サンダーボルト(1974年アメリカ)

Thunderbolt And Lightfoot

これはマイケル・チミノのデビュー作にして、最高傑作だと思う。

78年に『ディア・ハンター』で商業的大失敗をしたマイケル・チミノはハリウッドを事実上の追放に
なってしまいましたが、過大な責任を負わされたのがチョット可哀想なくらいで、『ディア・ハンター』の前には
こんなに素晴らしいロード・ムービーを撮っていただけに、なんだか不遇な映像作家に思えてくる。

確かに少々荒っぽいところがあって、映画の終盤の強盗シーンにしても、
決して完璧な映画というわけではない。そもそも仲間割れしたとしても、性格が粗暴なレッドとは言え、
牧師に扮していたサンダーボルトをいきなり銃撃して、逃げるサンダーボルトを追って更に銃を向けるなんて、
チョットありえないシーンで、それでいて実はレッドは「アイツを尊敬している」と言ったりして、
映画として支離滅裂なところもあるのですが、しかし、この映画はとにかく漂う空気が良い。
(まぁ・・・もっとも、レッドは本気でサンダーボルトを殺そうとは思っていないわけだが...)

あまりそこまでモロにというわけではないのですが、
静かな別れを描く映画のクライマックスなど観ると、どことなく無常感が漂っていて、
アメリカン・ニューシネマの潮流を強く感じさせる作風になっており、70年代の映画が好きな人にはたまらない作りだ。

イーストウッドの映画のファンにとっては、どこか物足りない部分はあるかもしれません。
しかし、マイケル・チミノの初監督作品であるということと、若者が中年を慕うロード・ムービーという、
当時のアメリカの若者たちの有り余るエネルギーを抑えきれなくなり、新たな時代を迎えながらも、
不安定な社会情勢に先行き不安を感じながらも、世代交代していくことが大きなテーマの中では、
大きな意味合いのある映画として、今一度評価し直す必要がある作品の一つではないかと思います。

本作の直前にも73年に『スケアクロウ』がありましたが、
僕の中では本作の方が馴染み深い傑作という感じで、それはおそらく無常感の強さを感じるからでしょう。

今になって思えば、閉店後のデパートに夜警として獰猛な犬を放つという発想がスゴい映画で、
閉店後の店内清掃員を退避させるために、「今から犬を店内に放つので、店から早く出てください」なんて、
館内放送が流れるというのが、妙に忘れられなかった。あまり詳細に描くと、スプラッタな内容になってしまうので、
マイケル・チミノはソフトに描いているけれども、この犬による悲劇が一つ描かれているのが衝撃的だ。

イーストウッドは、73年に出演した『ダーティハリー2』で脚本を担当した
マイケル・チミノの能力を見い出していたのか、本作で監督デビューするビッグチャンスを手にします。
後に『ディア・ハンター』で壮大な映像作家に変貌し、それはそれで評価された後、彼なりに威信をかけた
『天国の門』に巨額の資金を投じて製作するも、これが興行的に大失敗したことでハリウッド追放ということになります。

何度でも言いますが、ホントは『天国の門』は素晴らしい出来の映画なんだけれども、
いかんせんマイケル・チミノが初心を忘れ、大作の映画を作り込むことに没頭していたせいか、
そういう執拗なこだわりが無く、シンプルに映画を撮ることに注力したのが、このデビュー作であったように思います。

そう考えると、本作がマイケル・チミノの監督作品としては、最高傑作ではないかと僕は思うのです。

アメリカン・ニューシネマという枠組みで考えると、本作は完全に後発的作品だ。
74年という時期は、既にハリウッドでもアメリカン・ニューシネマの時代とは少しずつ変わってきていて、
ニューシネマ・ムーブメントが当時の映画の主流ではなくなってきた頃でしたが、まだその匂いを色濃く残していた
映像作家が数多くいた時期であり、マイケル・チミノはそういった潮流の影響を受けた一人なのかもしれない。
そういう意味で、本作は少しでも遅くに製作されていたら、受け入れられなかった作品のようにも思えます。

ポール・ウィリアムズが歌う、主題歌『Where Do I Go From Here』(故郷への道を教えて)も、
どこか物悲しさが残り、それでいて徐々に盛り上がっていくカントリー・ソングで隠れた名主題歌と言っていいくらいだ。

映画の冒頭とエンディングで同じ主題歌を流すというのも、なんとなく珍しい気がするのですが、
エヴァーグリーンな雰囲気というか、70年代初頭に巻き起こったシンガソングライター・ブームに乗ったのか、
ソフトロックというカテゴリーでポール・ウィリアムズは日本でも知られ、この曲は当時、シングルカットされたようです。

キャスティング、主題歌と恵まれた環境もありますが、本作でのマイケル・チミノの演出は素晴らしく、
本作での経験があったからこそ、『ディア・ハンター』のメガホンを取るチャンスをもらったわけで、
当時のイーストウッドは既に監督デビューしていた後だったことを考えると、本作も主演と監督兼任で
十分に映画は成立できたはずですが、敢えてマイケル・チミノに演出を任せたということのように思えます。

そう思って観ると、本作、『ディア・ハンター』、『天国の門』と観れば、
マイケル・チミノの神懸かりは本作の時点で既に始まっていたわけで、とても意義深い作品ですね。

本作で目立つのは、主演のイーストウッドより助演に徹したライトフットを演じたジェフ・ブリッジスかもしれません。
銀行強盗の間も警備会社のオッサンの目を逸らすために、何故か女装して誘惑するというのも妙だが、
やたらとレッドと衝突して、いくらレッドが屈強な凄腕とは言え、一方的な暴行にあうというのも、また妙。

当時としては“新世代”を象徴するキャラクターであり、
普段は孤独であるがゆえ、オッサンたちと行動することに喜びを感じながらも、まだまだ未熟で
オッサンたちから見るとジェネレーションギャップを感じるという設定であるかのようで、
当時の若者の象徴として登場させたようで、オッサンたちから見ると、理解のできない存在なのでしょうね。

しかし、そんな若者であっても、サンダーボルトからすると、
最初は面倒くさい、理解できない存在であっても、いつしかライトフットはかけがえのない存在になっていく。

中年と若者の交流という意味では、『明日に向って撃て!』のニュアンスとも似ていますね。

本作はアクション映画というよりは、ロード・ムービーの色合いが強い。
派手なガン・アクションがあるわけでもなく、銀行強盗シーンにしても、大きな仕掛けがあるわけでもありません。
この辺はイーストウッドのビジョンとややズレがあったのかもしれませんが、マイケル・チミノの作家性からすると、
派手なアクション・シーンに終始するよりは、人物描写に注力したかったようにも感じます。

ただ、どことなくマイケル・チミノの不器用さも垣間見れる作品だ。
例えば、映画の終盤のドライブインシアターに逃げ込んでからのドタバタなどは、少し荒っぽく見えてしまう。
せっかく、それまで丁寧に作り込んでいて、エンディングは良いテイストの映画なのに、これはとても勿体ない。

しかし、そんなことも補うに余りある魅力溢れる素晴らしい傑作であると、私は思う。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 マイケル・チミノ
製作 ロバート・デイリー
脚本 マイケル・チミノ
撮影 フランク・スタンリー
音楽 ディー・バートン
出演 クリント・イーストウッド
   ジェフ・ブリッジス
   ジョージ・ケネディ
   ジェフリー・ルイス
   キャサリン・バック
   ゲーリー・ビジー
   ジャック・ドッドソン

1974年度アカデミー助演男優賞(ジェフ・ブリッジス) ノミネート