コンドル(1975年アメリカ)

Three Days Of The Condor

確かに緊張感がある部分は良い映画だとは思うけど・・・
この映画が好きな人にはたいへん申し訳ない言い方ではありますが...
僕にはどうしても、この映画が秀でた作品だとは思えず、むしろ物足りなさが残ったなぁ。

まぁスパイのロマンを描いた映画と言えばそれまでだけど、
押し入りのように一晩、匿ってもらうキャシーと“コンドル”が惹かれ合うというエピソードには、
さすがに無理があるとしか言いようがなく、原作があるから仕方ないにしろ、どこか胡散臭い。

思わず、当時、ハリウッドを代表するイケメン・スターだった、
ロバート・レッドフォードと70年代を代表する美人女優フェイ・ダナウェーのロマンスを
無理矢理、描くがために挿入したエピソードのように思えて、なんか卑屈に考えてしまいますね(笑)。

まぁ『チャイナタウン』の優美さには敵わずとも、
本作でのフェイ・ダナウェーもそりゃまたキレイで(笑)、ドサクサに紛れラブシーンに持ち込んだ、
ロバート・レッドフォードが羨まし...いや、憎たらしく思えてくるから、どうも冷静に観ていられません(笑)。

まぁ“巻き込まれ型サスペンス映画”の定石とも言える、
追跡する連中をミステリアスかつ、ある一定の距離感を持って描くことにより、
映画の緊張感はほど良く持続し、クライマックスまでハラハラ・ドキドキが続くのが実に良いですね。
特にマックス・フォン・シドー演じる殺し屋の造詣なんかは、シドニー・ポラックの演出とは思えぬ上手さで(笑)、
エレベーターで“コンドル”と一緒になるシーンは、この映画のハイライトとも言っていいスリルだろう。

映画の冒頭にある、アッという間の惨殺事件にしても、
マック・フォン・シドー演じる殺し屋の冷酷な立ち振る舞いが秀逸のキャラクター造詣で、
落ち着いた声で、銃を向けられた女性に「窓から離れて頂けませんか?」とお願いし、
「アタシは暴れたりしないわよ」と女性が言い返すと、無表情で「そんなの分かってるよ」と一言。

そんな無表情にも、一つ一つ仕事を片付けていくことの恐ろしさは特筆に値しますね。

そう、この映画の監督はシドニー・ポラックでした。
残念ながら彼は既に他界しておりますが、晩年の作品群と比べると、
本作なんかはまだまだ元気な作品であり、やはりアカデミー賞受賞がターニング・ポイントだったのかな。

秀でた映画かどうはともかく、これだけ緊張感のあるフィルムは90年代に入ると、
すっかり陰を潜めてしまい、どうにもこの頃の面影が無くなってしまったのが残念でなりませんね。

もう一つ、この映画の難点を言えば、“コンドル”を取り巻く環境を複雑化し過ぎた点で、
映画の最後には、一応、謎が解き明かされますが、イマイチ登場人物の位置関係が分かり難い。
結局、この難点を克服できず整理されないまま映画が終わってしまうため、チョット不親切な印象が残りますね。

これならば、もっとシンプルにしても良かったと思うし、
映画で描き切った分だけで物語の全容を語り切れていない印象がどうしても残りますね。

いや、敢えてミステリーを残しておきたい映画だというのなら、それでもいいのですが、
僕にはどうしても本作がその手の映画とは思えず、本作が不条理を楽しむ内容だとは思えないのです。
特にCIAと会社の関係が分かりにくく、敢えて複雑化させた構図が逆効果だったのではないかと思いますね。
整理しながら分かり易くエピソードを捌ければ問題ないのですが、本作のシドニー・ポラックはそこまでの
上手さがなくって、結局、構図を整理できないまま映画を終わらせてしまったという感じなんですね。

しかし、本作の不思議はそれでも、僕は映画の終わらせ方は良いと思ったところ(笑)。
これはアメリカン・ニューシネマ期、特有のテイストを持ったラストですが、実に味わい深い見事なラスト。
こういうのを観ちゃうと、やっぱりシドニー・ポラックってニューシネマ上がりの映像作家であることを
改めて実感してしまうわけで、『ひとりぼっちの青春』や『大いなる勇者』などを思い出してしまいます。

この尻切れトンボのようなラストが絶妙に効いてるのですが...
こういう灰色的な終わり方が好きじゃない人には、ほぼ間違いなく共感が得られない良さだろう(苦笑)。

このラストシーンと冒頭のシーンで重点的に流されるのですが、
如何にもデイブ・グルーシンらしいミュージック・スコアがまた都会的でカッコいいですねぇ。
正に、逃亡が続く“コンドル”の「瞬間」と切り取り、ドキュメントしたかのような映像を見事に演出しています。
これはあまり注目されていませんが、デイブ・グルーシンの仕事としては屈指の傑作ではないだろうか。

実は原作では6日間に渡るドラマを描いているらしく、もっと政治的なニュアンスも強かったらしいのですが、
おそらく上映時間との兼ね合いでしょうが、映画では3日間に短縮しており、少しエピソードを詰め込んでます。
そして娯楽色を意識したせいか、このエピソードならば避けては通れない、政治色もほとんど排しており、
その分だけ“コンドル”とキャシーの恋愛に力を入れたようですが、最後はキャシーの存在が薄くなります。
この辺は本作でのシドニー・ポラックの詰めの甘さでしょう。これではフェイ・ダナウェーが可哀想です。

当時、フェイ・ダナウェーは実力派女優としてハリウッドで頂点に登りつつありましたが、
役柄の多くは裕福な設定が多く、本作で見せたような庶民的な側面は貴重かもしれません。
特にルームウェア姿が良いですね(笑)。そういう意味で、彼女のファンは観た方がいいかもしれません。
(クドいようですが、映画の最後で存在感が一気に薄くなってしまうのが、残念でならないのですが・・・)

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 シドニー・ポラック
製作 スタンリー・シュナイダー
原作 ジェームズ・グラディ
脚本 ロレンツォ・センプルJr
    デビッド・レイフィール
撮影 オーウェン・ロイズマン
音楽 デイブ・グルーシン
出演 ロバード・レッドフォード
    フェイ・ダナウェー
    クリフ・ロバートソン
    マックス・フォン・シドー
    ジョン・ハウスマン
    アディソン・パウエル
    ウォルター・マッギン
    ティナ・チェン
    マイケル・ケーン

1975年度アカデミー編集賞 ノミネート