費されないなんてことは、あまり無いことなのではないかと思いますがねぇ。

何はともあれ、本作ではオレンジジュースの原料になるオレンジの収穫予想が、
冷凍オレンジジュースの先物取引上、とても大きなポイントとなってきて、クライマックスの争点になってきます。

この収穫予想をめぐって、ジョン・ランディス監督作品でお馴染みのゴリラが登場してくるのですが、
このゴリラに関する描写はさすがに無理があったかなぁ(笑)。ゴリラに関するエピソードで、
ポール・グリーソン演じるデューク&デューク社の特殊任務に就く社員が災難に遭うのですが、
このポール・グリーソン、思えば『ブレックファスト・クラブ』なんかでも嫌な役どころを演じていましたし、
80年代は数多くの映画でとても良い味を出していましたね。残念ながら、06年に他界されましたがね・・・。

この頃はエディ・マーフィの勢いがあったせいか、
彼が出演しているだけでも十分に面白くなっていたのでしょうね。映画の冒頭ではただの物乞いだったのに、
いざ金持ちの環境を与えられても、意外にケチくさいところや潔癖なところが出てしまい、
自宅で盛大にパーティーを催しても、すぐに詰めかけたゲストを追い出してしまうあたりも面白い。

ちなみにこの映画で、ジェイミー・リー・カーチスがコメディエンヌとしての魅力を
映画の世界で活かすキッカケとなりましたが、本作ではアッサリとヌードにもなっています。
それまではホラー映画のヒロインという固定観念に悩んでいたそうですが、
彼女は本作出演以降から、一気に仕事の幅が広がり、実に数多くの作品に出演していますので、
彼女にとっても大きなターニング・ポイントとなった作品として、もっと評価されてもいいと思いますね。

少し古びた雰囲気もある作品ではありますが、まだまだ楽しめる出来だと思いますね。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・ランディス
製作 アーロン・ルッソ
脚本 ティモシー・ハリス
    ハーシェル・ワイングロッド
撮影 ロバート・ペインター
編集 マルコム・キャンベル
音楽 エルマー・バーンスタイン
出演 ダン・エイクロイド
    エディ・マーフィ
    ジェイミー・リー・カーチス
    ドン・アメチー
    ラルフ・ベラミー
    デンホルム・エリオット
    クリスティーン・ホルビー
    ポール・グリーソン
    フランク・オズ
    ジェームズ・ベルーシ
    フィリップ・ボスコ
    アルフレッド・ドレイク
    ボ・ディドリー

1983年度アカデミー音楽賞(エルマー・バーンスタイン) ノミネート
1983年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(デンホルム・エリオット) 受賞
1983年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(ジェイミー・リー・カーチス) 受賞