チケット・トゥ・パラダイス(2022年アメリカ)

Ticket To Paradise

なんか...ハリウッド映画でバリを舞台にした作品って、初めて観た気がします。

すっかりお馴染みのコンビのようになったジュリア・ロバーツとジョージ・クルーニーが
一人の娘に恵まれながらも離婚し、以降は強烈に険悪な元夫婦に扮し、娘が大学の卒業旅行でバリ島に訪れ、
そこで命を助けてもらった現地の若き青年に一目惚れし、結婚すると言い出したことから、慌てて娘の結婚を止めに
現地バリ島へ2人が結託して入るものの、「結婚妨害工作」がなかなか上手くはいかない様子を描いたコメディ。

映画の出来はそこそこだと思うし、手堅く作られた印象を持つ仕上がりだと思う。
何度も共演しているジュリア・ロバーツとジョージ・クルーニーは息がピッタリと合ったコンビだし、安定感抜群だ。
まぁ・・・撮影現場も楽しそうにやっていたのが分かりますが、それだけ共演者としてお互いに相性が良いのでしょう。

それにしても、ジュリア・ロバーツもジョージ・クルーニーもいい具合に年相応の芝居で良いですね。
一時期はハリウッドでも、ラブコメの女王みたいになっていたジュリア・ロバーツですが、
本作を観ていると、失礼ながらも...加齢に無理に抗うわけでもなく、ごく自然体に演じていて好感が持てる。
それはジョージ・クルーニーにしても同様ですけど、本作は特にジュリア・ロバーツの自然体ぶりが際立っている。

役柄で多少なりとも若作りするのは仕方ないにしろ、メイクでバリバリ“加工”する感じでもなく、
無理に自分の恋愛を若い感覚で演じようとするわけでもなく、全てに於いてごく自然体に振る舞っている。

本作ではどちらかと言えば、母親としての側面を強く意識して演じている感じでして、
表情一つ一つ見ても、やっぱり相応に年を重ねているなぁと観客の立場からして実感するわけですが、
でも、ジュリア・ロバーツはそれを隠そうとするわけでもなく、結婚する娘がいる母親という立場を自然に表現している。
当たり前ですが、いつまでも『プリティ・ウーマン』の頃のようにはいかないですからね。その見せ方がとても上手い。

本作でのジュリア・ロバーツの若さを作り込むことなく老いを受け入れながら、自然体な振る舞いを見せる姿は
古くからの彼女の熱心なファンからすれば多少なりともショックなのかもしれませんが、いつかは正解だったと
言われるときが来るはずです。それは、いつまでも若々しさを保つのは無理なんで、この方が息が長くなります。

ジョージ・クルーニーは元々、ダンディな雰囲気で“売って”いたので本作の路線は想像通りですけど、
僕は観る前の勝手な予想よりも、遥かにジュリア・ロバーツの自然体な立ち振る舞いに感心させられてしまいましたね。

映画の中身的には正直言って、よくあるタイプの話しですので、意外性など皆無。
分かり切った、ある程度フォーマット化されたような下地があって、そこそこしっかり書けたシナリオがあれば、
そこそこの出来になることは約束された企画のような気がしますが、それでもバランス感覚に欠けたディレクターが
撮ってしまうと、映画が一気に崩れやすいジャンルでもあるので、それ相応の難しさはあったと思います。

その辺は本作はクリアできているので、及第点レヴェルではあると思うのですが、
一方で目新しい面白さがあるわけではなく、ほぼほぼ予想通りの帰結を迎えるので、賛否両論はあるでしょう。
そもそもジュリア・ロバーツとジョージ・クルーニーのキャスティングとなった時点で、結末がどうなるかは明白ですよね。
その期待を裏切ることなく、相応に観客を楽しませなければならないので、そういう意味ではハードルは高いと思う。

ただ、欲を言えば、もっと笑わせてくれるシーンはあっても良かったかな。基本、コメディだと思うので。
どちらかと言えば、ウェルメイドというか、予定調和な雰囲気にすることに注力した感じなので、笑いは控え目。
映画の冒頭から、主演2人の元夫婦が嫌味の応酬を繰り広げるのですが、あんまり笑える感じではないですね。。。

それでも会話劇を軸に映画をテンポ良く進められているのが流石ではあるのですが、
そうなだけにもう少し笑いの要素が入っていれば、もっと楽しく愉快な映画で最後にホロッとさせられるみたいな
お手本のようなハートフル・コメディに仕上げられたと思うのですが、観客の笑いをとりにきている感じが弱いですね。

どうやらオーストラリアで実際には撮影したらしいのですが、バリを舞台にしたという設定で
抜群のロケーションをバックに映画を撮れたのですから、もっと陽気で明るい感じがあっても良かったと思います。

