スリー・キングス(1999年アメリカ)

Three Kings

湾岸戦争終息間近のイラクで、戦争そっちのけで金塊強奪に出た4人の兵士たちを中心に
湾岸戦争におけるアメリカがイラクへ与えた影響をシニカルに描いた異色の戦争映画。

70年の『戦略大作戦』を想起させる内容の作品ではありますが、
本作はそのメッセージ性はシリアスであり、特にクライマックスはコメディ映画とは言い難い幕切れだ。
まぁとは言え、「ドッカァーン!」と矢継ぎ早に爆発シーンがあったりするわけではなく、
緊迫感いっぱいの戦闘シーンがあるわけでもなく、基本路線はコメディ映画と言ってもいいかもしれない。

監督のデビッド・O・ラッセルは『アメリカの災難』のディレクターですが、
『アメリカの災難』も変わったコメディ映画でしたが、本作は更に上を行く奇妙な映画だ。

その効果の良し悪しは分かりませんが、
銃撃による内臓の損傷から敗血症になる恐ろしさを、敢えてグロテスクな模型を使って表現することにより、
言わば「作り物的なグロテスクさ」があります。これってアメリカへの強烈な皮肉なのですかねぇ?

僕の考え過ぎでしょうか、劇中、イラク人の軍人が拷問シーンで、
マイケル・ジャクソンが白人のような風貌になり、真っ白な手袋を履いて表舞台に現れたことを例にとり、
「お前らの国が有色人種を差別するからだ!」と言い放つ。
この映画を通して、最も強く主張したかったことって、僕はこれなんじゃないかと思う。

映画の前半こそは陽気な感じで、サクサクと映画が進んでいきますが、
終わりが近づくにつれて、次第に雰囲気が重たくなってきます。
そして難民たちを如何にしてクウェートへと亡命させるかをシリアスに綴っていきます。
まぁ最初は悪しき目的があって、イラクのある集落を半ばゲリラ的に襲いに行くんだけど、
現地の人々が困窮し、目の前で拷問され虐殺される姿を見て、強いショックを受け、
次第に善行に目覚めていきます。この大筋はよくある話しなのですが、表現方法がひじょうに変わっています。

劇中、政治的なニュアンスやメッセージ性があったりして、
ややゲンナリさせられそうになったのですが、こういう展開になりがちなのは、
デビッド・O・ラッセルというディレクターの生真面目さゆえのことなのかもしれない。

これだけ面白い観点から撮っていれば、
別に政治的なメッセージや皮肉を描かなくとも、十分に見応えのある作品になっていたと思いますね。
ハッキリ言って、あまりに政治的に主観的なニュアンスが強過ぎると、議論の対象となりやすいですからね。
個人的にはそういう展開は好ましくないと思いますね。映画とは関係ない方向に議論が進んでしまいそうです。

まぁこの映画が公開された時は、まさか1年後にニューヨークで同時多発テロ事件が起こるとは
思ってもいなかったし、ましてやイラク開戦が起こるとは予想していなかったことだ。

湾岸戦争は湾岸戦争で、当時から批判され続けていた戦争だったと聞きますが、
テロ掃討作戦を軸にしたイラク開戦ほどに無計画で無責任で理不尽な戦争はないと思っています。
まぁ石油に関する利権があったから、イラクに攻め入ったところがあると思うんですが、
やってることは本作の連中と一緒ですね。しかし、今のアメリカから善行の心が見えませんね。

ホントにテロ掃討が目的ならば、フセインを投獄した時点で止めるべきだし、
もっと極端なことを言えば、開戦しなくとも解決を模索することはもっと出来たはずだ。
なんかこの辺が、随分と短絡的なものなような気がしてなりませんね。

そんなアメリカという国の側面を、かなり強烈に皮肉っているのでしょう。

まぁスタンスとしては、アメリカン・ニューシネマ期と一緒かもしれませんね。
ちょうど90年代末期は、それまでの潮流には無かった映画が多く発表されていましたから。

映画の中盤で、怒ったフセインを脅威に感じる兵士たちを騙す目的で、
ロールスロイスを使って演出するあたりが面白いですね。
ビーチ・ボーイズ≠フ『I Get Around』(アイ・ゲット・アラウンド)や
シカゴ≠フ『If You Leave Me Now』(愛ある別れ)を流して突撃するという破天荒さが面白い。

それ以外にもミルクタンクの横転シーンなど、
正直、ザラザラしたような映像は好きではないのですが、迫力あるシーン演出はなかなかの出来映えです。

但し、戦争映画としてのインパクトはどうしても劣るし、作為的な部分で疑問が残る。
デビッド・O・ラッセルはこれからの映画監督だと思うので、この先何本か観てみたいとは思いますが、
本作を観る限りでは、そこまで強い作家性を感じさせるディレクターとまでは言えないかな。
個人的にはもう少し独特な演出を施しても良いと思うし、シナリオ以上の魅力を引き出して欲しいと思う。

ちなみにコンラッドを演じたスパイク・ジョーンズは『マルコビッチの穴』を監督した映像作家でもあります。
どうやらデビッド・O・ラッセルとは仲が良いらしく、それが縁で出演したようです。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 デビッド・O・ラッセル
製作 チャールズ・ローヴェン
    ポール・ユンガーウィット
    エドワード・L・マクドネル
脚本 デビッド・O・ラッセル
撮影 ニュートン・トーマス・サイジェル
音楽 カーター・バーウェル
出演 ジョージ・クルーニー
    マーク・ウォルバーグ
    アイス・キューブ
    スパイク・ジョーンズ
    ジェイミー・ケネディ
    ミケルティ・ウィリアムソン

1999年度ボストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
1999年度ボストン映画批評家協会賞監督賞(デビッド・O・ラッセル) 受賞