サーティーン あの頃欲しかった愛のこと(2003年アメリカ)

Thirteen

うーーん、凄く良い映画なんだけど、これは観ていて、胸を締め付けられる内容だ。

女の子だけの話しではないと思うのですが、
誰もが多かれ少なかれ経験しているであろう思春期を迎え、チョットした背伸びしたい気持ちから、
学校の不良少女に憧れ、無理をするあまり、次から次へと悪行に手を染め、やがては精神的に崩壊し、
アルコールやドラッグに手を染め、家族関係に不和が生じ、学校でも留年を強いられる様子を描いたドラマ。

僕も自分で言うのは恥ずかしいけど(苦笑)、
いわゆる反抗期は確実にあったし、今と比べても、精神的に明らかに不安定だった時期はありました。

おそらく映画の中心人物であるトレイシーは13歳の女の子で学校の成績は悪くなかったはず。
そんな彼女も思春期を迎え、明らかに風貌が異なる早熟な同級生に憧れ、急激に荒れていきます。

僕には明らかに彼女たちの非行は、生き急いでいるとしか思えなくって、
こういう姿に憧れて、模倣してしまうというのは若さゆえの行動と言うことはできるのだけれども、
一方でここまで極端にいってしまうと、さすがに痛々しいもの以外の何物でもないようにしか思えないですね。
こういった彼女たちの姿を、実に感覚的に描くことにかけては、本作、とっても良く出来ていると思いますね。

この映画、特筆に値するのはイーヴィを演じたニッキー・リード。
本作は彼女自身、脚本を執筆しており、どうやら内容は彼女の自伝的なものらしい。
これが実話をモデルにしているというのも驚きですが、若干、14歳にしてここまでのシナリオを書けて、
実際に映画化を実現させるというのは、トンデモないエネルギーを要する仕事だと思うんですよね。

今や、ハリウッド期待の女優となったエヴァン・レイチェル・ウッドを輩出したことでも話題性がありますが、
本作での大きな収穫はどちらかと言えば、ニッキー・リードの多様な才気を示したことに価値があります。

仕上がった映画を観ても、とてもバランス感覚に優れ、
時折、見せる感情的な演出と対照的に、若干、冷めたような視線を感じさせるシーンも絶妙。
個人的にはインディーズ気取りな映像の作り方はあまり好きになれませんが、
それでも映画の雰囲気を壊すような致命傷にはなっていないあたりが、さすがですね。

この辺は他作品でプロダクション・デザインを担当してきた、
キャサリン・ハードウィックがメガホンを取ったことの特徴なのかもしれませんね。
本作で一気に注目されたキャサリン・ハードウィックは、今やハリウッドに於いても期待の女流監督の一人です。

日本でも、約20年前に校内暴力が全盛期を迎え、
例えば『積木くずし』などの家庭内暴力や校内暴力を描いたドラマが流行しましたが、
本作は言ってしまえば、その手のドラマのアメリカ版であり、21世紀版とも言えます。
この辺はニッキー・リードの実体験がモデルになっていることが良い方向に働いた証拠でしょう。

まぁおおらかに言えば、トレイシーのドラマは“若気の至り”なのかもしれませんが、
後になって“若気の至り”と言えるのは、取り返しのつかない局面には追い込まれないことだ。
さすがに取り返しのつかない局面に追いやられては、“若気の至り”と振り返れないですからね。

誰もが人生を立て直すチャンスは与えられるものだと僕は信じていますが、
取り返しのつかない状況に陥ってしまっては、そのチャンスすら与えられない可能性だってあります。

そういう意味でトレイシーの未来を、やや抽象的に描いてしまったのはマイナスかな。
彼女がどのように立て直していくのか、そして彼女にどのような未来があるのか、少しは触れて欲しかった。
この辺はキャサリン・ハードウィックが、もう少しビジョンを明確にして映画を撮って欲しかったですね。
この抽象的なラストでは、さすがにエピソードの羅列にすぎず、訴求しない映画になってしまうんですよね。

まぁ家庭環境に触れるという意味では、
確かにトレイシーの家庭環境も決して恵まれているとは言い切れない。
家族を守るという強い気持ちを持ち、娘を愛していることは明白な母親であれど、
どことなく精神的な甘さがあることを否めず、娘の非行に疑問を抱くことすらありません。
厳しい言い方をすれば、娘のごく小さな変化も見逃さなければ、トレイシーはここまで苦しまずに
済んだかもしれないし、当然、トレイシーの家族もここまで悩まずに済んだかもしれません。

これは持論になっちゃうかもしれないんだけど、
やっぱり環境の影響力って強いと思うんですよね。トレイシーなんか、その典型だと思います。

但し、そういう意味で唯一、この映画に欠けているのは、
トレイシーと彼女の母親との心の葛藤が弱いんですよねぇ。もっと力強く描いて欲しかったですね。
チョット、ブッ飛んだ母親という設定というだけで終わってしまったようで、これはかなり勿体ないですね。

こういう多様な難しさは、さすがにニッキー・リードには難しかったのかもしれませんね。
この辺はキャサリン・ハードウィックやホリー・ハンターがもっとケアしてあげるべき点だったと思いますね。
せっかく素晴らしい土台の揃った映画なのですから、ただ荒れ果てた心を描いただけでは勿体なかったなぁ。

それと、トレイシーの知り合いで、
体格のいい青年を演じたキップ・パルデューが、イーヴィに誘惑される役で登場してきましたが、
最近はトンとスクリーンで観なくなりましたねぇ。一時期はハリウッド期待の星として、
『タンタンズを忘れない』や『ドリヴン』などに出演して、日本でも注目されていたのになぁ・・・。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[R−15]

監督 キャサリン・ハードウィック
製作 ジェフリー・レヴィ=ヒント
    マイケル・ロンドン
脚本 キャサリン・ハードウィック
    ニッキー・リード
撮影 エリオット・デービス
音楽 マーク・マザースボウ
出演 ホリー・ハンター
    エヴァン・レイチェル・ウッド
    ニッキー・リード
    ジェレミー・シスト
    ブラディ・コーベット
    デボラ・カーラ・アンガー
    キップ・パルデュー
    サラ・クラーク

2003年度アカデミー助演女優賞(ホリー・ハンター) ノミネート
2003年度インディペンデント・スピリット賞新人俳優賞(ニッキー・リード) 受賞