ゼイリブ(1988年アメリカ)

They Live

ジョン・カーペンターによる強烈な社会風刺を交えたB級なカルトSF映画。

プロレスラーだったロディ・パイパーを主演に迎えて、失業者がやっとの想いで就いた工事現場の仕事で
知り合った黒人男性から集団生活するコミュニティを紹介されて、そこで奇妙な出来事に見舞われて、
手に入れたサングラスをすると、実はこの世の中が骸骨のようなエイリアンによって支配されている事実が見え、
なんとかして主人公が食い止めようと奮闘する姿を描きます。ジョン・カーペンターお得意の低予算映画ですね。

確かにチープな映画ではありますが、これはスゴく魅力的な映画だと思いました。
「何故こんな風に撮ってしまうのだろう・・・?」と疑問に思うシーンも無くはないのですが(苦笑)、
それでもジョン・カーペンターが彼なりの主義主張を彼のやりたいように表現した作品として、とても興味深い。

映画のラスト・シークエンスで、昨今の暴力的な映画やらコマーシャリズムを批判するメッセージとして、
「最近のジョン・カーペンターやジョージ・A・ロメロも、よく考えて欲しいですね」なんて、ギャグみたいな台詞があって、
ジョン・カーペンターも後年に物質主義や購買意欲のみを刈り取ろうとする企業のCMを批判したかったみたいな
ことを言ってますが、映画監督であるジョン・カーペンター自身が自身の作品をヒットさせることで映画監督として
活動できるということ自体が、なんとなく彼が批判する対象に彼自身があるような気がして、なんだか面白かった。

そんな中で搾取しに来る異星人を骸骨のような気味の悪い姿として映すこと自体が
ジョン・カーペンターなりの支配者たちへの強烈な嫌悪感を象徴しているようで、そして支配者からの洗脳に近い、
メッセージがサングラスをかけると見えるという発想自体がなんともチープですけど、実際に映画にすると面白い発想。

本作で特に有名なのは、映画の中盤にある約6分に渡るロディ・パイパーとキース・デビッドの
取っ組み合いのケンカのシーンでしょう。これは観ていて、僕にも強烈な違和感があるほど無駄に長かった(笑)。

ひょっとしたら、せっかくロディ・パイパーに出演してもらったので・・・という、ジョン・カーペンターなりの
サービス精神もあって、ああいうシーンを撮ったのかもしれませんが、バックドロップまで繰り出すプロレス技の連発で
一度倒れて意識を失ったのかと思いきや、何度も何度もお互いに立ち上がる、まるで『ロッキー』のような不屈の精神で
延々とケンカを続けるので、観ているこっちも根気よく観ないといけません。これが本作のハイライトだったかも。

このケンカも「いいからサングラスをかけて見てみろ!」という主人公と、「イヤだ!」と徹底拒否する
2人のオッサンが真剣に言い争いしながらケンカになったのですから、まるでギャグのような理由で大立ち回りになる。

それでいて、屈強なキース・デビッドと大立ち回りを演じたにも関わらず、
そのロディ・パイパーが助けを求めるように、テレビ局の女性の自宅に匿ってもらったところで、
実にアッサリとその女性から投げ飛ばされて、家の窓を突き破って、外へ放り出されるというのも完全にギャグですね。

もう、この映画は終始、そんな調子でジョン・カーペンターなりのブラック・ユーモアも溢れる作品になっている。

主人公が見つけた謎のサングラスを着用すると、前述したように支配者たちの正体が分かるのですが、
それ以上に、支配者たちから“排除”される対象となり、主人公も奪った武器を使って必死の抵抗を見せていて、
次々と警察官を含めて、民間人をも殺害していくのですが、これがシューティング・ゲームのような感覚で進んでいき、
ロディ・パイパー演じる主人公も思わず、「(このサングラスを着用すると)気分が高揚するぜ!」と本音を漏らしている。

何かアドレナリンが出るような作用があって、サングラスを着用すると主人公が無敵感を発揮する。
そのせいか、骸骨のようなエイリアンを前に通常では考えられないくらい、中傷めいた台詞を吐き散らすものだから、
観ているこっちも「何もそこまで言わなくても・・・」と思わなくもないのですが、これも含めてサングラスの不思議な力だ。

こういったジョン・カーペンターのデザイン造詣は、案外、時代に敏感だったことの表れではないかと思います。
映画のストーリーの下地は『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』のようなものでありながら、新しもの好きな感覚がある。
そして支配者を見たら、何も交渉せずに、とにかく撃ちまくって抹消してしまおうという主人公のラフさも僕は好きだな。
ひょっとしたら、この主人公の行動も含めて、ジョン・カーペンターなりの風刺が含まれる作品なのかもしれませんが。

そして、僕はこの映画で最も「オッ!」と思ったのは、映画の終盤にある支配者たち主催のパーティーから、
テレビ局をジャックして、発信する電波を妨害しようとする一連のシークエンスでして、これはかなりスゴいです。

