東京島(2010年日本)

一体、どこまでこの映画をマジメに撮ったのか知りませんが...
僕はこの映画を観ている最中、無性に可笑しくて可笑しくて、たまりませんでしたね。

いや、まぁ・・・映画の出来自体も、決して褒められたものではないと思っているのですが、
映画の最後の最後まで、この映画はシリアスなのかコメディなのかすら、よく判別のつかない内容で、
シリアスなのかコメディなのか、どっちつかずの路線でフラフラしたまま映画が進んでしまいます。

映画の前半では、それまでの退屈な日常から解放されたかのように、
夫が死に、一躍若い男たちのアイドルになった人妻が、君臨することの喜びを発散させる姿を通して、
女性の野心的な側面を描いているのかなと思っていたのですが、映画の中盤では生き残るためには、
どんな手段でも使うという、生きることに対して強く固執する姿を描く映画に変身を遂げ、
最後は精神的に破綻した男たちに憎まれ、何とか我が子を守ろうとするための闘いを描く、
サバイバルな映画に変身してしまい、とにかく節操の無い映画だなぁという印象が強いですね。

確かに映画の途中で路線変更するというのはアリなのかもしれませんが、
さすがにここまでいってしまえば、ただ単に節操が無いというだけで、映画が一向に落ち着きませんね。

ヒロインの清子は映画の序盤で、いきなり夫との東京島での共同生活に限界を感じ、
夫と死別した瞬間に、漂流者である若者のリーダーに身を任せ、他の漂流者からもチヤホヤされる存在を満喫。
しかし、ここはここで一つのコミュニティを形成しており、このリーダーの男の絶対的な権力が保持され、
漂流者たちは清子にちょっかいを出すことは許されず、リーダーは清子を徹底して束縛しようとします。

まぁこの辺の心理は上手く描けていたと思うのですが、
いざこのリーダーが映画から退場すると、清子は「やっぱり結婚しなくては!」と擦り込まれ、
抽選の結果、記憶喪失に陥った青年と結婚するハメになり、最初はあまり気ノリしません。

当初、清子は「島の若者たちは、皆、アナタを欲しているんですよ」と
全員が肉欲の対象としてしか見ていないことを言われながらも、そんな言葉に清子はウキウキし、
クジに当然、全員が参加したがるはずと思い込んでいたものの、立候補者が中途半端な数であることに、
露骨に不満を示すシーンは面白くって、この辺までは完全に彼女がアイドルを楽しんでいることが分かりますね。

しかし、一旦、島を脱出できるチャンスを得ると、
最初は誘惑を断りながらも、「ショーロンポー...チンジャオロース...」などと、
上海にも旨いレストランがあるぞと誘われると、「アタシ、ケンタッキーがいい!」と勇んでボートに乗り込むという、
とにかくサバイバルに必死な姿を露骨に出し、どんな手段に出てでも生き残ろうとする姿を見せ始めます。

そして、結婚したリーダーからは
「これからはオレだけでなく、島の若者たち、全員に愛を与えてやってくれ」と言い放たれ、
まるで“性の奴隷”として扱うかのような宣告をされたときの絶望したような表情が印象的で、
なかなか彼女の思い通りに物事が運ばないという、そのギャップはなかなか面白かったと思う。

しかし、この映画にとって致命的だったのは、
前述した映画の路線や方向性が、最後の最後まで照準を定めることなくフラフラし続けたことと、
清子が島で唯一の女性という存在であったにも関わらず、そこにスリルが無かったことだ。

安直な言い方をすれば、僕には島に流れ着いた漂流者たちが
随分と真面目な連中だなぁという印象で、誰一人たりとも秩序を破ろうとしないあたりが不可解。
少なくとも東京島での生活は困難だったはずで、島で唯一の女性を誰も襲おうとしないというのは、
ある意味で誰も清子に性的な魅力を感じていなかったか、人間の本能が枯れていたのではないかとさえ、
思えてしまうぐらい違和感のあるシチュエーションに感じられて仕方がなかったですね。

まぁあくまで映画で描ける範囲でしか表現できないし、
特に本作は原作がありますから、大きく逸脱はできなかったでしょうが、
リーダーが不在になった環境に陥ってまでも、誰も清子を襲おうとしないのは不思議でしたね。

そう考えれば、映画のクライマックスで突如として、
清子らが憎まれる存在になっていまい、突如として若者たちが蜂起するという展開もチョット雑ですよね。

映画の序盤から僕は注文を付けたいのですが、
やはりこの類いの映画は、何故、こういう環境になったのかをもっとキチッと描いて欲しいと思う。
例えば本作の場合は、清子が東京島に流れ着き、夫との共同生活に飽き飽きし、
漂流者である若者たちのアイドルになって、清子がそれまでの不満を抑えられなくなってしまう、
その過程をもっとキチッと描いて欲しかったですね。それをこの映画は全て省略してしまっているのです。

でなければ、この映画で表現される東京島の設定が胡散臭く見えてしまうんですよね。

僕はこの映画、もっとキッチリ描いてさえいれば、こんな出来にはならなかったと思いますし、
チョットしたスリルを一つでも常に観客に意識させることができれば、もっとセオリーをしっかりと踏襲した、
緊張感ある映画に仕上がり、もっと説得力ある映画になっていたと思うんですよね〜。

窪塚 洋介演じるワタナベの扱いも、ひじょうに勿体ない。
一体、作り手が彼に何を期待して映画に登場させたのかもよく分からないし、
あまりに中途半端な役どころに、別に窪塚 洋介が演じなくとも良かったのではないか?とすら思える。

そして、映画のラストは10年後のエピソードになりますが、
これは完全な蛇足ですね。ハッキリ言って、描く必要のない後日談と言っても過言ではありません。
内容の割りに、2時間を超えるというのは、いささか冗長過ぎる気がするのですが、
その原因はこういった無駄なシーンが多過ぎることに起因しているとしか思えないのですよね。

というわけで、僕にとっては残念な作品でしたが、
逃げ場の無い環境での生活を強いられる設定に興味がある人にはオススメかも・・・(←そんな人いるのか?)。

(上映時間129分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

監督 篠崎 誠
製作 宇野 康秀
    森 恭一
    伊藤 嘉明
    喜多埜 裕明
原作 桐野 夏生
脚本 相沢 友子
撮影 芹澤 明子
美術 金勝 浩一
編集 普嶋 信一
音楽 大友 良英
出演 木村 多江
    窪塚 洋介
    福士 誠治
    柄本 佑
    木村 了
    染谷 将太
    山口 龍人
    南 好洋
    サヘル・ローズ