13デイズ(2000年アメリカ)

Thirteen Days

ケビン・コスナーは91年に『JFK』に出演していただけあってか、
やっぱりケネディ大統領について、もの凄く興味があって、当時のことを伝えたいという想いが強いのでしょうね。

やはり87年に『追いつめられて』でコンビを組んだロジャー・ドナルドソンに監督を任せ、
自身は主演と兼ねて、製作にも加わったケビン・コスナーがケネディ大統領の大統領補佐官を演じ、
キューバ危機に関わるホワイトハウス内での動きや軍部と大統領側の駆け引きを描いたポリティカル・ドラマ。

確かに力作だし、面白い。事実と異なる内容も含まれるために、国防総省からは撮影協力を
拒否されたらしいのですが、あくまで映画として面白いとは思う。ただ、『JFK』ほどのポリシーは感じないかな。
やっぱり、こういう映画を撮らせるとオリバー・ストーンって、スゴいなぁとあらためて実感させられる作品でもあった。

おそらく本作のロジャー・ドナルドソンなりに、ケネディ大統領を演じたブルース・グリーンウッドが
実際のケネディにソックリだという想いで撮ったのだろうから、ファースト・カットなどをこれ見よがしに
彼をフレームインさせているように見えましたけどね...まぁ、似てはいるけど、驚愕するほどソックリでもない(苦笑)。
個人的には「もっとフツーに撮ればいいの」と思えてならなかったのですが、まぁ・・・そうもいかなかったのでしょうね。

映画として、ケネディ大統領にどれだけ似せるかが重要となってしまうと、
異様に自分たちでハードルを上げてしまうような気がして、しかも映画の本質を見失ってしまうので、
個人的にはそこに固執するのは賛同できないのですが、それを差し引いても、驚くほど似ているというほどではない。

劇場公開当時、アメリカのプロパガンダ映画ではないかと囁かれていましたけど、
僕はそこまでプロパガンダ映画だとは思わなかった。アメリカの正義を論じた映画というよりも、
核戦争勃発のピンチに立たされた国のリーダーが、自分の決断でどうとでもなってしまうような厳しい決断を
迫られる中で、どう周囲を説き伏せて、どう交渉して、どう考えを巡らせたかにフォーカスしているように見えました。

特にこのキューバ危機のときは、ホワイトハウスで難しい選択を迫られていたことは間違いない。

映画で描かれていた通り、軍部は“ピッグス湾事件”でやられた借りを返したいと、
軍事行動を希望する圧力があっただろうし、民意も積極施策を支持するように戦争に傾く意見も強かったと思う。
一方で、アメリカが引き金を引けば、いつでも第三次世界大戦に突入し、最悪な核戦争に発展することは明白で、
そうなれば世界最大の領土面積を誇る旧ソ連は勿論のこと、アメリカ合衆国でさえ多数の犠牲者を出す、
歴史に残る...ひょっとすると、地球に大ダメージを与えうるトンデモない戦争に発展していたかもしれません。

まぁ、本作の撮影協力に国防総省が否定的だったのは、あまりに軍部が強硬かつ好戦的に
描かれ過ぎているのが事実と異なると主張していたようですが、“キューバ危機”当時の情勢を思えば、
実際にこういったやり取りは無かったにしろ、国防総省や軍に好戦的な司令官はいたのではないかと察しますが・・・。
(それもあって、本作自体もノンフィクションの映画化と謳っているわけではありません...)

当然、米軍が抱える兵士たちの命も多く失われ、民間人も多く巻き込まれる戦争になってしまう。
しかも旧ソ連とは、正式にコミュニケーションをとる手段を失っていて、旧ソ連の内情も正確に把握できていなかった。

これでは、ケネディ大統領率いる当時のホワイトハウスのチームでも、打てる手立ては少なかったはずだ。
何をするにでも確証が持てず、大きなリスクが伴うという、あまりに過酷な状況でタイムリミットも迫っている。
アメリカ国民だけではなく、世界中の人々の命に関わる重大な局面であったはずで、これはとても大きな決断でした。
この“キューバ危機”の回避までの緊張感溢れる、政治的攻防を描くという意味では、映画化に最適な内容ですね。
だからこそ、ケビン・コスナーも固執していたのかもしれませんが、その熱意が本作を支えていることは確かなこと。

2時間を大きく越える上映時間で見応えは十分ですが、もう少し訴求するものが欲しかったなぁ。
それは、やっぱり大統領補佐官としてケネディの仕事を支え続けた立場としての、ディグニティ(威厳)をもっと
しっかりと描いて欲しかった。家庭人としての側面と、職業人としての側面を織り交ぜて描くのは分かるけど、
僕はもっと大統領補佐官としての苦悩、仲間内での意見の対立からまとめるところまで、どう折り合いをつけて、
“キューバ危機”を回避した後に、どんな感情が押し寄せてきたのかを、力強く描いて欲しかったと思うのです。

だって、それでこそ影で主役を支える脇役でありながらも、心揺さぶる存在になるわけでしょう。
最終的に決断を下して称賛されるのは合衆国大統領であれど、その決断に間違いなく関わったのだから。

