ウルフ・オブ・ウォールストリート(2013年アメリカ)

The Wolf Of Wall Street

98年に発生した、ストラットン・オークモント株式会社による証券詐欺と資金洗浄の容疑で逮捕された、
同社の経営者であるジョーダン・ベルフォートのクレージーな日常と仕事ぶりを過激かつブラックに描いた伝記映画。

いやはや、マーチン・スコセッシはスゴいですね。70歳を過ぎて尚、こんなエネルギッシュな映画を撮るなんて、
なかなか出来ない話しだと思うし、日本でも劇場公開時R−18のレイティング指定を受けるくらい、過激な一作だ。

学歴があるわけではないジョーダン・ベルフォートは、22歳の頃に一念発起して、
株の仲買人の資格をとって、投資銀行のLFロスチャイルド社に入社するものの、すぐに“ブラック・マンデー”を迎え、
世界中の株式市場が大混乱。結果としてLFロスチャイルド社は倒産してしまい、ジョーダンは失業してしまいます。

しかし、元来、ウォール街で成り上がることを目標に頑張ってきたことと、
LFロスチャイルド社の上司が優雅にランチしているときに、マスターベーションとコカインを勧められ、
妙にハイテンションに生きる日々を忘れられず、求職するジョーダンはやはり株の仲買人の仕事を探した結果、
誰も見向きしないよう安い不人気株を売りつけては、高い取引手数料をとる冴えない会社に就職することになる。

そこでLFロスチャイルド社で培った巧みなセールストークの技術をいかんなく発揮すると、
すぐにセールス成績はトップになり、信じられない収入を得るようになる。そんなジョーダンの姿に憧れた、
同じマンションに暮らすドニーという男が声をかけてきて、すぐに仕事を辞めて、ジョーダンに弟子入りするというから、
それに驚いたジョーダンは独立して起業し、富裕層を相手にする証券会社に鞍替えして、社員にノウハウを伝授する。
これがストラットン・オークモント株式会社の設立経緯であり、すぐにFBIから不審な金の動きに目をつけられる。

ジョーダンは私生活では最初の妻と別れ、すぐに目移りするかのようにジョーダンが主催するパーティーに
遊びに来ていた美女ナオミに一目惚れし、気付けばすぐにベッドイン。ナオミと再婚して子どもにも恵まれるも、
すっかりコカイン中毒で仕事場でも乱痴気騒ぎに興じることが日課になっていたジョーダンは正気を保てず、
ナオミからも呆れられ、それでも尚、狂った生活を送るジョーダンとドニーたちは抑えが利かなくなっていく・・・。

映画は徹底してダメ人間に墜ちていくジョーダンらの姿を、真正面からストレートに描いており、
老いても尚お盛んなマーチン・スコセッシの本領発揮とばかり、約3時間の上映時間を全編ハイテンションに突っ切る。

元々はレオナルド・ディカプリオが原作である『ウォール街狂乱日記/「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生』を
映画化する権利を買取、内容が内容なだけになかなか映画化にGOがかからず、一旦は製作中止になりかけました。
レオナルド・ディカプリオが00年代以降、最も信頼を置くディレクターであるマーチン・スコセッシに監督を依頼し、
なんとか撮影開始になったらしく、それでも過激な描写を伴った内容のおかげで、賛否が大きく分かれてしまいました。

内容は下品と言えば下品。でも、感覚が麻痺した人間の暴走って、こんなもんだとも思った。
その本能に抑えが利かない状態がどうあるのかについて、迫真に迫った作品として評価されるべき部分はある。

しかし、ディカプリオも躊躇なく、こんなキャラクターを演じ切るなんて、なかなかの怪演だと思う。
ドニーを演じたジョナ・ヒルと、ナオミを演じたマーゴット・ロビーもそれぞれ頑張っていて存在感たっぷりですが、
やっぱり本作はディカプリオの頑張りが光る。特にコカイン中毒が深刻化してからの常軌を逸した姿は狂気そのもの。

しかし、この狂乱の時間が長くって、さすがに3時間近く延々と乱痴気騒ぎを見せられるのは苦痛な人もいるだろう。
そういう意味では体力を要する内容であって、ウンザリしてくるほど人間の欲に忠実に行動する姿を描いていく。
確かに人間の根源を見つめたと言えばそれまでなんだけど、やっぱりこういう欲の塊を剥き出しにする姿を観ると、
やっぱり文明的な生活を送るためには、人間には理性が必要ですね。こんなのばっかりでは、さすがに息が詰まる。

本作も決してつまらない映画だとは思わないし、相応の見応えがある作品なんだけれども、
これだけスラングの応酬で、性欲に忠実に生き、感情も剥き出しにして生きる姿を観ると、少々食傷気味になる。

これを分かってか分からずか、マーチン・スコセッシも敢えて執拗にジョーダンの生きざまを描いていく。
この執拗さこそがマーチン・スコセッシらしさだと感じちゃうのですが、3時間やりたい放題の内容というのも珍しい。
最終的にこの内容で劇場公開をOKしたスタジオもスゴいですわ(笑)。これでも、大胆な編集を強いられたようですが。

実際問題として、コカイン中毒で常用しながら、株の仲買を担ってクライアントの信頼を得るというのは、
相当に難しいことだと思う。あくまでジョーダン自身の原作本なので、どこまで事実に忠実に書いたのかは
僕には判断できませんけど、まぁ・・・相当に経済的に裕福な生活を送っていたのだろうし、なんでも叶えられそうな
気になって周囲を驚かせていたのだろうし、かなりブッ飛んだ人ではあったのだろう。ただ、“盛って”るかもしれない。

