ウルフ・オブ・ウォールストリート(2013年アメリカ)

The Wolf Of Wall Street

いつしか、マーチン・スコセッシはディカプリオとコンビを組むことの方が多くなりましたねぇ。

80年代のバブル期から、世界経済が苦しい状況にあった、
90年代の厳しい時代をウォール街で暗躍した、実在の株式ブローカー、
ジョーダン・ベルフォートの回顧録『ウォール街狂乱日記』を映画化した、過激な伝記映画。

こりゃ、確かに「18禁」になるわけだわ(笑)。
マーチン・スコセッシって、ここまで直接的に過激な描写を伴った映画って、
ほとんど撮ってこなかったと思うのですが、とにかくこの映画は中盤まで、ほぼやりたい放題(笑)。

ハッキリ言って、この映画はコメディ映画なんですね。
そう思って観た方が、ずっと本作を楽しめる気がするし、おそらくマーチン・スコセッシ自身もコメディだと思ってます。

この映画の主人公ジョーダン・ベルフォートを見事に演じきったディカプリオが素晴らしい。
正直言って、このシナリオで書かれたことが何処まで真実なのか、僕にはよく分かりませんけど、
ディカプリオも近年の出演作品の中では出色の芝居と言ってよく、ある意味で彼自身が独自に築いた、
虚栄とも言うべきピカレスク像を武器にして、見事なまでに金にモノを言わせてメチャクチャをやる、
株式ブローカーの中でもアウトローな存在を実に巧みに演じていることに、思わず感心させられる。
ディカプリオ自身どう思っているかは分からないけど、これはハマリ役と言ってもいい気がしますね。

まぁ、この感覚を引き出したのがマーチン・スコセッシという見方もできますが、
正直言って、本作でのマーチン・スコセッシはディカプリオにかなり助けられていると思いますね。
おそらく彼をベルフォート役にキャスティングできなければ、映画はこれだけ面白くなっていなかったでしょうね。
それぐらい本作でのディカプリオの徹底した役作りに始まり、実にしつこいぐらい一貫した芝居に支えられています。

ただ、正直言って、この映画は長すぎる。
確かにジョーダン・ベルフォートの回顧録を語るには、これぐらい当然のように時間はかかるのだろう。

しかし、これだけハチャメチャやりまくった、常識ハズレの世界観を3時間に渡って見せられても、
かなり体力が必要な内容になっていることに加えて、感覚的に麻痺してくるあたりがネックかな。
ジョーダン・ベルフォート自身も、最初は「これ以上はやらない」という気持ちはあったのだろうけど、
おそらく「チョットぐらいなら仕方ない・・・」とか、そういうチョットした甘さが足かせになって、
次第に次から次へと彼の中での線引きが緩くなってしまい、行き着いた果てはヤク中の違法ブローカー。

彼の感覚が麻痺して、こうしてズルズルと当初決めていた境界線を
簡単に超えるようになってしまったのと同じように、映画の冒頭からまるでサブリミナル効果を狙ったように、
文字通り5分置きぐらいの感覚で、濡れ場の連続を少しずつ見せられることを繰り返されたり、
ドラッグを吸引して、完全にディカプリオがラリったような姿を見せられ続けてしまっては、
さすがに観客の立場からしても、どことなく感覚が麻痺したかのように鈍くなってしまうんですよねぇ。

そのせいか、映画の後半に入ってからは、ちっとやそっとのことでは、もう驚かない(笑)。

別に映画の冒頭では、中学生ライクな感覚だったとまでは言いませんが(笑)、
これだけハチャメチャをやったジョーダン・ベルフォートの生きざまを、ほぼ隠すことなく堂々と描けば、
さすがに「(出演者たちも)よくやったなぁ、これ・・・」と思っていたもんですが、こういう感覚は後半はもう無い(笑)。

そのせいか、映画の尺の長さも、かえって気になってしまったなぁ・・・。
正直言って、映画の途中は結構、割愛できそうなエピソードはあるんですよねぇ。
マーチン・スコセッシの監督作品と言えば、何と言えない切れ味があるのが多いんですが、
ここ数年で彼が撮っている映画は、どちらかと言えば、冗長な傾向にあるのが気になっているんですよねぇ。