ケネディ大統領を演じたブルース・グリーンウッドは「驚愕するほどソックリではない」と前述しましたが、
この意見に変わりはありませんが、マクナマラ長官を演じたディラン・ベイカーは確かにソックリで驚いた。
元々が似ていたのだろうけど、もうチョット太って顔が大きくなれば、完全にマクナマラだったのではないか・・・(笑)。

このマクナマラは本作では比較的穏健的な思想であるように描かれていますが、
実際には軍事力は強化、政治交渉は強硬な姿勢で臨むことを主張し続け、ベトナム戦争でも軍備強化に励んだ。
それは“キューバ危機”への対応で評価されたマクナマラの評価が揺らぐキッカケとなり、今でも賛否があります。

まぁ、ケネディの腹心のようなスタンスを貫いたので、口には出さなかったけど、
おそらくケネディへの複雑な想いはあっただろうと思う。ただ、ケネディ暗殺後、場合によっては大統領候補として、
表舞台で活躍した可能性はあっただろうし、それだけの力を持っていた政治家だったのではないかと思っています。
そう思って観ると、もう少しマクナマラにも注目して描いても良かったのかもしれませんね。本作はケネディ兄弟の
すれ違う部分と、一方で結束が強い姿を描くことに注力しているようで、マクナマラはそこまで大きく描かれていません。

本作はある意味で、91年の『JFK』の前日談のような内容でもある。
“キューバ危機”を回避しても、一方でベトナム内戦に米軍が関与した結果、いつしかベトナム戦争へと発展した。
これは見方によれば、ケネディ大統領がベトナムへの派兵を増強し、エスカレートさせたという見方もできなくはない。

そういった意味で、内外にある一定の不満を抱え、ケネディ大統領のことを快く思わなかった人々も多かったはず。
ケビン・コスナーとしてはダーク・サイドではなく、ケネディ大統領の苦悩を主張したかったのだろうけど、
本作で描かれる流れを見ると、ホワイトハウスに近いところに、それなりにケネディの敵がいたのではないかと感じる。

言ってしまえば、ケネディ大統領暗殺という衝撃的な出来事の序章だった・・・とも言えるのかもしれない。

軍部がどれだけ好戦的だったのか、事実は僕には分かりませんが、
それでも政治の根幹はなかなか変わるものではないので、軍と政府の間で様々な駆け引きはあったのだろう。
言えば、予算の取り合いでもあって、軍からすれば更なる予算をつけてもらうためには、実績が欲しいところ。
そこで不意打ちを喰らうような結果となった“ピッグス湾事件”を直近で経験していたがゆえに、名誉挽回の機会を
探っていたと言っても過言ではない気がする。政府としては軍と完全な対立構図になることは避けたいでしょう。

そうなれば、上手く軍の本意を引き出して、思うように政府を操ろうとする動きも重なったことでしょう。
本作、この辺の駆け引きももう少し肉薄して欲しいところでしたが、この辺が本作の限界だったのかもしれません。

上映時間2時間を大きく越える政治映画ですので、さすがに見応えは十分な仕上がりと言っていいですね。
こういうひたすら政治的駆け引きをメインに扱った映画が好きな人には、是非ともオススメしたい作品と言えます。

結果を残す為政者の裏には、有能な参謀や助言者がいるというセオリーをそのまま描いたような作品です。
実際、僕はリアルタイムでケネディ大統領を知っているわけではないので、あまり強いことは言えませんが、
奇しくも兄と同様に後に殺害された弟のロバート・ケネディや、本作の主人公ケネスが近くにいなかったら、
ここまで良い印象で語られていなかったようにも思います。上手く世論を味方につけることが出来ていたのでしょう。

前述したように、ケネディ大統領の時代に始まったベトナム戦争は後に泥沼化し、
アメリカの歴史に暗い影を落とすキッカケとなったし、時代的にも決して明るい話題だけではなかったはずだ。
それが悲劇のダラスでの暗殺によって、突然の最期を迎えたわけですから、今尚、根強く支持されています。

まぁ、そんなケネディ大統領がどう“キューバ危機”に対応したかを描いた良い作品なんだけど、
個人的には意味なく、カラー撮影や白黒撮影に切り替えたり、もう少し普通に撮って欲しかったとも思うんだけど。。。

(上映時間145分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロジャー・ドナルドソン
製作 ピーター・O・アーモンド
   アーミアン・バーンスタイン
   ケビン・コスナー
   ケビン・オドネル
原作 アーネスト・R・メイ
脚本 デビッド・セルフ
撮影 ロジャー・ディーキンス
音楽 コンラッド・ハフ
出演 ケビン・コスナー
   ブルース・グリーンウッド
   スティーブン・カルプ
   ディラン・ベイカー
   ルシンダ・ジェニー
   レン・キャリオー
   ジョン・フォスター
   ビル・スミトロビッチ
   ケイトリン・ワックス
   ピーター・ホワイト