タイムライン(2003年アメリカ)

Timeline

チョット意地悪く言えば、及第点レヴェルの映画といった感じなのですが、
これはリチャード・ドナーの上手さが光る映画で、エンターテイメントとしては優秀な部類ですね。

マイケル・クライトン原作だとは、不覚にも僕は映画のエンド・クレジットで気づいたのですが、
ヨーロッパのコスチューム・プレイとタイムスリップ劇との融合で、巧妙に良く出来たストーリーだ。

が、これは観る前にほとんど期待していなかった僕の感想であって、
確かにこれは大きく期待して観ると、かなりガッカリさせられてしまう作品かもしれません。
映画の前半は特に次から次へと目まぐるしく展開する勢いのある映画で、テンポがとにかく良い。
でも、残念なのは映画がクライマックスに近づいてくるにつれて、次第にテンションが下がってしまいます。

端的に言うと、アンドレがフランス軍のレディ・クレアに一目惚れするあたりからダレ始める。
それまでは映画が急転直下で動き続けていただけに、急激にテンションが下がってしまいます。

それにしても、このレディ・クレアを演じたアンナ・フリエルって女優さん、キレイですねぇ。
今までほとんど知らない女優さんでしたけど、なんでもっとプッシュしなかったんだろ。
決して派手さのある美人女優ではありませんが、この手の映画のヒロインにはピッタリなのに。

そのせいか否か、僕にはどう観ても、クリスとケイトのロマンスよりも、
アンドレとレディ・クレアのロマンスの方が魅力的に映っていたように思うのですよね。

巨額の製作費を投じていることを裏付けるように、
劇中、幾度となく登場してくる巨大なセット撮影が圧巻ですね。これは実際に組んだみたいです。
できる限りCGを使わずに、手作り感覚を活かして映像を設計したリチャード・ドナーの気概を感じます。
06年の『16ブロック』を観た時にも感じましたが、まだまだ映画が若くて嬉しいですね。

但し、キャスティングは見直して欲しかったかなぁ。
考古学の研究に明け暮れる研究生たちという設定だから仕方ないのかもしれないけど、
正直言って、フランシス・オコナーやジェラルド・バトラーには若過ぎる役柄に見えましたね。
個人的にはもっと若い役者を起用して欲しかったし、若さゆえの軽率さなんかも活かして欲しかった。

個人的には映画の冒頭で登場してきた10回のタイムスリップを経た結果、
体中のあらゆる血管組織の位置がズレ、体がボロボロになってしまうという要素をもっと活かして欲しかったな。
せっかくマイケル・クライトン原作なわけですし、“転送エラー”と呼ばれる、生物学的な矛盾点をもっと言及して、
よりタイムスリップすることの難しさを取り上げ、映画の終盤で一つの“ヤマ”として欲しかったですね。

それともう一点。
映画はジョンストン教授がタイムスリップして、現代に戻ってこれなくなってしまったことによって、
映画のストーリーは動き出すのですが、僕にはどうして教授を救おうとしたのか、よく分からなかったですね。

まずは、タイムスリップ装置を開発した会社の重役連中は
事故の事実を隠蔽したいわけで、リスクを冒してまで再びタイムスリップする理由がよく分からない。
ましてや事実か否かは分かりませんが、教授が約束の時間と場所に戻れなかったわけで、
こういった場合は不測の事態とは言い難く、欧米的な考え方をすれば、自己責任の世界なはず。
勿論、家族は救いたいと思うだろうけど、どうしてここまでして救いたいとするのか、僕にはよく分からなかった。

何かここで、明確な理由があれば、映画の前半はもっと説得力のある展開になっていたはずです。

どうでもいい話しではありますが...
ジェラルド・バトラー演じる考古学研究者のアンドレの選択がチョット面白かったですね。
確かに彼が下した決断って、映画的な選択なんだけれども、これは考古学者としてはあるまじき発想。
ましてや彼がとった選択によって、歴史が変わってしまうことが必至なわけで、倫理的には破綻している。
この辺の破綻は僕にとっては、許容できる範疇でなんだか面白かったですね。

タイムパラドックスに深く言及しないあたりも、またリチャード・ドナーらしい。
彼の映画は常にエンターテイメントとして設計されているから、難しいテーマには深く言及しません。
これが僕は彼が撮る映画の良さでもあると思うんですよね。『リーサル・ウェポン』シリーズが、その最たるもの。

日本ではそこそこヒットしていたように記憶しているのですが、
これは中世ヨーロッパ劇とSF映画の融合という発想が功を奏したのでしょうね。
コアなリチャード・ドナーのファンには85年の『レディホーク』を思い起こさせるような企画ですし。
(『レディホーク』ほどSFX処理を多用してはいませんが...)

“スペイン火薬”まで登場してくる、クライマックスの合戦シーンはかなり気合が入っていますね。
この映画の問題はこのシーンに到達するまでなんですね、ここまでが冗長な傾向にあります。

この映画の中盤での中ダルみさえ無ければ、僕はもっと良い出来になっていたと思う。

そういえば...映画の冒頭で車を運転していたオッサン、
僕は「この人、どっかで観たことがある!」と思っていたのですが、ずっと思い出せませんでした。
色々と調べたら、彼は『リーサル・ウェポン』シリーズで刑事部長を演じたスティーブ・ケイハンですね。
何と、彼はリチャード・ドナーの従兄弟で、彼の監督作に数多く出演実績があるみたいですね。

そう言われてみれば、リチャード・ドナーと似ているような気がしますね。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 リチャード・ドナー
製作 リチャード・ドナー
    ローレン・シュラー=ドナー
    ジム・ヴァン・ウィック
原作 マイケル・クライトン
脚本 ジェフ・マグワイア
    ジョージ・ノルフィ
撮影 キャレブ・デシャネル
編集 リチャード・マークス
音楽 ブライアン・タイラー
出演 ポール・ウォーカー
    フランシス・オコナー
    ジェラルド・バトラー
    ビリー・コノリー
    イーサン・エンブリー
    アンナ・フリエル
    デビッド・シューリス
    ニール・マクドノー
    ランベール・ウィルソン
    マイケル・シーン