それから、スイスに預貯金を逃がしていたジョーダンでしたが、頼りにしていたナオミの叔母が急死し、
多額の預貯金を没収されてしまうのではないかと心配したジョーダンがスイスの銀行に連絡をしたところ、
書類にサインしに来いと言われて、イタリアから大荒れの航海に出るくだりは、チョット余計なエピソードには感じた。
上映時間が3時間もある映画なので、こういう部分を少しずつ削って、もっとタイトな映画にして欲しかったところ。
さすがに映画の途中で、「チョット長いなぁ・・・」と感じた部分があったのは否めないので、もっと編集して欲しかった。

最近はマーチン・スコセッシの監督作のヴォリュームが長くなる傾向にあるので、遠慮なく超大作にしてきた感じ。
しかし、この3時間では途中でギブアップする人も多くいるでしょうね。結果としてブッ飛び過ぎたところがあるかな。

ただ、どうせブッ飛んだ映画なのだからと、突然ラストに説教クサい内容になったり、
感傷的になったりするわけでもなく、服役を終えて尚、前向きに生きようとする姿で映画が終わるのは悪くない。
勿論、過去に犯した罪を反省しているという前提ですが、持ち前のセールストークを武器にニュージーランドで
講演会のゲストスピーカーとして多くの聴衆の前で講演するなんて、彼自身、思ってもいなかった展開だっただろう。

少々、屈折したものも感じましたが、ナオミの叔母がまたクセ者な感じで描かれるのも印象深い。
突如としてジョーダンとの会話が男女の駆け引きのようになり、どこか隠せない色気を匂わせるのも上手い。
こんなシーンを堂々と演じられるのも、ディカプリオだからだろう。これは何気に本作のハイライトだったと思います。

そう、こういうシーンこそが本作のブッ飛んだところであり、ブラック・ユーモアでもあり、屈折したところでもある。
結局、ジョーダンのような狂乱の日常を送る者にしてみれば、何もかもが欲望の対象になってしまうのです。
こんな、ありのまま「狼」を3時間に亘って観続ける覚悟があるのであれば、本作は一見の価値がある作品だと思う。

ちなみに映画の序盤にLFロスチャイルド社の上司役でマシュー・マコノヒーが出演していますが、
てっきり映画の終盤に利いてくるキャラクターかと思っていたのですが、ここだけの登場だったのが正直、予想外。
それでも強いインパクトを残したゲス野郎だったので、このキャラクターをもっと利用しても良かったと思うんですがねぇ。
(まぁ...オファー当初からマシュー・マコノヒーはチョイ役の予定だったのかもしれませんがね・・・)

価値観は多様なものですが、昨今の遵法精神を強く求められる社会にあっては、
ジョーダンのような金儲けのためには何でもアリという生き方は理解されないだろうし、金融業界も変わっただろう。
ただ、少なくとも90年代入る頃までは金さえ有れば、何でも出来るという時代だったでしょうから、こういう生き方を
標榜していた人間は少なからず居たでしょう。しかし、こういう生き方を容認される時代は長続きせず、収監され、
ジョーダンは何もかも失ってしまいました。それでも、彼の特技を“正しく”生かせば、ニーズは多くあるということでしょう。

それが講演会のゲストスピーカーとして招かれることに象徴されているわけで、
「このペンをオレに売ってみろ」と聴衆一人ひとりに問いかけ、全員が困った顔して喋る姿を観ると、
思わずジョーダンならどうセールスするのか気になってしまう。それがジョーダンの大きな武器となる特技なのでしょう。

この特技を“正しく”生かす、というのは実はなかなか容易なことではないと実感してます。
何をもって“正しい”と定義するのか、という問題もありますが...実社会に入ると、「ただ好きなことをやればいい」で
済ませられる人生を歩める人が極僅かで、いろんなしがらみやトラブルを抱えて、色々なことに気を取られますからね。
ジョーダンは欲望がその妨げとなっていたわけで、トーク力を“正しく”生かせていたら、人生が変わっていただろう。

ただね、あくまで株の仲買人という世界だけで考えると、
今はデータ解析の色合いが強い分野になっているだけに、ジョーダンのトーク力が現代でどこまで通じるのかな?
明らかにバブル経済期とは違う時代になっていますし、ジョーダンの生きざま自体が過去の遺物化してる気もします。

ひょっとしたら、ジョーダン本人が現代社会はスゴく生きづらいと、感じ取っているのかもしれませんね。
マーチン・スコセッシもそんなジョーダンのことを皮肉るために、本作のメガホンを取ったという見方もあるかも。

(上映時間179分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[R−18+]

監督 マーチン・スコセッシ
製作 マーチン・スコセッシ
   レオナルド・ディカプリオ
   リザ・アジズ
   ジョーイ・マクファーランド
   エマ・コスコフ
原作 ジョーダン・ベルフォート
脚本 テレンス・ウィンター
撮影 ロドリゴ・プリエト
編集 セルマ・スクーンメイカー
出演 レオナルド・ディカプリオ
   ジョナ・ヒル
   マーゴット・ロビー
   マシュー・マコノヒー
   ジョン・ファブロー
   カイル・チャンドラー
   ロブ・ライナー
   ジャン・デュジャルダン
   ジョン・バーンサル

2013年度アカデミー作品賞 ノミネート
2013年度アカデミー主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ) ノミネート
2013年度アカデミー助演男優賞(ジョナ・ヒル) ノミネート
2013年度アカデミー監督賞(マーチン・スコセッシ) ノミネート
2013年度アカデミー脚色賞(テレンス・ウィンター) ノミネート
2013年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞脚色賞(テレンス・ウィンター) 受賞
2013年度デンバー映画批評家協会賞脚色賞(テレンス・ウィンター) 受賞
2013年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ) 受賞