007/サンダーボール作戦(1965年イギリス)

Thunderball

シリーズの人気を決定付けた第4作で、再びテレンス・ヤングが監督しました。

ガイ・ハミルトンがエンターテイメント路線を拡げつつも、随所に謎演出を残していましたが、
やっぱりテレンス・ヤングに撮らせると、そういった荒唐無稽なシーン処理は少なくなり、映画もエッジが効いている。
チョットだけ、映画の尺が長くなったのは気になるけど、それでもこれは必要なボリューム感だったのかもしれない。

映画は原子爆弾を2基と起爆装置を持ったNATOの爆撃機が行方不明となり、
世界征服を企む悪の組織“スペクター”の手下であった大富豪ラルゴが財力を生かして、海底に隠して、
原子爆弾を手にしたことを盾に、NATOに1億ポンドという大金を要求し、それを防ぐべくボンドが立ちはだかります。

そう、この映画は“スペクター”の存在が帰ってきます。前作『007/ゴールドフィンガー』では、
あくまで大富豪ゴールドフィンガーの単独犯みたいな感じで“スペクター”は影も形も無い感じでしたが、
一転して本作では“スペクター”の存在を明確に描いていて、この辺はテレンス・ヤングが軌道修正した形になった。

『007/ゴールドフィンガー』では、ガイ・ハミルトンなりに頑張っていたと思うし、
あれはあれで面白かったのだけれども、やっぱりボンドのイメージを構築したのがテレンス・ヤングだったこともあって、
本作でのテレンス・ヤングの演出には安定感がある。余計な無駄は無いし、あまりに無茶な演出は行わない。

ショーン・コネリーももはやベテランの域に達したぐらいの余裕を感じさせるのですが、
テレンス・ヤングが監督していながらも前作あたりから定着してきた、ボンド流のギャグみたいなのは更に増えている。

実は本作、後にショーン・コネリーがボンド役にカムバックするという企画があって、
83年にアービン・カーシュナーが撮った『ネバーセイ・ネバーアゲイン』なる作品があって、あれは本作のリメークでした。
老体に鞭打つようにショーン・コネリーがヨタヨタとアクションを繰り広げるという作品で、限界を感じましたが、
さすがに本作ではまだ撮影当時の年齢も30代半ばという、役者として脂が乗り切った時期だったので、勢いが違う。

人食いサメの恐怖についても、『JAWS/ジョーズ』に先駆けて描かれていることは驚きだし、
ボンドがラルゴの屋敷に閉じ込められて、人食いサメが泳ぐプールを泳いでボンドが逃げるシーンは緊張感たっぷり。
とにかく本作のボンドは水に潜ってのアクションが求められたので、ショーン・コネリーも大変だったでしょうね。
(かの有名な話しで、本作の撮影のことからショーン・コネリーは既にカツラを着用していましたしね・・・)

しかし、主題歌は...本作の主題歌はトム・ジョーンズが歌っているのですが、
当初は前作に続いてシャーリー・バッシーの曲を使う予定だったそうで、プロデューサーの意向で急遽変更。
さすがに前作のシャーリー・バッシーが歌った主題歌は有名になり過ぎたせいか、このトム・ジョーンズは少し弱い。

本作は当時としては、シリーズでも最高額の製作費を投じた作品であり、スケールは大きな作品でした。
ただ、その割りにはクライマックスのラルゴ所有の高速ボートが暴走するシーンは、あまりに安っぽく見えてしまった。

ボートの操縦席の窓に、凄まじいスピードで暴走する映像が合成映像で流され、
幾度となく岩礁にぶつかりそうになる映像が繰り返されるのですが、このシーンはあまりに作り物っぽくて・・・。
いくら1964年の映画であることを考慮しても、もっとマシな合成映像で迫力を出すことは可能だったと思います。
何度も岩礁に衝突しそうになってラルゴと闘いながら、それを回避するボンドの姿はまるで学芸会のよう(苦笑)。

本作は水が一つのテーマになっていたせいか、水中でのアクション・シーンが多いのが特徴的だ。
ところが、まだ技術的にはアナログに撮るしか方策が無かった時代だったせいか、大勢のラルゴの手下とボンドらが
水中で入り乱れて闘う姿は、あまりにゴチャゴチャしていて何がなんだか訳が分からないのは、あまりに勿体ない。
テレンス・ヤングにとってはチャレンジだったのかもしれませんが、正直、この水中アクションは失敗だった気がする。

ボンドの仲間であるCIAのフェリックス・ライターが手配した連中がボンドに加勢するわけですが、
これがあまりに人が多過ぎて、ゴチャゴチャし過ぎて何がなんだか訳が分からない。もっとシンプルに撮って欲しい。
おそらく本作最大の見せ場になるはずだった水中の合戦だったのですが、これは正直、マイナスに働いたと思う。

まぁ、本作あたりから“007シリーズ”のマンネリ化を指摘する声もあるにはあるのですが、
まだ本作のショーン・コネリーもおふざけモードを封印しているので、しっかり見せてくれる部分は多いので良いですよ。
これが次作の『007は二度死ぬ』へと進んで、3代目ロジャームーアの時代に行くと、ホントにギャグ連発ですから・・・。

