テルマエ・ロマエ(2012年日本)

古代から入浴に関する文化を築いていたと言われるローマ人と、
大衆浴場の文化が未だに続いている現代の日本人が、風呂を介してつながり合う様子を描いた奇想天外なコメディ。

劇場公開当時、大きな話題となってヒットしていましたので、僕も結構期待していました。
まぁ・・・決してつまらない映画というわけではないのだけれども、その期待を超えるものではなかったかな。。。

僕が勝手に期待していた内容とチョット違ったということもあるのですが、
風呂を通して、カルチャーギャップから笑いをとる映画の前半は面白いのですが、後半に“盛り下がる”のが残念。
技術が進展しているのでカルチャーギャップがあるのは当たり前なのですが、古くからの銭湯にあるホスピタリティ、
単なる入浴を通り越して、様々なオプションを付けることができる家庭用ユニットバスなどを知ったら、それは驚くだろう。

そして、映画の前半でも描かれていますが、日本が誇る偉大な発明とも言える「ウォシュレット」に
関するエピソードは面白く、海外の人が見たら何なのか分からず混乱するらしいが、いざ使ってしまうと、
凄く気に入る人も多くいて、母国のトイレにシャワートイレを“お土産”として設置したいという人も少なくないと聞く。

もっとも、電源が違ったりして設置そのものが難しかったり、設置できてもメンテナンスできる人が
いなかったりして、異国の地でシャワートイレを維持管理することは難しいし、そもそものトイレ文化も異なるので、
誰しも気に入るわけではないとのことですが、海外の水道水は硬水であることが多くノズルがスケールで詰まり、
すぐに故障したり、そもそもトイレを衛生的に使う習慣が無かったりして、色々と障害が多いようですね。

古代ローマ人が知れば、これは強烈なカルチャーギャップであること間違いなしで、
それらを古代ローマに持ち帰って、長きに渡る闘いの日々に疲弊した戦士たちを癒すというストーリー。

しかも、日本映画としては異例なことに、イタリアの映画会社の巨大スタジオである“チネチッタ”で
ロケ撮影を敢行し、贅沢にもCGを使いまくったおかげで、凄く臨場感溢れる気合の入ったシーン撮影ができている。

とっても良い“土台”を持った映画だと思うので、素直にスゴいなぁと思ったのだけれども、
カルチャーギャップで笑わせてくれていた映画の前半と比較すると、後半は完全にトーンダウンしている。
個人的には最後の最後までコメディで押し通してしまった方が、映画はずっと魅力的になったと思うのですよね。

映画の終盤は主人公が、現代の日本の風呂の発想を採り入れて、
古代ローマに大浴場を建設して、軍部の評価を得るというエピソードを淡々と描いてしまったので、
喜劇を忘れてしまって、実直なドラマになってしまった感じだ。最後まで、もっとドタバタさせても良かったなぁ。

それから、タイムスリップするシーンはもっと工夫して欲しかった。
映画の前半から描かれる、謎の指揮者のような服装のオッサンがオペラを猛々しく歌い上げるショットで、
なんとかタイムスリップするのを表現することにしたようですが、そもそもこの光景が僕にはミスマッチに見えたし、
映画の終盤に差し掛かると、このタイムスリップして時空をワープする描写でも、悪い意味でいい加減になっていく。

せっかく、古代ローマ人を表現できる阿部 寛、北村 一輝、市村 正親とキャスティングし、
賛否ありながらも、ヒロインに上戸 彩という日本映画界で出来る至上のキャスティングを実現させながら、
このシーン処理のチープさは、なんとも勿体ない。映画の後半はどこかテレビドラマのノリのように見えました。

古代ローマ人が現代の風呂を見れば、それは勿論、大きなショックを受けることでしょう。
ましてや現代の日本ですから、お国柄も違えば時代も違う。このギャップは凄まじく大きなもので、埋めがたいでしょう。

海外だとスパですが、日本の温泉や銭湯は憩い場という色合いが強いです。
日本でもスパは増えていますけど、僕はやっぱり日本スタイルの風呂が好きですね。温泉なら尚、最高ですけどね。
あんまり汚かったり、簡素過ぎる公衆浴場は苦手なのですが、実は結構、日帰り温泉が好きなんですよね。