個人的には、もっとスピード感あって、エキサイティングな内容の映画になっていることを期待したのですが、
どこか映画は全体的に緩い感じで進んでいき、冗長さもあってか、どちらかと言えば、中ダルみしてしまう。
僕はマーチン・スコセッシの力量から言えば、もっと上手く仕上げることができた企画だと思うんですよねぇ。

とは言え、コメディ映画として魅力がないわけではない。
ブラック・コメディと捉えればかなり楽しめる映画ではあるし、バブル期に生きた人なら、より楽しめるかもしれません。

収入ゼロの文無しから、やがては自ら会社経営者となり、年収49億という
文字通りの億万長者となったジョーダン・ベルフォート本人は、実は映画のクライマックス、
ニュージーランドで開かれているとされるセミナーで、司会者を演じているのが彼、張本人なのです。

残念ながら本作は、そこまで高い評価を得ることができず、
マーチン・スコセッシの監督作品としてはオスカー・ノミネーションを受けたものの、
作品賞はじめ5部門でノミネートされながらも無冠で終わってしまいました。

正直言って、そうなった理由は分かる気がするんだよなぁ〜(苦笑)。
面白い映画ではあるんだけど、もっとエンターテイメント性ある内容にはできたと思うし、
マーチン・スコセッシのいつもの監督作品と比較すると、映画のテンポも良くない気がしてなりません。
決して悪い出来の映画だとは思わないけれども、マーチン・スコセッシなら、もっと良く出来たでしょうね。

そういう意味では、全体的に一つ一つの描写がステレオタイプになり過ぎているかなぁ。
実際にジョーダン・ベルフォートがどういう世界で生きていたのかは知りませんが、
主人公の狂気じみた遊びや仕事の模様を、敢えて過剰に描きたいという意図はあったのでしょうが、
いささか本作はそればっかりに注力して、肝心な本来、訴求すべき部分は弱くなってしまったかも。

そのせいか、意味深長なラストシーンにしてもチョット弱い。

映画の最後に、服役を終えてニュージーランドでゲスト・スピーカーとして招待され、
とある講演会で会場の人々に「このペンをオレに売れ!」という課題を叩きつけ、
ある意味でその会場で教祖のような存在に映るような映画のクライマックスなのですが、
このラストはもっと観客の心に強く訴求するものが感じられるラストにしなければならなかったと思うんですよね。

まぁ、とりあえずマーチン・スコセッシがまだ元気な映画監督であることは証明できましたが、
本来的にはもっともっと質の高い、訴求力のある映画を撮れる、ディレクターのはずなんだけどなぁ・・・。

(上映時間179分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[R−18+]

監督 マーチン・スコセッシ
製作 マーチン・スコセッシ
    レオナルド・ディカプリオ
    リザ・アジズ
    ジョーイ・マクファーランド
    エマ・コスコフ
原作 ジョーダン・ベルフォート
脚本 テレンス・ウィンター
撮影 ロドリゴ・プリエト
編集 セルマ・スクーンメイカー
出演 レオナルド・ディカプリオ
    ジョナ・ヒル
    マーゴット・ロビー
    マシュー・マコノヒー
    ジョン・ファブロー
    カイル・チャンドラー
    ロブ・ライナー
    ジャン・デュジャルダン
    ジョン・バーンサル

2013年度アカデミー作品賞 ノミネート
2013年度アカデミー主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ) ノミネート
2013年度アカデミー助演男優賞(ジョナ・ヒル) ノミネート
2013年度アカデミー監督賞(マーチン・スコセッシ) ノミネート
2013年度アカデミー脚色賞(テレンス・ウィンター) ノミネート
2013年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞脚色賞(テレンス・ウィンター) 受賞
2013年度デンバー映画批評家協会賞脚色賞(テレンス・ウィンター) 受賞
2013年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ) 受賞