悪の組織“スペクター”の恐ろしさを象徴するシーンが本作にあって、
“スペクター”の幹部たちが集まり会議するシーンで、怠慢をした幹部の一人を椅子に電気を流して、
多くの幹部の前で“処刑”することで、恐怖政治的に他の幹部たちを締め付け、No.1がパワーを発揮します。
似たようなシーンは『007/ロシアより愛をこめて』でもありましたけど、本作はもっと顕著に描いていますね。

相変わらずボンドが女性にダラしないというのはお約束の展開ですが、
映画の序盤にあったボンドがマッサージ係の女性に“おイタ”をしかけたお仕置きとして、15分間マッサージ機に
ボンドが固定されて放置されるというシーンで、何者かがボンドの個室に侵入して、マッサージ機の強度をMAXにして、
ボンドが強制的に猛スピードで背筋を伸ばす運動をさせられて、身体を痛めつけられるというシーンがあります。

これは現実にやられたら大変なシーンですね。あんなのを15分もやられたら、死んじゃうかもしれません。
見方によってはコメディ的とも解釈できなくはないシーンなのですが、この辺はテレンス・ヤングは上手かったと思う。
なんせ、前作ではガイ・ハミルトンが結構コミカルに“攻めてた”んで、路線的にはテレンス・ヤングは軌道修正してます。

まぁ・・・僕は前作『007/ゴールドフィンガー』は、あれはあれで好きなんで...ハッキリ言って、好みですがね・・・。

だいたい、世界を股にかける英国諜報部員でスゴ腕のスパイなはずのボンドが、
映画の冒頭からセクハラ三昧で時代性のせいか、現代の感覚で見るとほぼほぼセクハラにしか見えない。
マッサージ機で痛めつけられたお詫びにと、係の女性をシャワールームに連れ込むなんて、もう犯罪ですよねぇ。
ボンドを演じるショーン・コネリーも撮影当時、35歳という年齢の割りには年を重ねているように見えるせいか、
なんか延々とセクハラを繰り返すオヤジが強引に女性とイイ関係になろうとするだけに見えるから、なんかイヤだ(笑)。

こういう描き方を見ると、時代性があったとは言え、女性蔑視ではないかと言われても仕方がない気がする。。。

ボンドガールに抜擢されたクローデイーヌ・オージェは評判が良かったのですが、
個人的には他作品のボンドガールと比較すると、あまり見せ場が多くなく、なんだか中途半端に見えてしまった。
確かに美貌は光るのですが、もっとボンドと一緒になってアクションをこなすとか、何らかの工夫は必要だったと思う。

それがクライマックスのラルゴの暴走するボートでの荒唐無稽なアクション・シーンだとするなら、チョット可哀想。
そういう意味では、『ネバーセイ・ネバーアゲイン』ではヒロインが若き日のキム・ベイシンガーでしたからねぇ。
ひょっとしたら、ショーン・コネリーなりに物足りなかった部分を『ネバーセイ・ネバーアゲイン』に吹き込んだのかな?

アクション・シーンという意味では、本作の場合はむしろ映画の冒頭のシーンの方が良いかもしれない。
本作は冒頭からQがボンドに与えたアイテムが大活躍で、特に“ジェットパック”と呼ばれる垂直飛行ができる、
ジェット噴射装置につかまってボンドが空を飛んで、悪党から逃げるシーンは当時としては画期的な発想だろうし、
いざ逃走するための車も、色々な仕掛けがあって追跡してこれないようにするシーンから、クレジットへ流れ込む。
この流れはまったくもって絶妙で、“007シリーズ”でも有数のオープニングだったと言っても過言ではないと思います。

まぁ、初期の“007シリーズ”のファンからすると、本作あたりがターニング・ポイントとなった作品でしょう。
シリーズ通して観ると、本作以降はチョット迷走した感がある。テレンス・ヤングらが絡まなくなったのもあるのでしょう。

テレンス・ヤングがやり残したことを表現した作品、ということなのかもしれませんが、
前作よりも予算を大幅にアップさせて、エンターテイメント性を向上させようとする強い意思を感じる作りでした。
ただ、内容的には2時間を超えるヴォリュームになってしまったのは残念。これでは中ダルみして、冗長に感じられる。

僅かずつでも余分なシーンをカットして、もう少し全体をタイトにシェイプアップできていたら、もっと良くなったはず。。。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 テレンス・ヤング
製作 ケビン・マクローリー
原作 イアン・フレミング
脚本 リチャード・メイボーム
   ジョン・ホプキンス
   ジャック・ホイッティンガム
撮影 テッド・ムーア
音楽 ジョン・バリー
   モンティ・ノーマン
出演 ショーン・コネリー
   クローディーヌ・オージェ
   アドルフォ・チェリ
   マルティーヌ・ベズウィック
   ルチアナ・パルッツィ
   リク・ヴァン・ヌッター
   バーナード・リー
   ロイス・マクスウェル
   デスモンド・リュウェリン

1965年度アカデミー特殊視覚効果賞 受賞