ニコラス・ケイジのウェザー・マン(2005年アメリカ)

The Weather Man

そこそこ大きな規模で製作、劇場公開されたにも関わらず、
何故か日本では劇場未公開扱いとなってしまった、ある意味で不運なヒューマン・コメディ。

まぁ確かに映画の内容としては、チョット微妙な感じでオフビート感覚のコメディということもあってか、
正直言って、日本人の感性に訴えるものかと言われれば、そこには大きな疑問符が付くとは思う。
ただ、映画の出来はしっかりしたもので、決して悪い出来ではないし、キャスティングもなかなか良いと思う。

どうして本作が劇場未公開という扱いを受けたのか、その理由がよく分かりません。

「人生なんて、クソだ」...
思わず「オイオイ、そんなこと言うなよ」と言いたくもなりますが、
人生に対して否定的かつ後向きなスタンスになる人の気持ちを、この映画は代弁します。
主人公のデイヴはシカゴの地方TV局でお天気コーナーを担当するローカルなキャスター。
彼は名前のせいもあってか、視聴者から小馬鹿にされることが多く、
街では心ない人々からファーストフードを投げつけられることがあり、コートを何度も汚される。

別れた妻との関係は相変わらず修復できず、子供たちとの会話もままならない。
作家だった父からは「ダメ息子」の烙印を押され、この父はリンパ腫に冒され余命いくばくもない。

何をどうやっても上手くいかず、彼は一生懸命やればやるほど、人生はダメになっていく。
そうなれば彼の性格は悪くなる一方で、何もかもが卑屈にしか考えられない。
オマケに運も無くなっていき、やがて周囲との関係も軋轢しか残らなくなっていく・・・。

そこで巡ってきた久しぶりの幸運とも言える、ニューヨークのテレビ局でのお天気キャスターのオーディション。
映画はデイヴが病気になった父と、非行の前兆が見られる娘を連れてニューヨークへ向かう姿を描いています。

監督は『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのゴア・ヴァービンスキー。
元々、彼は01年に『ザ・メキシカン』を撮ったり、独特な感性を持った映画を手掛けていますが、
本作でもそんな独特な感性が活かされていますね。おそらく好きな人には、たまらないムードでしょうね。

この映画の“ユルさ”を象徴するシーンでもありますが、
かなりブラックな要素が全編にわたって存在するのは、映画にとって大きなアクセントとなっていますね。

例えば映画の序盤で、子供を別れた妻の家へ送りに行ったシーンで、
せっかく久しぶりに笑顔で別れた妻と会話を交わしたにも関わらず、よっぽどこのことが嬉しかったのか、
デイヴが何故か足元にあった雪をかき集め、家に入ろうとする彼女に向かって雪球を投げるシーンが面白かった。

このデイヴ、なんでこんな余計な行動をとりたがるのかよく分かりませんが、
本作の序盤ではそんな彼の性格の問題点が次から次へと列挙されていきます。
映画としては必要な描写だったとは言え、敢えて苦言を言えば、この序盤がチョット退屈かな。
もっと上手くエピソードを紹介する術はあったと思うのですが、ダラダラしてる印象がどうしても拭えません。
まぁこのダラダラ感が映画の調子を象徴したかったのでしょうが、完全に映画のペースになり切れていません。

このダラダラ感が映画のペースとしてフィットし切れなかったのは、
映画の後半でこの感覚を活かし切れなかったのが大きいと思いますね。
それは端的に言えば、この映画、最後まで観通して感じるのは、何を主張したいのかよく分からないのです。
安易なストーリー展開にしなかったのは悪くない一方で、もっと訴求するものが欲しい。
特に主人公がニューヨークへ活動の場を移してからの処理がイマイチで、映画のバランスを失った感じだ。

ここで中途半端になってしまったがために、映画としての明確な主張が顕在化せず、
最終的に何が主張したかったのかよく分からない結果を招き、観客に訴求するものが出てこない。

この終盤の処理がもっと上手ければ、映画の前半のダラダラ感は活きてきただろうし、
映画の主張もハッキリして、ダラダラ感も映画のペースとして息づいたと思う。

主人公の息子を演じたニコラス・ホルトって、何処かで観たことがあるなぁと思っていたら、
彼は02年の『アバウト・ア・ボーイ』でヒュー・グラントと共演していた男の子ですね。
もうすっかり成長していて、かなり体型的にもスリムになっていました。

ちなみに本作の中で夫婦生活の破綻が決定的になった日として、
デイヴが買い物でタルタルソースを買い忘れたというエピソードがありましたけど、
得てして大きな出来事ではないにしろ、日常のああいった小さな出来事の蓄積はやがて大きな“芽”となる。
デイヴも注意散漫な男で、妻が危惧していた通りタルタルソースを買い忘れるわけで、
そんな彼が店へと向かう途中で、タルタルソースの存在を忘れていく過程が面白かったですね。
確かに僕も注意散漫な男ですから、街歩いてる時の脳内って、あんな感じだわ(笑)。

それにしても、街歩いてたらファースト・フードを投げつけられるなんて、あんまりな話しですね。
僕がやられたら、ほぼ間違いなく遅い足を使って、追いかけて投げ返してやります。
デイヴは天気予報士ではなく、あくまで天気を原稿通り解説するだけですからね。
如何にメディアの力が肥大化し、人々の日常生活に強い影響を与えているかが実感できます。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ゴア・ヴァービンスキー
製作 トッド・ブラック
    ジェイソン・ブルメンタル
    スティーブ・ティッシュ
脚本 スティーブ・コンラッド
撮影 フェドン・パパマイケル
編集 クレイグ・ウッド
音楽 ハンス・ジマー
    ジェームズ・S・レヴィン
出演 ニコラス・ケイジ
    マイケル・ケイン
    ホープ・デービス
    ニコラス・ホルト
    ギル・ベローズ
    ジェメンヌ・デ・ラ・ペーニャ
    マイケル・リスポリ