007/ワールド・イズ・ノット・イナフ(1999年アメリカ)

The World Is Not Enough

石油パイプラインを巡って、英国諜報局員ボンドがテロリストと激しい攻防を展開するシリーズ第19弾。

実は本作、珍しく僕も高校生のときに映画館で観た一本でして、
映画館で観たときはそこそこ楽しめたのですが、今になってこうして、シリーズ通して観てみると、
そこまで良い出来の映画というわけではないのかなぁと思うのですが、冒頭のアクションは結構、良いですね。

監督はイギリス出身のマイケル・アプテッドで、
普段はアクション映画を専門に活動しているわけでないのですが、本作ではそこそこ頑張っていると思います。

この映画は何と言っても、エレクトラを演じたソフィー・マルソーですね。
なんか劇中、随分とサービス・ショットがあるのですが(笑)、ホントにキレイな女優さんですね。
ハリウッド映画ではなかなか見れない美貌って感じで、彼女をキャストできたのは大きかったと思いますねぇ。

もう一人のボンドガールとして、豊満なボディの若手原子力科学者に扮して、
デニース・リチャーズが出演しているのですが、彼女だけではさすがに物足りなさを感じずにはいられないだけに、
本作でソフィー・マルソーが表現した、欧州悪女としての魅力を活かした存在感は特筆に値しますね。

しかし、この映画でビックリなのは、そのエレクトラがメインのボンド・ガールであったことで、
それまでのシリーズのセオリーから言えば、メインのボンド・ガールが最後にボンドとイチャイチャして、
映画が終わるという流れだったのに、本作ではクライマックスがエレクトラとの対決になっていて、
結局、デニース・リチャーズ演じる女性科学者とボンドがイチャイチャするという流れになっています。
だけど本編観たら、すぐに気づくとは思うのですが、この映画のメインのボンド・ガールは、
明らかにデニース・リチャーズではなく、ソフィー・マルソーであり、この展開はとても斬新だと思う。

特にエレクトラがボンドの腕を拘束して、ボンドを椅子に張り付け、
ボンドを拷問しながら、エレクトラがボンドにまたがるシーンは、世の男性ファンの期待に応えている(笑)。

が、それゆえか、痛みを感じないテロリストであるレナードを演じたロバート・カーライルの存在感が弱い。
これは映画の構造から言えば、致命的なミステイクであったと言ってもよく、できることであれば、
終盤の攻防ではレナードにはもっとしつこくボンドに襲いかかるなど、工夫が必要だったと思う。

当初、レナード役にはゲイリー・オールドマンがオファーされていたらしいのですが、
これは演じたロバート・カーライルが悪いということではなく、演出上の問題だと思います。
これぐらいの配慮は、マイケル・アプテッドであればケアできたはずだし、ケアしなければいけない点だと思う。

それと、もう一点。
エレクトラがレナードに誘拐されて、エレクトラが悪事に目覚めてしまう過去を
ボンドはストックホルム症候群と指摘しますが、エレクトラが誘拐される経緯について描かれないので、
ホントにエレクトラがストックホルム症候群に該当するのか、僕にはよく分からない。

確かに、ストックホルム症候群について語られた映画というのは何本かありましたが、
それをメインのボンド・ガールに適用するという発想が、新しい流れなのかもしれませんね。

本作で忘れてはならないのが、長年、Qを演じてボンドに飛び道具を提供し続けたデスモンド・リュウェリン。
風貌的にもずっと変わらないので、年齢不詳なところがありましたが、本作で降板となってしまいます。
第2作の『007/ロシアより愛をこめて』から出演しておりますから、シリーズ通して愛される存在であったことは
間違いないのですが、本作で勇退する契約であったらしく、後継をジョン・クリーズ演じるRに譲ります。
そんな彼に用意された引き際は実に印象深く、まるで観客にお別れを言っているように階下に下りていき、
ホントに長年の功労者である彼には相応しい幕引きでした。これはシリーズを代表する名シーンです。

衝撃的だったのは、本作が劇場公開される際、ロンドン市内で彼の伝記が発売され、
そのサイン会を行った帰りに自分で車を運転して、交通事故を起こし、事故死してしまったことで、
これは当時、あまりに衝撃的なニュースで驚かされたことは今でも、よく覚えています。

確かに面白くエキサイティングなアクション・シーンではあったんだけど、
石油のパイプラインを走る爆弾を止めようとするシーンは、チョット破天荒過ぎたなぁ(笑)。
まぁ・・・冒頭のボート・チェイスにしても、やたらと陸地を疾走できる水陸両用というご都合主義もあったんだけど、
それ以上に高地をうねって構成されている石油パイプライン内を高速走行しながら、爆弾の起爆を止めるという
発想が、あまりに現実性に乏しくて、90年代に量産された凡百のアクション映画みたくなったのは残念。

いくらなんでも、あんなスケールではボンドでも不可能でしょ・・・とツッコミたくなってしまいました(苦笑)。
やはり、そういう意味では、かつてのスタント・アクションを基本としていた時代が懐かしいですね。
まぁこの辺りは、ピアース・ブロスナンがボンドに就任してからの大きな変化ですから、仕方ないけれども。。。

全体的に尺が少し長いのが気になるのが玉に瑕(きず)ではありますが、
初の“007シリーズ”の監督に抜擢されたマイケル・アプテッドが試行錯誤しながら撮った作品にしては、
なかなか良く出来たエンターテイメントであったことは、劇場公開当時からもっと評価されても良かったと思う。

それにしても、本作でボンドガールを務めたデニース・リチャーズは伸び悩んだなぁ・・・。
彼女は98年の『ワイルド・シングス』で体当たりな過激な役柄に挑戦してヌードにもなったためか、
一時期は日本の映画ファンでも有名だったので、ある意味で順調にキャリアを積んでいたと思うのですが、
02年に俳優チャーリー・シーンと結婚して、スクリーンの世界にあまり出てこなくなり、伸び悩んでしまいました。

本作は見事な興行収入成績を収めることとなり、
それまで最高の成績であった『007/ゴールデンアイ』を抜いて、過去最高の成績となりました。

但し、やはり興行収入とは別な部分ではありますが...
マイケル・アプテッドが得手とする類いの映画ではないということは、プロダクションも気づいたのでしょうね。
実に健闘していたのですが、残念ながら彼は今のところ、“007シリーズ”を監督したのは本作だけです。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マイケル・アプテッド
製作 マイケル・G・ウィルソン
    バーバラ・ブロッコリ
脚本 ニール・パーヴィス
    ロバート・ウェイド
    ブルース・フィアスティン
撮影 エイドリアン・ビドル
音楽 デビッド・アーノルド
出演 ピアース・ブロスナン
    ソフィー・マルソー
    ロバート・カーライル
    デニース・リチャーズ
    ロビー・コルトレーン
    ジュディ・デンチ
    デスモンド・リュウェリン
    ジョン・クリーズ
    サマンサ・ボンド
    ウルリク・トムセン

1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演女優賞(デニース・リチャーズ) 受賞
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・カップル賞(ピアース・ブロスナン、デニース・リチャーズ) ノミネート