2人の娘の学友を演じたビリー・ロードは、名女優デビー・レイノルズの孫であり、
『スター・ウォーズ』シリーズでレイア姫を演じたキャリー・フィッシャーの娘さんなんですね。双方、既に故人ですが。
少しだけ年上にも見えたのですが、結婚騒動を起こす娘を演じたケイトリン・デバーよりは2、3歳年上のよう。
謎にバーで飲むジョージ・クルーニーに絡みに行ったりと、大人な雰囲気を漂わせますが、少し陰を感じる部分がある。

彼女には責任はないのですが、正直、この学友はあまり必要性のないキャラクターに見えてしまったなぁ・・・。
まぁ、ここでジョージ・クルーニーを誘惑するような役柄にする、という選択肢もなくはなかったと思いますが、
そうして無理矢理に必要性を出して、無駄に混乱させても、いろんな要素が入り乱れ過ぎてダメになっちゃうしね。。。

どこか中途半端な“浮いた”存在になってしまったのは、個人的には気になりましたねぇ・・・。

卒業旅行に一緒に行くところまでは分かるけど、そもそも何ヵ月もバリに一緒にいること自体、
無理があるし、一緒に行った友達が現地で結婚するとなって、それで乗り込んできた両親の元夫婦の仲裁的な
立場に回るというのも無理がある。そうならば、無理をして彼女を最後まで付き合わせる意味が薄い気がしましたね。

ある意味で、本作のような映画はハリウッドの十八番みたいな内容であって、
こういう映画は定期的に製作されるのですが、半ば飽和状態なだけあって、目新しさを出すのは難しいと思う。
だからこそ高い評価を得るのは難しいジャンルにも感じますが、反面、キャスティングで決まる部分も大きいです。
本作はやっぱり、ジュリア・ロバーツとジョージ・クルーニーという強力なブレーンをキャストできたことがとても大きい。
ハッキリ言って、この2人が期待値通りの仕事をしてくれれば、最悪な結果にはならないと約束されたようなもの。

あらためて本作のような映画を観ると、映画を作る上でのキャスティングの重要性を認識させられます。

現実に、いくら夫婦生活が上手くいかず、娘に寂しい想いをさせてしまったとは言え、
娘にあんなに衝動的に異国の地で結婚すると言われては、誰だって動揺するし、反対したくもなるでしょう(笑)。
自分の子供の結婚観も多様ではありますが、感覚的には「オイオイ、大丈夫なのかよ!?」くらいには思うでしょう。

これは日本人的な感覚なのかも、とも思ったけど、本作を観ると一概にそうでもないことが分かる。
欧米人の感覚としても、「もっと段取りってものがあるでしょ!?」くらいには親として思ってしまうのかもしれない。

これが子どもが結構、年齢いっているとかなら話しは変わってくるのかもしれませんが、
卒業旅行で出会った人と衝動的に結婚すると言われ、相手は出身国も文化も家族観も価値観も異なりそうで、
しかも旅行のときに初めて会った、なんて言われたら...手塩にかけて育てた愛娘なら、そりゃ反対しますわ(笑)。

とは言え、最初っから結婚を破断にするために元夫婦が作戦を練るというのも違う気がするが、
まぁ・・・本作で描かれたようなケースならば、最初からお互いの両親がウェルカムで祝福するとは限らないということ。
現代版『招かれざる客』とでも言わんばかりの内容でもありますが、多様性の時代なんであくまでマイルドなタッチです。
コンプライアンスの時代と言われる現代社会ですから、こういうテーマを社会問題のようには描きづらいのでしょう。

まぁ、まだそこまでではないのだろうけど、コンプライアンスとは法令順守という意味だったはずだけど、
いつしか単に法令を守るということだけではなく、道徳やモラル、社会規範となるかという観点も加わっており、
今は多様性を受け入れる社会を形成するベクトルで動いているので、結婚に反対する理由も先入観や偏見に基き、
モラルに反する方法をとるという物語を、映画の世界で楽天的には描きづらくなってきているのではないかと思う。

これって、表現の自由にも関わることなのかな?とも思わなくはないんだけど、
カルチャー・ギャップを笑いの変えたコメディ映画なんかは、現代の感覚でいくとキワどいものが多いからなぁ。

今後はどうなっていくか、ホントに分からないですけど...あまり行き過ぎなければいいのだけど・・・。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 オル・パーカー
製作 ティム・ビーヴァン
   エリック・フェルナー
   セーラ・ハーヴィー
   デボラ・ボルダーストーン
脚本 オル・パーカー
   ダニエル・ピプスキ
撮影 オーレ・ブラット・バークランド
編集 ピーター・ランバート
音楽 ローン・バルフェ
出演 ジュリア・ロバーツ
   ジョージ・クルーニー
   ケイトリン・デバー
   マキシム・ブティエ
   ビリー・ロード
   リュカ・ブラヴォー