いくら古代ローマでスパが愛されていたからとは言え、さすがに主人公ルシウスが未来から持ち込んだ
銭湯や温泉のホスピタリティをローマで導入し評判になり、皇帝にまで好かれるという展開は強引に見えた。
いっそのこと、ルシウスも剣士として凄腕であるとか、腕っぷしが強い男であって、この時代を生き抜く力を持っていた、
という設定の方が皇帝に近づける存在である説得力があったように思います。いくら旨かったからと言っても、
フルーツ牛乳をこの時代にどうやって作ったのよ・・・とツッコミの一つでも入れたくなるくらい、かなりの力技に感じた。

本来であれば、コメディ映画なのでそんな細かいところなど、どうでもいいことなので
ツッコミなんか入れること自体がナンセンスだけど、主人公のルシウス自体が胡散クサいキャラクターに
見えてはダメだと思うんですよね。奇想天外なコメディ映画の主人公だから、尚更のことだと思うのです。
(まぁ・・・原作のコミックがあるので、映画で勝手に大きな脚色を加えるわけにもいかないのでしょうがね...)

まぁ、コメディ映画のセオリーとして「真面目にふざける」という鉄則を守ろうとしているのは分かります。
だからこそ、この単純なカルチャーギャップ・コメディが面白くなるわけで、この選択自体は間違いではないと思う。
ただ、所々作りが甘いなぁと感じるのと、テレビドラマの延長線みたいなノリに見えてしまったのは残念ですね。
劇場公開当時、本作は大ヒットしたおかげで続編も製作されていますが、僕にはそこまでの魅力が感じ取れなかった。

それから、ヒロインのさつきを演じた上戸 彩は人気女優なので注目度も高い。
映画の終盤でさつきがルシウスに惹かれていくニュアンスで描かれるのですが、これがどうにも分かりにくい。
もう少しハッキリとロマンスを描いた方が良かったと思う。古代ローマ史を勉強していただけあって、
ルシウスにすぐに興味を持つことは明白ですが、この2人が何故惹かれ合ったのかは、もっと明確に描いて欲しい。
これは映画の方向性を決める、とても大事な要素の一つだったと思うので、しっかりと映画の“柱”にして欲しかった。

原作のコミックも恥ずかしながら読んでいませんが、
単純にストーリーとしては凄く面白いもので、とても着想点がユニークで魅力的なものなのでしょう。

問題はそれをどう面白く映画化するかという観点で、本作を撮れたのか?ということです。
そのためには僕はある程度の脚色が必要だったと思うし、原作を尊重すべき点は尊重すべきだったと思う。
映画の前半のコメディ・パートは快調で面白かっただけに、後半、体よくまとまってしまったのが残念。
この辺は映画の作り手が、原作コミック以上のものを吹き込めなかった象徴のように感じられてならないのです。

以前は、テレビドラマの延長線のような映画が邦画は結構多くて、
90年代はフジテレビはじめとする、テレビドラマ全盛期だったので特に悪い意味で目立っていたと思います。
勿論、その中にも良い出来の映画はあったとは思いますが、全く楽しめない映画も多かったというのが本音です。

その多くが、テレビドラマとの違いがよく分からない、映画にする意味が感じ取れないものでした。

そこにきて、本作は映画のコンセプトはあって、アプローチとしてはしっかりしたものでした。
中身的にはテレビドラマのノリがかなり残っているので、感心はしませんが、以前よりはかなり良くなったとは思います。
以前は本作ほど楽しませてくれたこの手の邦画って、ほとんど無かったですからね。ライトな層を狙ったのでしょうけど。

そういう意味では、もう...あと一押しだと思うんだよなぁ。
その一押しがあれば、もっと確率高く良質な映画が数多く生まれてくると思います。それには企画に溺れないことです。

風呂をテーマにした映画や漫画って珍しいですけど、本作を観ると、あらためて日本の風呂文化の凄みを感じます。
そもそも公衆浴場や大浴場を備えたシティホテルの数などは、世界的に見ても群を抜いて多いことでしょう。
東京とかでも、新しくオープンするシティホテルの多くが大浴場があるので、海外の方にも人気があるのでしょう。

だからこそ、先駆的な日本映画として本作にはもっと頑張って欲しかった。。。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 武内 英樹
製作 亀山 千広
   市川 南
   寺田 篤
   浜村 弘一
原作 ヤマザキマリ
脚本 武藤 将吾
撮影 川越 一成
美術 原田 満生
編集 松尾 浩
音楽 住友 紀人
出演 阿部 寛
   上戸 彩
   北村 一輝
   竹内 力
   宍戸 開
   勝矢
   キムラ 緑子
   笹野 高史
   市村 正親
   内田 春菊