テルマ&ルイーズ(1991年アメリカ)
Thelma & Louise
これはリドリー・スコットが撮った“90年代のアメリカン・ニューシネマ”と評された作品だ。
(おそらくリドリー・スコット自身には、まったくそんなつもりは無かったのだろうけど・・・)
田舎町の食堂でウェートレスとして働くルイーズが、友達で専業主婦のテルマを
「一緒に友人の所有する山小屋へ行こう!」とドライブに誘い出すところから、映画が始まり動き出します。
途中で立ち寄ったドライブインで、地元客が多く酒を飲みに来ていて、見知らぬ男と酒を飲みながら
踊り始めて盛り上がり過ぎたテルマは、外へ連れ出されて危うく強姦されかけるところをルイーズが救います。
そこから“お尋ね者”になったテルマとルイーズは逃避行に出る決意をし、彼女たちを心配しながら追跡する
刑事も絡みつつ、次第に彼女たちが“吹っ切れて”いく様子を描きます。確かに結構、突き抜けた内容ではあります。
リドリー・スコットにしては珍しく(?)、女性を中心に撮った作品でして、
ルイーズを演じたスーザン・サランドンにしても、テルマを演じたジーナ・デービスにしても、どちらも輝いていて、
しっかりキャラクターが磨かれているのも好感が持てる。これは確かに2人とも主演女優賞にノミネートされるわけだ。
ただ、どうでもいい話しではありますけど・・・アメリカン・ニューシネマっぽさは僕はあまり感じませんでしたけどね。
コンプライアンス意識の高い現代社会に於いては、こういう物語は理解されにくいかもしれません。
ある意味ではアウトローというか、最初はそれなりに理由のあったのですが・・・(それでも、過剰防衛だけど・・・)、
次第に歯車が狂ったかのように雪だるま式に犯罪行為を積み重ねてしまう。この辺は賛否が分かれるところだろう。
冷静な目で見ると、ルイーズは過去のトラウマと化した悲劇的な出来事が癒されていないのは分かるけど、
だからと言って、自分が犯罪者になる必要はないと思えちゃうし、抑圧された夫婦生活から解放されたテルマは
あまりに浮かれ過ぎたようでハシャぎまくって、明らかにいかがわしい目でしか彼女を観ていない“野獣”の餌食になる。
それでも犯罪の被害者になること自体、許されないことですが、ルイーズにも警戒心は無さそう。
その警戒心の無さが、結局は映画の中盤に出会って意気投合する、若いJDという男との肉欲に溺れた結果、
やっぱり彼女も痛い目に遭ってしまう。皮肉なことに、これもまた彼女たちをよりアウトローな方向へと誘ってしまう。
このあたりは、彼女たちを追う刑事を演じたハーベイ・カイテルが言っていた通り、
途中で幾度となく、彼女たちが後戻りするタイミングはあったのですが、自らそれを選択せずに逃避行を続ける。
こういった刹那的な行動こそが、アメリカン・ニューシネマっぽいという意見も分からなくはないのですが、
ただ、その割りにはラストシーンを明るくPOPに描き過ぎですね。もっと悲壮感がないと、70年代という感じじゃない。
つまり、もっと不条理なことを積み重ねて、その不条理さを解消させないままモヤモヤしたラストにしないと・・・(笑)。
まぁ・・・おそらくリドリー・スコットもそんなことは意識して映画を撮っていないだろうし、単純に女性同士の友情を
メインに映画を構成したかったのでしょう。だからと言って、フェミニズムな傾向を見せる映画でもないというのも特徴。
とは言え、一つだけ言えるのは、古い女性観に対する訣別は本作を観ていると感じますね。
そもそも過剰とも言えるくらい、ルイーズがテルマをレイプしようとする男に仕掛ける仕打ちは
それまでの被害者として泣き寝入りをしたり、まったく悪びれることなく反省しない相手に対して容赦しないという、
女性としての強い姿勢を若干ステレオタイプに描いたとも言えると思うし、それまで抑圧された専業主婦生活が
当たり前だと、ある意味では“調教”されてきたテルマが外泊するということは、固定観念化された主婦との訣別だ。
劇場公開当時も映画賞に多くノミネートされた割りには、そこまで受賞には至らなかったということが
そういった強い女性像を打ち立てる映画に対する、手厳しい評論家連中の見方もあったのでは?と邪推してしまう。
ニューシネマっぽいとは感じないけど、僕はそこまで悪い出来の映画ではないと思うし、
これだけ映画賞にノミネートされたのであれば、受賞していても不思議ではないように感じてもいたのですが、
そこまでの評価に至らなかったのは、思想的なものも影響したのかと思っちゃう。まぁ、それが全てではないけれども。
まぁ、テルマとルイーズの逃避行が中心になってしまうので、どうしても女性的な視点に偏りがちなのですが、
そこはハーベイ・カイテル演じる刑事の視点を交えることで、偏り過ぎないように全体のバランスは上手くとっている。
この辺はカーリー・クォーリの脚本が評価された所以でもあるのだろうけど、本作はべつ脚本ありきの映画でもない。
やっぱり、そこはさすがはリドリー・スコットの監督作品。田舎道を疾走する車を捉えるショットなど、
ロケーションの良さも相まって、実に素晴らしい撮影で見せてくれる。終盤にも、テルマとルイーズに幾度となく
