上海の伯爵夫人(2005年イギリス・アメリカ・フランス・中国合作)

The White Countess

1930年代、戦争の動乱吹き荒れる上海を舞台に、
不慮の事故で愛娘を失い、視力も失った米国人外交官ジャクソンが上海に残り、
彼の長年の夢だったバーを開店させるにあたり、出会ったロシア人女性を雇ったことから、
彼の心が微妙に揺れ動き始める姿を『日の名残り』のジェームズ・アイボリーが描いた大河ロマン。

まず、欧米資本の映画でこの時代のアジアを描いた映画というのは、
それほど数多くはないので、この内容はかなり目新しいものと言っていいと思います。

しかし、あんまりこういう言い方はしたくないのですが...
2時間を超える長編だった割りには、あまり出来が良いとは思えませんでしたねぇ。

映画の冒頭から気になってはいたのですが、
どことなく日本人スタッフだけで撮影したような感じで、良く言えばアジアの空気が出ている。
けれども、個人的にはあんまり好きになれないフィルムの質感で、観終わった後、調べてみてビックリ!

えっ!? これって、クリストファー・ドイルが撮影監督なの?

クリストファー・ドイルと言ったら、香港映画界で活躍していたカメラマンで、
後にハリウッドに渡って成功を収め、最近でも『レディ・イン・ザ・ウォーター』なんかを担当しているのですが、
いくらなんでも、ここまで緩慢な画面は撮らないという、まるで根拠のない確信があったのですが(笑)、
それにしても本作のこのカメラはあまりに勿体ない。映画の雰囲気が高揚しなかったのは、
ハッキリ言って、このカメラにも責任があると僕は思うのです。だからこそ、驚きでしたね。

まぁこのカメラを容認したジェームズ・アイボリーにも当然、責任はあります。
彼の気品を感じさせる演出は悪くないのですが、もっと緊張感ある画面にして欲しい。
あまりに緩慢な画面で、オマケに上映時間も長いものだから、映画の中盤は完全に中ダルみしている。

そして最も致命的だったのは、この映画が何を主張したいのか、まるで分からないこと。
映画が一番フォーカスしたい部分があまりに中途半端なためか、どうにも焦点が合わない。
あれやこれや色々なエピソードに手を付けたせいか、いずれも焦点ボケを起こしちゃってて、
何を一番、観客に観て欲しいのか、よく分からないところが本作にとっては、最もツラいところですね。

おそらくジャクソンが本作の主人公であって、
彼が辛い過去と闘いながら、やや後向きに生きていこうとしていたところ、
ロシア人女性ソフィアと彼女の子供カティアと出会ったことから、前向きな方向へと軌道修正しようとする姿を
描きたいのだと思うのですが、それにはソフィアとの距離を次第に縮めていくまでの描写が極めて甘い。
この映画で描かれただけでは2人が結ばれるには、納得性に欠けると言わざるをえないのです。

こういった点を悟るに、ジェームズ・アイボリーがすっかり低迷してしまった理由が分かる気がします。
映画の肝心な部分を見誤って、余計なところばかりに装飾するから、上手くいっていないことを痛感しますね。

それに、真田 広之演じる“ミスター・マツダ”との会話の中で
ジャクソンが思わず吐露するのですが、長年の夢だったバーを開店させ、繁盛しているにも関わらず、
「ついこの前、何がこの店に欠けているのか気づいたんだ。それは政治的緊張だ」と言う、
この台詞の本意がまるで理解できない。これは脚本にも責任があるけど、これは説明不足だと思う。

戦争の動乱の中、治安が悪いにも関わらず、夜中に営業するバーを開店していながらも、
この店の中に政治的緊張を持ち込みたいなんて、申し訳ないけど、正気の沙汰とは思えない(笑)。

何故かって、そんなことをしたら、営業停止になるどころか、
政治的トラブルや戦禍を自分の店に持ち込むことを容認しているようなものだからです。
ジャクソンが思慮の足らない男だという設定なら分かりますが、仮にも外交官にまでなった男です。
その発想の危険性が彼はよく理解していたはずで、確実に上手くいかないことをよく分かっていたはずです。

劇中、この発想に傾倒してしまうあたりにも、僕はまるで理解できませんでしたね。

ちなみにソフィアを演じたナターシャ・リチャードソンは、
ヴェラを演じたヴァネッサ・レッドグレーブの実の娘で、俳優リーアム・ニーソンの妻でした。
本作でも難しい役どころでしたが、家族に利用されているホステスを気品高く演じており好演と言えますが、
09年にレジャーで訪れていたスキー場で転倒事故で頭部を強打し、数日後に死去してしまいました。
これからも活躍できるだけの実力があっただけに、残念でなりませんね。

まぁそれと、真田 広之はかなり健闘していますね。
『ラスト サムライ』に続いて、国際的な舞台を視野に活動しているだけに、上手かったですね。

企画はそんなに悪くないだけに、勿体ないなぁ。
ジェームズ・アイボリーがもう少し戦争を上手く描けたら、映画は変わっていたでしょうね。
おそらく彼がもっとクローズアップしたかったであろう、恋愛のエピソードについても、
中途半端で不完全燃焼を起こしてしまった映画という感じがします。

どうでもいい話しですが、映画の序盤に登場してきた上海の屋台で、
レイフ・ファインズと真田 広之が食べていたラーメンが美味しそうでしたね。。。

(上映時間135分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジェームズ・アイボリー
製作 イスマイル・マーチャント
脚本 カズオ・イシグロ
撮影 クリストファー・ドイル
編集 ジョン・デビッド・アレン
音楽 リチャード・ロビンズ
出演 レイフ・ファインズ
    ナターシャ・リチャードソン
    ヴァネッサ・レッドグレーブ
    真田 広之
    リン・レッドグレーブ
    アラン・コーデュナー
    マデリーン・ダリー
    マデリーン・ポッター