誘拐犯(2000年アメリカ)

The Way Of The Gun

うーーーん...これはチョット、キビしいなぁ。。。

『ユージュアル・サスペクツ』の脚本家として有名になったクリストファー・マックァリーが
初めてメガホンを取ったアクション映画で、激しい銃撃戦で話題となった作品。

映画は代理母出産を選択し、大富豪夫妻の子を身ごもった女性が
アウトロー二人が起こした身代金目的の誘拐事件に巻き込まれ、更に陣痛が襲ってくるという
壮絶な体験をしながらも、大富豪夫婦によって雇われた追っ手たちは女性の命ではなく、
産まれてくる赤ん坊の命を最優先にして、女性は死んでも構わないとする様子を描いています。

映画のクライマックスは、まるで『明日に向って撃て!』みたいなロケーションでの
銃撃戦となるのですが、このクライマックスでのガン・ファイトは確かに迫力満点で、
ライアン・フィリップ演じるパーカーが勢いに身を任せて、弾丸を交わしながら飛び込んだ、
空の池の中に割れたビール瓶の破片が大量に飛散していて、腕にガラス片が刺さりまくり、
思わず悲鳴を上げるなんてシーンも、観る者にはかなり直接的な痛みとして伝わってくる。

まぁこれだけでも映画の映像表現としては、よくやったとは思うのですが、
もう一つこの映画で残念だったのは、幾つも伏線を張っているにも関わらず、
結局、何一つ活かせなかったところで、意味ありげに描く作り手のスタンスが嫌味に見えたところですね。

『ユージュアル・サスペクツ』のラストのドンデン返しもあったものですから、
おそらく多くの観客が本作のラストにも「何かあるのではないか?」と考えを巡らせたと思うのですが、
本作でも色々と伏線を張っているにも関わらず、あまりそれらを活かせておりません。
まぁそれはそれでいいのですが、僕はこの映画の場合、そもそも伏線を張るのに一生懸命にならずに、
素直にストレートに映画を撮った方が良かったと思うんですよね。映画の焦点がブレてる気がします。

こういった路線に走ってしまったのは、クリストファー・マックァリーが完全に策に溺れてしまい、
本作がホントは描くべきポイントがボケてしまったように思うんですよね。これはホントにつまらないミスです。

が、但し、シチュエーションの上手さはあると思う。
例えば、映画の中盤にあった妊婦を人質に路地裏に逃げ込んだ車を、
2人の追っ手が追い、アウトローを銃撃しようと狙うシーンでは緊張感が高く、実に良いシーンだ。

ホントはこの良さをクライマックスまで持続させて欲しかったのですが、
この映画の物足りなかったところは、アクション以外のパートになると、登場人物の会話で伏線を張ることに
一生懸命になってしまい、映画の良さが薄まってしまうあたりで、映画の焦点がボケてしまうところだ。

あと、欲を言えば、銃撃戦をメインにした映画であるならば、
「撃つ美学」に注力するのではなく、「撃たれる美学」に注力して欲しかったですね。
かつてサム・ペキンパーも「撃たれる美学」を表現したように、これは是非、描いて欲しかった点ですね。
(正直、僕はガン・ファイトのインパクトの強さは、この「撃たれる美学」で決まると思ってる)

個人的にはもう少し、内容を絞って、映画全体をコンパクトにして欲しかったですね。
正直言って、この内容でほぼ2時間になってしまうというのは、長過ぎるような気がしますね。
これらは伏線張るのに必死だった、中盤でのエピソードを割愛すれば、解消できたはずなんです。

映画の前半でも、アウトロー2人がホモセクシャルな関係であることを
執拗に匂わせているのですが、これが映画の最後まで全く活きないあたりを見るに、
まるで時間の無駄で、単に時間稼ぎをしただけだったような気がしますね。
これがコメディ映画だというなら理解できるんです。そういうくだらないやり取りも、映画の魅力にできるから。
ただ、最終的に2時間もある映画で、その尺の長さに見合わない内容と思えてしまう以上、
この前半のホモセクシャルな関係を匂わす“遊び”も、時間の無駄としか思えないのですよね。

そういえば、地味に本作でジェフリー・ルイスとジュリエット・ルイスの親子共演が実現してます。
親父のジェフリー・ルイスはモーテルに警察がやって来て、大富豪に雇われた追っ手が妊婦を匿おうとする
ところに割って入っていって、「ついて行かない方がいい」と言う老人役で出演しており、
娘のジュリエット・ルイスは、その「ついて行かない方がいい」と言われる妊婦の役でした。

特にジュリエット・ルイスは帝王切開しなければならない状況に陥る妊婦役で、
映画のクライマックスが近づくにつれて、陣痛が激しくなってくるようですが、
見事なまでの絶叫演技で、これは随分と気合の入った芝居で、間違いなく本作で一番の熱演だろう(笑)。

本作が公開された頃は、丁度、『トラフィック』でベニチオ・デル・トロが日本でも注目されていた頃だったので、
本作も話題となっていたように記憶してますが、今となってはそんなフィーバーがウソのようですね(苦笑)。
やはり日本に於ける映画産業の勢いが、この10年間でも明らかに衰退しているのが如実に感じられます。

ロシアン・ルーレットを自分でやるほど暇を持て余していた、
ベテラン殺し屋を演じたジェームズ・カーンも存在感が薄くて、なんだか勿体なかったなぁ。
本来的に彼ならば、もっともっと強烈な存在感をアピールできると思うのですが、
何だか見せ場を与えられることなく終わってしまった感じで、凄く勿体ない感じがしましたけどね。。。

あぁ、そうそう。随分と“痛みを伴うシーン”が多いため、
視覚的に血生臭い映画が苦手な人には、あまり強くオススメできませんね。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 クリストファー・マックァリー
製作 ケネス・コーキン
脚本 クリストファー・マックァリー
撮影 ディック・ホープ
音楽 ジョー・クレーマー
出演 ライアン・フィリップ
    ベニチオ・デル・トロ
    ジュリエット・ルイス
    ジェームズ・カーン
    タイ・ディックス
    ニッキー・カット
    スコット・ウィルソン
    ジェフリー・ルイス