時をかける少女(1983年日本)

80年代前半に日本映画界の大きな勢力であった角川 春樹製作の作品の一本。

まぁ映画の出来としては、ハッキリ言って、どうってことないけど、まずまず魅力ある題材であることは確か。
ヒロインの原田 知世はお世辞にも芝居が上手いとは言えないが、女優さんとして光輝くものを感じさせる。
映画は基本的に青春映画としての側面を強調しており、あまりSF映画としての体裁は良く保てれてはいない。

しかし、あくまで題材として考えるのならば、
本作はSF映画としてもっと格段に面白くなる土台は備わっていると思う。

もっとも、本作の場合はあまりにシュール過ぎる映像表現が徹底して映画の雰囲気を壊している。
これはおそら意図して作られた映像だと思いますが、いくらなんでももっとマシな表現があったはず。
基本的に良い素材をも壊してしまう大林 宣彦のスタンスは、本作の時点で確立されていると言っていいぐらい。

映画のエンド・クレジットで流れる原田 知世の主題歌のプロモーション・ビデオは、
時代を感じさせる雰囲気だが、何だか大円卓を形成したかのようで、ある意味では良いアイデアかな(笑)。

まぁ僕は大林 宣彦の映画って、
いつも彼独特の世界観が炸裂した時点で映画がダメになってる気がするんだけど、
本作なんかは彼特有の映像表現が無ければ、もっと映画は良くなったと思います。
そうなだけにいつも勿体ないと思うんですよねぇ。

関係ない話しですが、88年の『異人たちとの夏』なんて、正にその典型でしたもん。
純粋に大林 宣彦なりのノスタルジーとファンタジーに感動できたのに、映画の最後にブチ壊された感じ。
また、彼の映画のファンなんかは「あれがいい」って言うのかもしれないけど、どうもなぁ・・・。

とは言え、歴史ある街である尾道の風情を見事に活かした映像になっていることは確かだ。
カメラも良好であり、映画自体の空気を生み出すことにカメラが大きく貢献している。
学校の描写がいい加減なのとは対照的に、尾道の街並みの描写はとても見事である。
やはりこういう都市景観や街並みを大切にしている映画というのは、良いものである。
この映画にしても、大林 宣彦の愛着が深いからこそ為し得た、素晴らしい境地と言えるだろう。

本作なんかもヒロインの原田 知世が大きくクローズアップされているためか、
アイドル映画扱いされてしまっている節があるのですが、それなりに収穫のある映画だと思いますね。

本作で描かれたような青春の甘酸っぱさというのは、共感性の高い感覚だと思う。
特に男女の友情関係というのは、時にグレー・ゾーンだったりするけど(笑)、
純粋に友好関係を築けるのは、彼らのようなティーンの時代ならではの特性だと思います。
そういう意味では、本作なんかを観るたびに高校生の時の瑞々しい気持ちを懐古してしまいますね。
(こういった感覚を悟らせることが、おそらく大林の狙いなのだろうけど・・・)

デ・ジャヴ風に描いた地震のエピソードなどは、なかなか上手く描けているとは思うけど、
尾美 としのり演じる吾郎ちゃんの扱いが中途半端に終わっているのは、ひじょうに勿体ない。
この地震のエピソードにおいても、彼の実家である醤油醸造屋が火事に見舞われるのですが、
今一つヒロインとの関係性においても、映画の中における位置づけにおいても中途半端に終わってしまう。

この辺はただヒロインを描ければいいとする、大林 宣彦なりの開き直りなのかもしれませんが、
映画としてのバランスを欠いていると言わざるをえませんね。本来的にはもっと活用すべきキャラクターなのに。

一方で何を意図したのか、正直言って、僕にはよく分からなかったのですが、
映画の冒頭でモノクロ映像で表現し、太陽の光が差し込む箇所にカラーを取り入れていくカメラは、
なかなか良い技法でしたね。全体的なレトロな雰囲気も相まって、悪くない画面設計になっている。
ひょっとしたら、特に主だった意図なくこの技法を採用したのかもしれませんが、
これは一種の映像マジックと言っても過言ではないと思います。映画にしかできないノスタルジーの世界だ。

本作の大ヒットを機に、何度かTVや映画、アニメなどで本作はリメークされていますが、
本作のインパクトには勝てないようです。それは主演の原田 知世の魅力が大きいでしょうね。
それだけ先駆的な作品でありますし、それだけ魅力ある題材であることは確かだと思う。

80年代前半って、日本の学校教育においても校内暴力全盛期であり、
同時に受験戦争がより過熱化した時代だったことから、本作のような清純な空気を持った内容が、
より観客の心を刺激したのかもしれませんね。荒み切った現状との乖離が、逆に功を奏したのかもしれません。
このギャップこそ、原田 知世を強力にプッシュした角川プロダクションの大きな狙いだったのかもしれません。

但し、良くも悪くも大林 宣彦の世界。僕としては、編集は第三者に任せるべきだったと思う。
そうすれば独特な映像表現についても、また違ったアレンジができただろうし、映画の仕上がりが変わったかも。

ところで、最近は角川映画のような新旋風が巻き起こらないことが残念でならない。
角川映画は今になって思えば、低迷しつつあった日本映画界を救った一つの勢力と言えるだろう。
おそらく、当時、角川プロダクションとATGが無ければ、完全に日本映画界は萎れてしまっていたでしょう。
そうやって勢いがあったからこそ、本作をはじめ数々のヒット作を生み出せたのでしょうね。

映画の出来自体にはクエスチョンとは言え、こういう勢力は今となっては貴重であることを認めざるをえない。

(上映時間103分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 大林 宣彦
製作 角川 春樹
原作 筒井 康隆
脚本 剣持 亘
    大林 宣彦
撮影 阪本 善尚
美術 薩谷 和夫
編集 大林 宣彦
音楽 松任谷 正隆
出演 原田 知世
    高柳 良一
    尾美 としのり
    上原 謙
    内藤 誠
    津田 ゆかり
    岸辺 一徳
    根岸 季衣