ウィッカーマン(2006年アメリカ)

The Wicker Man

狂信的な宗教が支配する孤島で、まだ見ぬ自分の娘が生贄の対象となることを知り、
単身で孤島へ乗り込み、行方不明となり生贄の儀式が近づく娘を捜索するオカルト・サスペンス。

73年、カルトSF映画ブーム時に製作され、未だに熱心なファンがいるオリジナルを
ニコラス・ケイジが自費を投じてまで製作を実現させた企画でしたが、ヒットせず終わってしまいました。

まず、女性中心の考え方となり、幼い子供たちは豊作を願うための生贄の対象であったり、
男たちは子作りのための生き物でしかないという、現代社会を拒絶した世界を描いてはいるのですが、
この映画が成功しなかったのは、オリジナルを上回るトンデモ映画だったからという気がします。

“夢オチ”を予感させる作りにしながらも、最終的にはある意味でストレートにストーリーを展開させるという、
ある種、予想外の展開はなかなか良かったのですが(笑)、それでも全体的には失笑をかう感じで情けない。

最もこの映画で強く印象に残るのは、映画の冒頭のトレーラーが突撃してくるシーンだろう。
以降の主人公で単身で島に乗り込んでいくエピソードは、あまり期待をしてはいけません(笑)。
オリジナルの下世話な破廉恥さや、徹底的にカルトな雰囲気ってのは、本作には皆無です。
でも、オリジナルより今回のリメークの方が随分とブッ飛んでいるのは、オリジナルの学芸会のようなノリを
今回実現したエレン・バースティンなど、豪華なキャストが一緒になって再現していることだ。

ハッキリ言って、クライマックスの集会をエレン・バースティンがやってくれるとは思ってもいなかった(笑)。

でも、彼女はよく頑張っているのですが、さすがにオリジナルでクリストファー・リーが披露した、
カリスマ性すら感じさせる、教祖像には及ばず、少し空回りしてしまったような感がどうしても残ります。

監督は『ベティ・サイズモア』のニール・ラビュート。
やっぱり彼は一風変わった視点を持っている映像作家で、従来のハリウッド映画とは違いますね。
特に微妙におかしなシチュエーションを、さも自然な形であるかのように撮ってしまえる要領の良さがポイント。

そんなディレクターだからこそ、映画のクライマックスの“ウィッカーマン”での生贄シーンなんかが、
気味が悪いほどに自然に撮れてしまえるんですね。これは一つの大きな武器だと思います。

それと同時に、映画のラスト3分程度の時間で描かれる後日談は何とも面白かった(笑)。
僕は思わず「オイオイ、“そういう”映画だったのかよ!」とツッコミを入れたくなってしまいましたねぇ。
(ちなみにこのシーンで、さり気なくジェームズ・フランコが出演しています)

確かにオリジナルの『ウィッカーマン』って、一部のカルトSF映画ファン層に熱狂的な支持を得ていたのですが、
とは言え、『ガリア戦記』に書かれているという儀式から想を得た、独創的なフィクションであり、
ましてや如何にも低予算映画といった具合で、映画の出来もそこまで良くはありませんでしたからねぇ。

従って、僕にはニール・ラビュートがどこまで真剣に本作をリメークしようとしていたのか、よく分からないのです。

そういう意味では本作、オリジナルとは別物の映画と考えた方が良さそうです。
オリジナルを知っている人は、(お色気的な意味合いも含めて...)ガッカリさせられてしまうかもしれません。

まぁ・・・あくまで常識的な部分で言えば、
善人が必ず報われるわけではないと言わんばかりの皮肉なストーリー展開があるのは、
如何にもニール・ラビュートらしい毒っ気たっぷりなストーリーテリングと言えて、面白いとは思います。
本作、強いて言えば、この点だけはある程度評価してあげてもいいと思いますね。

シスター・ハニーを演じたリリー・ソビエスキーが久しぶりにインパクトある役どころでしたが、
個人的には彼女が劇中、吐露した「島を出るときは、アタシを連れてって」という台詞が気に入らないなぁ。
この台詞があるおかげで、映画のラストのバーでのシーンの説得力が弱くなってしまった気がする。
(って言うか、逆かな。ラストのバーのシーンがあるから、この台詞が説得力ないのかな?)

とまぁ・・・単発的には凄く良いシーンもあるのですが、
部分的に余計な回り道をしているケースが散見されるせいか、映画が逆に弱くなってしまった面があります。

どうでもいい話しではありますが、この映画、結構、謎の描写が多くて、その真意が気になります。
例えば、しきりに主人公が気にしていた携帯電話の通話状況なんかも、一体何の意味があるのか気になるし、
主人公が最初に島に到着した時に、島民たちが生贄(?)なのか、血を垂れ流すバッグの中身が
一体何なのかも、映画のラストまで明らかにされず、あまりに不可解なままで終わってしまう。

これらは“マクガフィン”の可能性もありますが、
この映画、とにかくこういった不可解な描写が多過ぎて、悪い意味で映画が混乱している気がします。
この辺はもう少しシンプルにして欲しいし、どうせ描くなら、その真意をキチッと描いて欲しい。

ひょっとすると、こういった部分を曖昧に描くことこそがニール・ラビュートに美学だったのかもしれませんが、
いずれにしても本作はこの手の回り道が少々、多過ぎた感があり、勿体ないと思いますね。

それと併せて、オカルトな雰囲気を高揚させるための描き込みが甘かったのも痛かったですね。
やっぱりこの手の映画は、世界観の構築が大きなキーポイントになってくるのは言うまでもありません。
この辺がオリジナルとの映画の出来に於いて、その差が明確に表れてしまったのかもしれません。

世の男性陣には頭が痛い内容の映画かもしれませんが(笑)、
あんまり期待せずに観てみると、予想外の面白さがあるかもしれませんね。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ニール・ラビュート
製作 ニコラス・ケイジ
    ボアズ・デビッドソン
    ランドール・エメット
    ノーム・ゴライトリー
    アヴィ・ラーナー
    ジョン・トンプソン
脚本 ニール・ラビュート
撮影 ポール・サロッシー
編集 ジョエル・プロッチ
音楽 アンジェロ・バダラメンティ
出演 ニコラス・ケイジ
    エレン・バースティン
    ケイト・ビーハン
    フランセス・コンロイ
    モリー・パーカー
    リリー・ソビエスキー
    ダイアン・デラーノ
    アーロン・エッカート
    ジェームズ・フランコ

2006年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
2006年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ニコラス・ケイジ) ノミネート
2006年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(ニール・ラビュート) ノミネート
2006年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・カップル賞(ニコラス・ケイジ) ノミネート
2006年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・リメーク・盗作賞 ノミネート