タイタニック(1997年アメリカ)

Titanic

97年度アカデミー賞で作品賞含む11部門を独占して、
映画史に残る世界的な大ヒットとなったジェームズ・キャメロンが放つ超大作。

あまりに大規模なヒットとなり、ロングランになったため、公開当時から賛否両論ではあるのですが、
公開から約10年経った今、僕は改めて再見して思いました。やっぱ凄いっす、この映画。

98年の正月、僕はこの映画を劇場で観賞して、強く衝撃を受けたのを忘れられません。
それは空前のスケールと言ってもいい、大掛かりなセットを組んで実に精巧に映画を作っていたからです。
ナンダカンダ言って、21世紀に入った今でもこの映画のスケールは凄いと思う。
よく映画賞を獲るほどの映画とは思えないという類いのコメントを目にしますが、僕はそう思いません。

ほぼ間違いなく90年代以降、本作ほどのスケールの映画というのは登場しませんでしたからね。

公開当時はレオナルド・ディカプリオのフィーバーぶりに後押しされる形で、
半ばアイドル映画のような扱いを受けていましたが、映画としての出来も申し分ないと思いますね。
実にしっかりとしたヒューマン・ドラマであり、手堅く作られたパニック映画とも言えます。

ジェームズ・キャメロンもかなりリスクの大きな仕事だったと思いますが、
ある意味では投資の価値のある企画でしたね。確かにCGなど視覚効果に頼った作品ではありますが、
基本としてはセット撮影に凝った作品ですからね、さすがにセット撮影の重要性を再認識できましたしね、
臨場感溢れるシーン撮影するためには、何が必要なのかハッキリさせることが出来たと思います。
これはジェームズ・キャメロンの大きな目的の一つだったと思うんですよね。

あのアカデミー賞授賞式での空気読めないような雄叫びが顰蹙をかったジェームズ・キャメロンですが、
仮にも『ターミネーター』を撮ったディレクターですからね、CGに依存し過ぎない映像作りは目的にあっただろう。

思えば『タワーリング・インフェルノ』の公開から約23年、映画の基本スタンスは大きく変わっていません。
加わったのはCG技術の進化であり、CGのみで映像を構成する技術力は本作製作当時、既にありましたが、
本作あたりからは敢えてセット撮影とCGを融合する形で映像を構成するようになりました。
こういったスタイルがハリウッドの主流となったことから、『グラディエーター』などが誕生したんです。

タイタニック号とはイギリス、リヴァプールを母港とした豪華客船であり、
1912年のニューヨークへ向けた処女航海の途中、大西洋上で氷山と衝突し沈没、
結果として約1500人もの尊い命が失われた未曾有の海難事故として今尚、語り継がれています。

過去に何度か映画化されていますが、今回、ジェームズ・キャメロンが真正面から描いたのは衝撃的でした。
何故なら20世紀を代表するこの大事故を、数多くの証言から詳細に描写し、実に生々しい映像となって、
しっかりと映画の空気が根付いていることにあります。過去に映画化されたものの多くは、
ミステリー調であったり、サスペンス劇であったりと、ここまで事故そのものを克明に描写されていませんでした。

この映画の場合、上映時間の前半はほぼ完全にジャックとローズの恋愛劇から成り立っており、
半ば「何時になったら事故が起こるのか?」と不安にさせられますが、パニックは一気にやってきます。

まぁ別にジャックとローズの恋愛劇が不出来なわけではありませんが、
映画の最も大きなセールス・ポイントは、この克明に描かれたパニック劇だろう。
そうなだけに実際に客船内部までを再現したセットを駆使し、圧巻のパニック劇となります。
これは『ポセイドン・アドベンチャー』の映像を更に華やかにした感じで、美術関係も大きく貢献していますね。

そういった細部にわたるジェームズ・キャメロンの徹底したビジョンが行き渡り、
映画は実に活き活きとしていますね。多少、クサいシーンはありますが(笑)、怒涛の後半だけで満足できます。