ドンドン、ロケーションをワープさせていくのですが、一連の動作の連続性の中で“飛んで”いくのが素晴らしい。
最初は警察官たちに追い詰められた主人公らが、不思議な力を持つ腕時計を使って生じた“入口”から
支配者たちの基地に侵入し、そこでエイリアンたちが主催するパーティーの会場に辿り着く。驚くべきことに、
そこには支配者であるエイリアンたちに魂を売って、エイリアンが侵略する世の中に加担する人間も含まれていた。

そこから、カラクリの全てを見せてもらうということで、次々と基地内の施設を案内してもらって、
宇宙空間にある施設なのかと思いきや、実は基地の中からケーブルテレビ局につながっている流れで、
その一連の行動を連続的に一気に見せられる。僕はこのシークエンスに、ジョン・カーペンターの才気を感じました。
中身的にも普通のSF映画ではありませんが、この見せ方は並みのディレクターには思いつかないワザですよ。

だいたい、この映画の冒頭からして実に面白いフェイクのような流れがあって、
主人公が疑いの目を持って見る教会では、謎の電波ジャックをする連中がいて、主人公も懐疑的な目で見ていて、
彼らの主張が「我々は常に監視されているんだ」という主旨のことを延々と繰り返しているヤバい連中のように描き、
観客もほぼほぼ完全に、むしろこの教会の連中がカルト宗教のようなヤバさを持った連中なのかと錯覚してしまう。
でも、実はそうじゃなくって、実際にエイリアンの支配者によって強烈な監視社会になっているという皮肉である。

この一連の流れに、ジョン・カーペンターの才気が爆発しているように表現されていて、僕は素直にスゴいと思った。

ただ、正直に言うと、ジョン・カーペンターの映画らしく彼の主義主張がハッキリとしているのですが、
少々回りクドいというか...説教クサい映画だなぁという印象があった。ジョン・カーペンター自身もあくまで当時の
社会情勢を風刺したかっただけと説明しているようですが、彼の主義主張に同調する人なら、一事が万事のように
本作で描いたことを、今の世の中にも通じると流用する人はいるでしょうね。それくらい、影響力は強い内容だと思う。

陰謀論に傾倒しがちな人なら、これはハマる可能性がある映画だと思いますけど、
ジョン・カーペンターもそこまで偏った思想の人というわけではなさそうなので、本来的に彼が描きたかったことは
どちらかの体制にドップリと浸かって傾倒していくこと自体を肯定しているわけではなさそうなので、
この映画の主人公のような姿も、皮肉の対象だったのではないかと思う。前述したようにサングラスをかけることで
主人公は高揚することを認めているので、見方によっては主人公がサングラスによって操られているわけですね。

自分を捕らえに来たと思われる支配者たちを、片っ端から殺していくこと自体、
サングラスをかける前の主人公からは、想像もつかない蛮行なわけで、ある意味では「やらされている」わけです。

この辺のバランスのとり方は、正直言って、あんまり上手くないなぁと僕は感じましたね。
こういうところもキッチリと上手く出来れば、ジョン・カーペンターはもっと評価を上げられたのでしょうが、
おそらく本人にとっては、そんなことどうでもいいのでしょう。でも、僕はもっと器用なディレクターなのではないかと
思っているだけに、なんだか逆に勿体なく感じちゃうんですよね。実はSF以外のジャンルとか、出来そうと思えるので。

それにしても、これは80年代だったから成立したお話しだったのかもしれません。
当時はテレビがあらゆるメディアの中でもダントツの影響力と波及力を持っていましたし、本作で登場したような
ケーブルテレビ局も数多く設立された時代でもありました。ところが30年以上の年月が経過すれば時代も変わり、
今となってはテレビに変わって、ネットのコミュニティが強い勢力になったので、電波ジャックではどうにもならない。

いや、むしろSNSなどを使えばテレビよりも簡単に人々を操ることができるのかもしれない。
まぁ・・・結論ありきで報道するような、世論操作(?)とも思える報道番組もありますので、テレビが衰退することは
個人的にはあまり不思議ではないのですが、それでも今まで以上にネットから得る情報を見極める力は重要です。

そういったリテラシーの重要性については、既に何年も前から喚起されてはいますが、
これからは今まで以上に重要視される時代になるでしょう。今度はこういうことをテーマに映画にできそうですね。

(上映時間94分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・カーペンター
製作 ラリー・J・フランコ
原作 レイ・ネルソン
脚本 フランク・アーミテイジ
   ジョン・カーペンター
撮影 ゲーリー・B・キッブ
音楽 ジョン・カーペンター
   アラン・ハワース
出演 ロディ・パイパー
   キース・デビッド
   メグ・フォスター
   ジョージ・“バック”・フラワー
   ピーター・ジェイソン
   レイモン・サン・ジャック