卑猥な言葉をかけて挑発してきたトレーラーの運転士に仕返しするためにと、テルマとルイーズがトレーラーを止め、
ドライバーを怒らせた挙句、銃撃しまくってトレーラーごと大爆発してしまうというシーンも大迫力で、しかも楽天的だ。
この吹っ切れ方は、なんとなくコメディ的なニュアンスも内包しているような感じに見えてユニークだ。
だからこそ、この映画のラストには悲壮感漂うものもなければ、投げやりになったような「あとはどうとでもなれ!」
という感覚ではなく、あくまで彼女たちはと次のステージを目指して旅立った・・・という雰囲気でPOPなラストだ。
そりゃ、倫理観が強く働く人にとって観れば、自由を謳歌するためにと自分勝手に積み重ねた罪に対して、
何一つ反省することも罰を受けることなく、アクセルを吹かし続けることに憤りを感じる人もいるでしょうけどね・・・。
ただ、僕はそういうことよりも、あくまで一貫して最初っから最後までリドリー・スコットが一貫して描き続けた、
その一貫性こそが本作を支えていて、POPなラストにまでアクセル全開で突き進む姿に爽快感すら覚えましたね。
ただ、ところどころ粗い感じで描いてしまっている部分もあります。この辺は反省材料だったかと思う。
例えば映画の後半にある、砂漠地帯で警察官に見つかって職務質問を受けるシーンは、もっと丁寧に描いて欲しい。
ここはテルマも大胆な行動に出るわけですが、もうホントに大ピンチ。その決心をつける瞬間は描いて欲しかった。
それと同様にルイーズの腐れ縁のカレシを演じたマイケル・マドセンも、名バイプレイヤーなだけあって、良い存在感。
悲惨な過去を持つルイーズの最大の理解者であり、風貌や雰囲気とはまるで異なり、彼女たちを優しく見守る。
おそらく彼もまた、テルマとルイーズが破滅的な方向へと向かっていることは分かってただろうし、予想もしていたはず。
そんな彼が唯一説得できるモーテルでのシーン。ここはもっと大切に描いて欲しかった。表層的な会話で勿体ない。
話さずとも分かり合える間柄とでも言いたいのかもしれませんが、
テルマとJDのアバンチュールをしつこく挟んでくる必要性は感じなかったし、むしろルイーズと彼を描いて欲しかった。
彼女たちが後戻りできる最大のチャンスはあそこだったはずで、それを放棄したのだから、とても重要なシーンでした。
決して本作は悪い出来ではないし、とても良い作品だとは思うのですが、
どうしてもリドリー・スコットが突き抜けきれなかったのは、こういった大事なポイントを割愛したことにあると思う。
ひょっとしたら撮影はしていて、編集段階で外したのかもしれませんがね。まぁ、脚本に無かったのかもしれませんが。
本作では割りとハッキリと、男性と女性という性別で分けて登場人物を描いていますけど、
現代で同じ題材で映画を撮るとしたら、これも性別分けで描くことは許されないのかなぁ?って思っちゃったりします。
夜ごとドライブインで“獲物”を狙う男、テルマを家の中に閉じ込めて奴隷のように扱う亭主、卑猥な言葉をかける男、
いずれもク●みたいな男たちばかりで、少々類型的な描き方には見えますが、●ズっぷりをやっつける爽快感が良い。
個人的にはこれくらいハッキリさせた方が、本作のPOPさには合っていたと思うし、一貫していて良いと思う。
正直、よく言われる通り、本作は体感するための映画であって、理屈で考える映画ではないと思う。
真面目に考えると、テルマとルイーズの発想と行動は反社会的であって否定的な意見が集まり易いと思います。
ですから、あまり構えて理屈で考えずに観た方が楽しめるでしょう。抑圧された生活や過去からの解放がテーマです。
リドリー・スコットの監督作品としては異色な題材ではありますが、彼もこういうのを観ると器用な人だと実感しますね。
彼なりにコミカルな要素も交えて描きたかったのでしょうし、当時の彼にとっては新たなチャレンジだったのかも。
そう思うと、このチャレンジは成功と言っていいでしょうし、後々の監督作品にもこの経験が生きたんじゃないですかね。
それは03年の『マッチスティック・メン』なんかは観ると、少しばかり感じるところでもあります。
(上映時間128分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 リドリー・スコット
製作 リドリー・スコット
ミミ・ポーク
脚本 カーリー・クォーリ
撮影 エイドリアン・ビドル
音楽 ハンス・ジマー
出演 スーザン・サランドン
ジーナ・デービス
マイケル・マドセン
ハーベイ・カイテル
ブラッド・ピット
クリストファー・マクドナルド
スティーブン・トボロウスキー
ティモシー・カーハート
1991年度アカデミー主演女優賞(ジーナ・デービス) ノミネート
1991年度アカデミー主演女優賞(スーザン・サランドン) ノミネート
1991年度アカデミー監督賞(リドリー・スコット) ノミネート
1991年度アカデミーオリジナル脚本賞(カーリー・クォーリ) 受賞
1991年度アカデミー撮影賞(エイドリアン・ビドル) ノミネート
1991年度アカデミー編集賞 ノミネート
1991年度全米映画批評家協会賞助演男優賞(ハーベイ・カイテル) 受賞
1991年度ゴールデン・グローブ賞脚本賞(カーリー・クォーリ) 受賞