現在も本作の記録的な大ヒットぶりはギネスに載るほどですが、
全米興行収入は約6億ドル、全世界興行収入は約18億3500万ドルというボックスオフィス。
今でも本作のロングランヒットは僕の中の記憶として鮮烈に残っていますね。

最近、この映画を観て強く思ったことがあります。
これは中学生だった当時、本作を初めて鑑賞した僕には全く考えられなかったことです。
それはリスク管理、リスク評価(リスク・アセスメント)のことであります。

実乗船人数の半数分しか救命ボートが用意されておらず、
まるで沈まないことが前提に安全設計が為されていたので、現代では考え難いリスク管理であります。
しかしながら、昨今でも、イージー・ミスによる事故というものは撲滅されておらず、
時には重大事故につながっております。そうであるがゆえ、こういった過去の教訓から学ぶことは多くあります。
この沈没事故なども真夜中の航行であるにも関わらず、スピードを全速力にして航海を続けよとの、
船会社からの圧力があったからこそ(←それだけ競争が激しかった)、氷山と衝突し、
更に事故の可能性を否定して、乗船人数分の救命ボートを用意せず、より多くの人々が乗船できるように
スペースを空けたという、全くリスク管理が機能していなかったわけなのです。

もし、この映画で描かれたことが全てなら、この事故は起こるべくして起きた、と言わざるをえません。

常に議論されることではありますが、技術革新が為されると安全が蔑ろにされてしまいがちです。
このタイタニックの事故も劇中で描かれたように、スピードを競っていたというファクターがあり、
少しでも速くニューヨークへたどり着くことが使命であったとも言えます。
しかし、それが仇となり20世紀を代表する海難事故になってしまったのは、実に残念なことです。

非難を急ぐ乗船客をパニックにさせないためにと、必死に演奏を続けた楽団はもとより、
泣き叫ぶ赤ん坊、未来の希望に溢れた若者たちなど、数多くの犠牲者が出ている歴史に触れ、
私たちは教訓としなければならないことが、数多くあるのではないでしょうか。

(上映時間195分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジェームズ・キャメロン
製作 ジェームズ・キャメロン
    ジョン・ランドー
脚本 ジェームズ・キャメロン
撮影 ラッセル・カーペンター
美術 ピーター・ラモント
編集 ジェームズ・キャメロン
    コンラッド・バフ
    リチャード・A・ハリス
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 レオナルド・ディカプリオ
    ケイト・ウィンスレット
    ビリー・ゼーン
    キャシー・ベーツ
    フランシス・フィッシャー
    ビル・パクストン
    バーナード・ヒル
    グロリア・スチュアート
    デビッド・ワーナー
    ビクター・ガーバー

1997年度アカデミー作品賞 受賞
1997年度アカデミー主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) ノミネート
1997年度アカデミー助演女優賞(グロリア・スチュアート) ノミネート
1997年度アカデミー監督賞(ジェームズ・キャメロン) 受賞
1997年度アカデミー撮影賞(ラッセル・カーペンター) 受賞
1997年度アカデミー主題歌賞(セリーヌ・ディオン) 受賞
1997年度アカデミー音楽賞<オリジナルドラマ部門>(ジェームズ・ホーナー) 受賞
1997年度アカデミー美術賞(ピーター・ラモント) 受賞
1997年度アカデミー衣装デザイン賞<カラー部門> 受賞
1997年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート
1997年度アカデミー視覚効果賞 受賞
1997年度アカデミー音響賞 受賞
1997年度アカデミー音響効果編集賞 受賞
1997年度アカデミー編集賞 受賞
1997年度ロザンゼルス映画批評家協会賞美術賞 受賞
1997年度ゴールデン・グローブ賞<ドラマ部門>作品賞 受賞
1997年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(ジェームズ・キャメロン) 受賞
1997年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(ジェームズ・キャメロン) 受賞
1997年度ゴールデン・グローブ賞歌曲賞(セリーヌ・ディオン) 受賞