裏切り者(2000年アメリカ)

The Yards

まずまずの出来なのですが、映画に決定打が無いですね。

自動車泥棒の現行犯で1年以上も服役していた青年レオが出所し、
実家に戻ってくるところから、映画はスタートします。彼はかつて愛し合った従妹と、
彼女の恋人であり、かつての悪友の一人であるウィリーの近くで再起することを決心します。

そんなレオを地下鉄車両点検所を経営する、叔父のフランクは救いの手を差し伸べる気でいましたが、
レオの出所に目を付け、レオを再び仲間に入れる気でいたウィリーの誘いにより、レオはウィリーの仕事を
手伝うことになるのですが、ウィリーの仕事は夜間に車両基地に侵入し、地下鉄に危害を加えることでした。

そうして、ウィリーはライバル会社の修理業務を信用を失わせ、
多くの修繕業務の入札でフランクの会社が指名されるように、裏工作を行っていたのでした。

もっとも、フランクもウィリーの妨害工作を知っていたわけで、
区長をも買収し、仲間内で汚職にまみれた実態であり、裏社会の実力者だったのです。

ところがこのフランクという男、なかなか難しい部分があって、
裏社会の実力者であるにも関わらず、レオに対しては真っ当な仕事に就かせ、
一切の不正行為に関与させたくはなかったようで、これが本作の味わいをより深くしていますね。
(事実、フランクはレオがウィリーの仕事を手伝うことを、渋々、承諾したというシーンがある)

監督は94年の『リトル・オデッサ』のジェームズ・グレイ。
最近では珍しいぐらいに貴重な味わい深い作品と言っていいかと思いますが、
前述したコレといった、決定打が映画にあれば、ひじょうに優れた作品と言えましたね。

それと、映画のクライマックスでドドーン!と色々なゴタゴタしたエピソードが連発するのもマイナスかな。

さすがにこれだけ立て続けに大きな出来事を連発してしまうと、
映画が妙に忙しくなってしまい、必要以上に過剰に見えてしまい、本作のカラーに合わないですね。
それまではせっかく、落ち着いた良い感じでジェームズ・グレイが映画を撮っていただけに、
実に映画の最後の最後で勿体ないことをしたという印象が、どうしても拭えないですね。

映画のラストで、もっと落ち着いた展開にして、
レオが彼なりに精いっぱいの正義を貫き通して、フランクらに現実の厳しさを突きつけるような、
それを象徴する力強さが本作にあれば、もっと映画に説得力が生まれたと思うんですよね。

それにしても、今になって思えば、猛烈なまでに豪華なキャスティングでビックリですね(笑)。
マーク・ウォルバーグとホアキン・フェニックスの顔合わせというだけで当時、既に豪華だったのですが、
そこにヌードも辞さないシャーリーズ・セロン、そしてフランクを貫禄たっぷりにジェームズ・カーンが演じ、
レオの実母にエレン・バースティン、叔母にフェイ・ダナウェーと実力派俳優が勢揃いって感じで凄い。

ただ、ジェームズ・カーンをキャスティングできたのは良かったにしても、
汚職まみれの裏社会の実力者たちが、揃いも揃って、イタリアン・マフィアのような面構えしてるのが、
まるで『ゴッドファーザー』シリーズのようなイメージと被って、見るっからに悪そうなのがイマイチですね(笑)。

映画はサスペンス劇として展開しようと思えば、それはそれで成立したのですが、
本作はむしろドラマに固執したイメージがあって、これが良かったですね。
多様な解釈ができるドラマ描写によって、映画の見応えを演出できていて、ひじょうに良かったですね。

当然、昼間の撮影シーンもあるのですが、
徹底して裏社会に注目して映画を描いただけに、どことなくダークな感じがあるのが良いですね。
言わば、往年のフィルム・ノワールのような味わいがしっかりと映画に息づいていて、
逃亡するレオが母親の顔を見に、自宅のアパートへと戻ってくるシーンは全て良い。

やっぱりフィルム・ノワール的な作品にあっても、こういう優しさを感じるシーンは良いですね。
(やはりジェームズ・グレイが描く世界観って、本作のようなカラー・イメージなんでしょうね)

07年にジェームズ・グレイは『アンダーカヴァー』を発表しておりますが、
『アンダーカヴァー』でもマーク・ウォルバーグとホアキン・フェニックスをキャスティングしております。
ジェームズ・グレイはだいたい6年程度かけて1作品発表しているので、寡作の人ですね。
個人的にはもう少し数多く映画を撮って欲しいと思うのですが、なかなか良い企画にめぐり会えないのかな。

こういう社会派な映画って、そうイージーな題材ではないせいか、
数多く登場するわけではないので、貴重なだけに、もっと積極的な創作活動を期待しているのですが。。。

ちなみにこの映画の邦題である、“裏切り者”とは一体、誰のことを指しているのだろうか?

最初、僕はこの邦題に何の工夫も感じられず、
「なして、こんなに観る気の起こらない邦題を付けたんだろ?」と疑問に感じていたのですが、
いざ本編を観てみると、意外に深〜い邦題であることに気づき、的を得ていると言えるタイトルだ。

ただ、これってレオ、ウィリーのお互いにとって“裏切り者”なのでしょうね。
不特定的に使った表現なのかもしれませんが、原題を直訳するよりは、確かに良かったのかも・・・。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジェームズ・グレイ
製作 ニック・ウェクスラー
    ポール・ウェブスター
    ケリー・オレント
脚本 ジェームズ・グレイ
    マット・リーブス
撮影 ハリス・サヴィデス
音楽 ハワード・ショア
出演 マーク・ウォルバーグ
    ホアキン・フェニックス
    シャーリーズ・セロン
    ジェームズ・カーン
    エレン・バースティン
    フェイ・ダナウェー
    チャド・アーロン
    アンドリュー・ダヴォリ
    スティーブ・ローレンス

2000年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞助演男優賞(ホアキン・フェニックス) 受賞
2000年度サンディエゴ映画批評家協会賞特別賞(ホアキン・フェニックス) 受賞