007/トゥモロー・ネバー・ダイ(1997年アメリカ)

Tomorrow Never Dies

今度は第三次世界大戦を誘発させ、中国のメディア利権を目論み、
何故かステルス艦を使ってミサイルを奪ったりと大暴れなメディア王との対決を描いたシリーズ第18弾。

監督は『アンダー・ファイア』のロジャー・スポティスウッドですが、
5代目ボンドのピアース・ブロスナンは相変わらずスマートな感じで、とてもカッコ良いのですが、
映画としては、どこかご都合主義なアクションばかりが目立ってしまっていて、
ハリウッド的なニュアンスが入ってしまっており、ハッキリ言って、ロジャー・スポティスウッドは人選ミスだと思う。

今回の悪役、ジョナサン・プライス演じる世界のメディア王エリオットも、
スゴ腕英国諜報部員であるボンドと対決する相手としては、あまり弱過ぎて、
中国のメディア利権を獲得するために、自分で第三次世界大戦を誘発して、自分で戦争を起こして、
それを自分で報道して情報操作をしようと目論むという発想が、分かるようでよく分からない(笑)。

端的に言えば、これまで登場してきた悪役と比べてしまうと、
どことなく動機付けから、その手口、全てが弱過ぎるような感じで、映画が盛り上がらないんですよね。

この映画最大の難点となってしまったのは、正にこれが大きな原因で、
ロジャー・スポティスウッドのあまりに軽すぎるアクション描写もありますが、
それ以上にジョナサン・プライス演じるエリオットを手強い相手として描き切れなかったことでしょう。
僕はこの映画を観ていて、「なんでボンドはこんな相手に、こんなに手こずるんだろう?」と思ってしまいましたもん。

やはり、このシリーズはボンドのアクションをどう面白く観せるか?ということも大事ですが、
悪役キャラクターをキチッと描くということも肝要で、ひょっとしたらそれが映画の価値を決めているのかもしれません。

それと、ボンドガールの扱いもイマイチなんですよねぇ。
映画の後半、ようやっと活躍しだしたミシェル・ヨーも、彼女がアクティヴに動き回って、
ようやっと映画が動き始めた感じで、映画の前半でメインストーリーに絡んでこないのは、実に勿体ない。

それだけでなく、メディア王エリオットの妻を演じたテリー・ハッチャーは、
ひょっとしたらシリーズでも有数のフェロモン、ムンムンなゴージャスなセクシーさを誇ったのに、
映画の前半で少しだけしか登場せず、僅かな露出でアッサリと退場してしまったのが残念でならない。

こういうのを観ちゃうと、ロジャー・スポティスウッドが一体、何を考えてこの映画を撮っていたのか、
僕にはサッパリよく分からないんですよねぇ。文字通り、“宝の持ち腐れ”状態な映画なんですね。

ちなみにピアース・ブロスナンがボンド役降板の際に語っていたことなのですが、
テリー・ハッチャーは撮影当時、ピアース・ブロスナンの撮影が終わるまでスタジオやロケ地で
待ち伏せしたりしていて、ストーカーまがいの行為に及んだため、汚い言葉を浴びせることもあったという。

しかし、よくよく調べてみると、当時、テリー・ハッチャーは別な男性と結婚していて、
しかも彼女の第1子妊娠が判明して、彼女の登場シーンの撮影を前倒しで行っていた頃だったわけで、
あまり大きなスキャンダルにならず、しかもピアース・ブロスナンはシリーズの降板が決まった、
05年になってこの出来事を語っているので、あまり強いことは言えませんが、事実ならスゴいことだなぁ。。。

この映画は特に前半が、もうチョット上手く見せることができていれば、変わっていたと思う。
冒頭のアクション・シーンからして、唐突に始まって、矢継ぎ早にアクションで畳み掛けるのは良いけど、
整理し切れないまま、映画の本編に突入してしまう感じだし、全体的に不親切な作りなのが残念。
ハンブルクの新聞社でのアクション・シーンにしても、Qが作ったリモコン操作ができる車で
駐車場内を逃げ回るのは良いけど、撒きビシで追っ手の車をパンクさせたはいいけど、後で同じところを通ったら、
ボンドの車自体もパンクしてしまったにも関わらず、ボタン一つでそのパンクが治ってしまったり、
要所・要所の大事な部分でご都合主義を貫いてしまったことは、どうしても気になって仕方がありません。

そしてそのリモコンの画面がスウェーデンの“ERICSSON”だったことに笑ってしまったが、
逆に言えば、“007シリーズ”もスポンサー探しに必死だったんでしょうねぇ。

まぁ本作はQが作った小道具がやたらと活躍するので、
“007シリーズ”で登場してくるアイテムのファンという人には、満足してもらえる作品でしょうね。
そういうアイテムを使って、さり気ないところでスポンサー(?)のPRをするあたりは、かなりしたたかですね(笑)。

ベトナムにあるエリオットの会社のビルで始まるチェイス・シーンはそこそこ面白い。
さすがに大掛かりなアクション・シーンを撮影する資金力があったためか、見応えたっぷりで、
バイクで逃げ回るボンドらを、エリオットの手下がヘリコプターで追い続けるというのも悪くない。
市街地の住宅の2階以上のところを片っ端からバイクで走り回るという迷惑さ発揮ですが、
スタント・アクションの出来映えも素晴らしくって、全体として引き締まった良いシークエンスになっている。

本作の主題歌はシェリル・クロウで、オスカー・ノミネーションまで受けました。
個人的には当時、なんでボンド・ソングを引き受けたのだろうかと疑問だったし、
後に彼女がライヴなどで歌うことはまずないので、すっかり忘れ去ってしまっていたのですが、
改めてこうして映画の冒頭で流れるのを聴くと、そこまで悪い出来ではないですね(苦笑)。

映画全体的には、アクションのウェイトを増やしたためか、
ボンドが絡むギャグのようなシーンや、ボンドガールとのラブシーンなどが、かなり割愛されています。

映像感覚なんかも、前作から新スタイルって感じなのですが、
本作ではすっかり通俗的なアクション映画の体裁に似てきていますので、
オールドなファンはチョット楽しめない部類かも。“007シリーズ”の本来的な魅力を捨てて、
映画がしっかりとした収益をあげられるように計算された、プログラム・ピクチャーといった印象が強いですね。

プログラム・ピクチャーとしては優秀なのかもしれないが、
“007シリーズ”中の一作として考えると、いろんな意味で物足りないかなぁ〜。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ロジャー・スポティスウッド
製作 マイケル・G・ウィルソン
    バーバラ・ブロッコリ
脚本 ブルース・フィアスティン
撮影 ロバート・エルスウィット
音楽 デビッド・アーノルド
出演 ピアース・ブロスナン
    ジョナサン・プライス
    ミシェル・ヨー
    テリー・ハッチャー
    リッキー・ジェイ
    ゲッツ・オットー
    ジュディ・デンチ
    デスモンド・リュウェリン
    サマンサ・ボンド
    ビンセント・スキャヴェリ
    ジョー・ドン・ベイカー

1997年度アカデミー主題歌賞(シェリル・クロウ) ノミネート